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ブラック労働コメントの遠藤市議、実は質問自体が違う件

石渡嶺司大学ジャーナリスト

常総市議の質問が炎上騒ぎに

大学生に、働き方やネットリテラシーを意識してほしいと考える石渡です。

今年9月、水害被害にあった常総市の市議一般質問がタダ働き(ブラック労働)を推奨しているではないか、として、炎上してしまいました。

元は、12月4日の常総市議会における遠藤章江・市議の一般質問とその答弁について、翌日5日に毎日新聞(茨城県版)が記事にしたことです。

市職員、9月分給与100万円超も 水害対応で、残業最高342時間 /茨城

常総市は4日、関東・東北豪雨への対応で残業し、9月分の給与が100万円を超えた職員が十数人いたことを明らかにした。水害が発生した9月10〜30日までの残業時間は最高で342時間だった。市議会で遠藤章江氏の一般質問に答え、傍聴席の市民から大きなため息が出た。

市側の答弁によると、勤務可能な全492人の同期間の平均残業時間は139時間だった。給与100万円以上は主に係長で、部長らには管理職特別勤務手当を平均で11万9000円支給。残業代と手当を合計すると1億3000万円に達するという。

遠藤氏は「もらう権利はあるが、全国から来たボランティアが無償で働いている中、市職員が多額の給与をもらうことに市民から疑問の声が上がっている」と指摘。給与が高額にならないよう、災害時の特別給与体系の創設を求めた。岡田健二・市総務部長は「全国の自治体の例を調べ、国とも協議したい」と検討する考えを明からにした。【去石信一】

出典:毎日新聞2015年12月5日地方版

「もらう権利はあるが、全国から来たボランティアが無償で働いている中、市職員が多額の給与をもらうことに市民から疑問の声が上がっている」

この遠藤市議の一般質問だけ見ると、水害被害後の市職員が残業代をもらうのはおかしい、とも読めてしまいます。

その比較としてボランティアを出していますし。

これで、ネットでは炎上してしまい、遠藤市議のブログには批判コメントが殺到します。

批判の中には「ボランティアが『働く』という言い方自体がおかしい」というものもありました。

脊髄反射的な批判が殺到し、遠藤市議もさぞご心労のことと思いました。

遠藤市議の質問はどうだったか、書き起こしてみた

風向きが変わるのは、12月8日、4日の一般質問の動画が常総市議会サイトに掲載されたあたりからです。

これで、遠藤市議の一般質問が、公務員のブラック労働を推奨するものではなかったことが明らかになります。

【該当部分・書き起こし】

●遠藤議員

続いて2番目の質問を致します。災害時災害後の職員の人事配置、労務対策、災害時の給与支給についてお答えをして頂きたいと思います。

●議長

総務部長

●総務部長

お早うございます。遠藤章江議員の2点目の質問、災害時災害後の職員の人事配置、労務対策、災害時の給与支給についてお答え致します。

最初に、災害時災害後の職員の人事配置についてお答え致します。水害発生後、職員は防災計画に基づき、災害の対応をしましたが、今回の災害の規模が大きかった為、災害直後から県外や茨城県職員、及び県内の市町村からの職員の派遣を頂き、各業務を支援して頂く一方で、経験豊富な市役所OBを臨時職員として緊急に雇用した他、県などに派遣している職員、5人いますけども、それを一時的に当市に戻して災害業務に対応してまいりました。

また、災害業務を迅速に対応する為、部、課を超えたプロジェクトチーム、災害廃棄物処理や、避難所の支援ですね…早期開所に向けた避難所支援に当たる対策のプロジェクトチームを設置しております。

次に労務対策につきましては、通常業務に加え、災害対応業務…各職員ともかなりの負担を生じている事もありますので、職員の被災後の心理的な負担の程度を把握するために、筑波大学の協力を得て、ストレスチェックを予定するなど、今後も適正な労務管理に努めて参ります。

最後に災害時の給与支給という事で、災害対応に関する時間外勤務手当の支給額についてですが、概数で、予算額で2億6800万円に対し、9月10月、2か月間で支給した分として合計1億4400万円の支給となっております。

10月以降の避難所勤務につきましては、平日の早朝夜間の勤務は、時差勤務、フレックスを有効に活用し、休日の勤務分については振替休暇扱いにして、時間外勤務手当の抑制に努めております。

以上でございます。

●議長

遠藤章江君

●遠藤議員

ありがとうございました。

実は災害時の職員の残業代というのは常総市に限ったことではなく、色々な地域で必ず問題になることです。

それがやはり1億4400万円だったということで新聞にバンと出まして、やはりこれ市民の間でかなり話題になっているので今回質問させて頂こうと思ってます。

私は9月10日の午前2時40分に市役所に入りまして、呼び出しがかかって、それからずっと9月10日の午後9時まで、皆さんが不眠不休で本当に一所懸命働いている姿も見ておりますので、働いた残業代を当然貰う権利があるという風にも思いますけども、実際、市民の声というのはなかなか厳しいものがあります。

私たち議員に対しても「給与は全部寄付しろ」とか「賞与はカットしろ」とか、必ず市民と対峙するとこういう言葉を投げかけられます。

まあ本当にそれもいたし方のないことだとは思っておりますけども、実際、職員に対しては「やはり残業代はカットした方がいい。貰わないで頑張って欲しい。なぜならばボランティアの方たちは残業代がないじゃないか。ボランティアの方たちは無償で不眠不休で働いているじゃないか。そういう中で市の職員が残業代を貰うのはどうなのか」とこういう厳しい意見もあることは事実です。

ですから私は貰うなということではないですけども、え、やはり今回の災害でどれくらいの人件費がかかっているのか、ということを少し明らかにして頂きたいと思います。

わかる範囲でいいので、お答えいただきたいと思います。今回残業した職員の人数、残業代として支払われた残業代の総額、最長残業時間、一番長く働かれた方の残業時間、時間外手当の平均額、時給にすると今回の残業代どれくらいになるのか、また一月の給与が100万円を超えるような職員がいたのかどうか、また管理職については残業代をどのように手当したのか、以上について、わかる範囲でよろしいですのでお答え下さい。

●議長

人事課長

●人事課長

はい。それでは遠藤議員の質問にお答えします。

まず残業しました職員数につきましては、全職員対応しましたが、育休者療休者おりますので、合計492名となっております。

また、残業代の総額につきましては、9月10日から30日までに限りますが、管理職特別勤務手当を含むと、1億3000万になっております。端数は切っております。

残業の最高時間数につきましては、21日間で342時間の職員がおります。

また、残業の平均時間につきましては、492名の平均になりますが、139.2時間になります。

あと、管理職につきましては、管理職特別勤務手当がございますが、その平均としては118666円になります。

あと100万円以上を超える職員、これは給料と時間外手当の合計になりますが、管理職の方は平均が少なくなりますので、主に主査、県係長の職員になりますが、100万円以上の職員は十数名おります。

以上でございます。

●議長

遠藤章江君

●遠藤議員

ありがとうございました。

今ね、ため息こぼれましたけども、実際100万円超える職員は結構どの自治体の災害の時にも何人もいるんですね。

実際、阪神淡路大震災の時だったと思うんですけど、1600万円くらいの給料を支給するという職員が出たという話もちょっと聞いていおります。

ですから珍しい事ではないのですけども、私心配してるのは……

●議長

静粛にお願いします

●遠藤議員

私、心配しているんですけど職員の健康管理をしっかりしていただかなきゃならないということ、あともう一点はこれ社会保険料の問題なんですね。

今回災害が9月10月と起こってたらいいんですけど、4月5月に起こっていたらどうなるか、そうすると社会保険料というのは4月5月6月の平均給料で決まってくるんですよ。

そうすると、ここの時点で沢山残業してしまって、給料が通常の2倍3倍になってくると、社会保険料、その人が払わないといけない社会保険料が3ヶ月の平均になってくると、ものすごい額になるんですよ。

そうすると一年間職員の方の生活を圧迫する事になる。

ですから逆に言うと、災害時の残業代が多かった、多くもらったのが今の時期で良かったなと思うんですね。

4月5月6月であれば、1年間社会保険料、何万もね、給料から、普通の基本給が低いなりに何万も払わないといけなくなる、こういう事になります。

私は今、給料がすごく増えてしまった職員がいたという事でため息がでました。それも受け止めなくてはならない。

ですから逆にどうでしょう、選挙の時に行うような特別手当制にして、災害時の特別な給与体系、今後早急に検討していく必要があるんじゃないかと思うんですけども、これについて、今後どのように復興していくのか、お考えがあればお聞かせ願いたいと思います。

●議長

総務部長

●総務部長

お答えいたします。

ちょっと私その部分詳しくは分かんないですけども、当然全国の自治体等には例がある事とは思いますので、その例を調べることと、組合関係とも協議したいと考えます。

●議長

遠藤章江君

●遠藤議員

ありがとうございました。

やはりあの、市民感情というのは必ずこういう災害時はあります。

ですから本当に公務員というのは、市民のための奉仕者であるというのは、やはり市民の一番の考えであると思いますので、その辺少し考慮して、今後の検討課題にしていただければ幸いです。

記事とは全然違う遠藤市議の質問

いかがでしょうか?

遠藤議員は、公務員のブラック労働を推奨しているわけではありません。

むしろ、不眠不休で対応した職員の健康を気遣っています。それから残業代の多さが社会保険料の急騰につながり、むしろ生活を圧迫することを心配する、そんな質問内容です。

このことがTwitterなどで出ると、今度は毎日新聞を非難する論調が出てきました。

それもそれでどうか、と思います。

ま、遠藤市議が毎日新聞に抗議をする、これはわかります。

しかし、記事の主旨は残業代ですし、まるっきり大外れ、というわけでもありません。

こういう、脊髄反射での批判、どうかと思います。

大学生に期待したいこと

中身をきちんと見ないまま、表面だけで判断する、というのは実に危険です。

脊髄反射での批判をする社会人はどの業界にもいます。

しかし、それはそれとして、これから社会に出ようとする大学生の皆さんは、こうした脊髄反射的な批判がどれほど物事の本質を失うものか、自分が脊髄反射的な批判をすれば、どれだけ自分を損なうのか、この遠藤市議の質問をめぐる炎上騒動から学んでほしいと思う次第です。

なお、遠藤市議の一般質問は、ハザードマップの不備を指摘するなど、なかなか鋭いものがあります。

公務員志望の学生は全部見ることをお勧めします。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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