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「センター試験24泊25日」を変えたい!~一木重夫・小笠原村議インタビュー

石渡嶺司大学ジャーナリスト

センター試験だけで「24泊25日」になる理由

小笠原諸島の父島にある小笠原高校。

ただでさえ、定期船で25時間かかるわけですが。

その定期船が、1月になんと運休。

閑散期ということでドック入りするのですが、たまらないのが小笠原高校のセンター試験受験の生徒。

2日間のセンター試験のために、24泊25日もしなければなりません。

という話を前2回で書きました。

詳しくはこちらをどうぞ。

センター試験で24泊25日!~離島高校生の受験格差を考える

小笠原高校生徒の「センター試験24泊25日」はどうすればいい?

「24泊25日」を変えたい村議

この「24泊25日」、教育権の侵害、とも言えます。

それがおかしい、と改善を訴え続けているのが、一木重夫・小笠原村議。

一木さんのブログがFacebookでシェアされて、私も初めてこの問題を知りました。

今回はこの一木村議にインタビューをしました。

きっかけは母島の「島っ子」受験から

石渡:この問題に取り組むきっかけは何だったのでしょうか?

一木:2012年1月、50km離れた母島に宿泊したとき、宿のオーナーから相談を受けたことがきっかけです。

「高校3年生の子どもがセンター試験を受験するのに、3週間も内地で宿をとらなければいけない。何とかならないのか?」

この島っ子は、センター試験期間中は東北の祖父母に預かってもらいました。

彼はセンター試験後、国立大学を受験して合格しています。

この島っ子はどうにかなりましたが、さすがにまずいということで取り組むことにしました。

2012年2月、東京港区の小笠原海運本社で要望をしました。

要望内容は他の議員みんなに相談した訳ではないので、村議会としての要望ではなく、私の議員としての要望です。

小笠原海運は「代替船がない」

一木:これ以降、毎年のように同じ要望をしていますが、

「実際問題、検討はしているものの代替船が見つからないので、どうにもならない」

というのが、小笠原海運の回答です。

ドック便の時期は観光の閑散期でもあるし、農業や漁業の事も考えると最善の時期であることも理解できます。

石渡:小笠原海運の定期船がダメとなるとどんな方法があるでしょうか?

大学入試センターもゼロ回答

一木:定期船がダメとなると、センター試験を父島で実施できるかどうかです。

そこで、2012年12月、独立行政法人大学入試センターを訪問。小笠原の現状を説明したあと、

「小笠原でセンター試験を受験できるようにならないか?」

と相談をしました。

しかし、小笠原でセンター試験を受験するには様々な課題があるとの返答でした。

理由は3点あります。

1点目に、協力してくれる大学を探すのが困難であること。

試験監督や場所提供は基本的にセンター試験の参加大学が実施しますが、そうした大学があるか、と言えばそうそうあるわけではない、とのことでした。

2点目に、機械に通すマークシートの答案を1週間以内に内地へ確実に運ばなければなりません。

が、定期船が運休している以上、それは困難です。

3点目は、問題を安全に運び、保管する管理体制の課題です。

こちらも定期船が運休している以上、困難です。

そのため、小笠原でセンター試験を受験できるようにするには、かなりハードルが高い事が分かりました。

石渡:大学はひょっとしたら見つかるかもしれませんが…。

問題・答案の輸送や保管については定期船が運休している以上、難しいですね…。

文部科学省担当者は絶句

一木:そこで、私はセンター試験の会場を全国から選ぶことができないか、と相談しました。

今、現役生は東京都内の会場が指定されています。

全国で選ぶことができれば、24泊25日の間に実家や親戚の家に預かってもらうことができます。

そうすれば、経済的にも精神的に負担が少しでも軽減するのではないかと考えました。

大学入試センターの担当者によると、

「その制度はすでに被災地でやっているので、ハードルは低いのではないか。」

と話してくれました。

この話は、文部科学省の職員にも説明しています。

「日本にまだそんな場所があるのですか………」

と大変驚いていました。

ただ、返答は大学入試センターと同じで、

小笠原でのセンター試験開催はハードルが高く、受験会場選択はハードルが低い、とのことでした。

東京都教育委員会は把握していた?

石渡:村役場の幹部の方には相談されたのでしょうか?

一木:2013年1月頃、小笠原村役場の副村長(当時)に相談しました。

副村長は東京都教育委員会の出身で教育畑の方です。

相談の結果、東京都立高校の校長会から大学入試センターに要望書を出す流れを作ろうという話になりました。

副村長が古巣の東京都教育委員会に相談をしてくれました。

その一方、私は小笠原高校に出向いて先生方に今回の件を伝えて、協力を仰いで了解を得ました。

それから数ヶ月後、センター試験の事務処理が落ち着くのを見計らって、校長会から大学入試センターに要望書を提出する見込みになったとの報告を副村長から受けました。

どこかで糸が途切れた!

石渡:これで大きく改善されたのでしょうか?

一木:私もこれで一見落着と思っていました。

しかし、毎年センター時期になっても制度が変わったとの報告を受けていなかったので、

「時間がかかるのかな?」

と思っていました。

昨年(2015年)秋に、今年のセンター試験のニュースが流れたので、私から小笠原高校に聞いてみました。

すると、私が動いた2012年から大きく変わっていないとのこと。

また、当時相談していた先生3人が全員小笠原にいなくなってしまい、経過を知ることができませんでした。

2015年7月に退任された元副村長にも電話で話を聞いてみたのですが、その後の経緯は聞いていないそうです。

2015年からまた動き出す

石渡:どこかで糸が途切れてしまった、ということですね。

一木:はい。

そこで、改めて最初からやり直そうと思って、現在調整をしている最中で、一歩前進する結果が出そうな雰囲気があります。

ブログ記事がものすごいアクセス数になっていることが大きな原因の一つだと思います。

代々木の青少年センター利用を検討

石渡:FacebookやTwitterで代々木にある青少年センター利用を勧める意見が多数ありました。

宿泊できれば経済負担は一般のホテル宿泊よりも減らすことができます。

一木:青少年センターについては、学習会という名目であれば宿泊所として利用することができることが分かりました。

今後、学習会を誰が主宰でやるのかを協議したいと思っています。

高校生への補助制度はすでにあり

石渡:生徒・保護者の費用を一部または全額、補助する制度はあるのでしょうか?

一木:平成23年3月に小笠原村進学助成基金条例をつくり、大学受験の往復の定期船代と数泊分の宿泊代の一部が補助されています。地元企業の杉田建設興業(株)が村に寄付をして、村が運用をしています。

石渡:小笠原村として、全額負担する、というのはいかがでしょうか?

一木:24泊25日の旅費を村税または進学助成基金で負担するというのはとても難しいと思います。

センター試験だけではなく、私立大学や専門学校などの試験でも適用する必要があり、人数も多いので財政的に厳しいばかりか制度を悪用されてしまう可能性もあります。

ふるさと納税の活用は?

石渡:ふるさと納税についてはいかがでしょうか。

返礼品を用意するかどうかは別としても、同制度を活用するのも一つの手、と考えます。

実際に、広島県神石高原町では、「犬の殺処分ゼロ」を掲げるNPO法人への支援を使途の一つとしたところ、

「今年(2015年)4月2日~6月末の第2弾では、目標の5千万円を超える5553万3千円(2763件)」(産経新聞記事)

となりました。

ふるさと納税は、返礼品の豪華さばかり話題になりますが、理念と使途が理解されれば神石高原町のように、相当額を集めることもできそうです。

一木:ふるさと納税の活用はなるほどと思いました。

幸い小笠原村は進学助成基金を条例でつくっており、進学助成補助をしているので、進学助成のためのふるさと寄付を募るのはとても有効だと思います。

次の村議会で村長に提案しようと思いました。

代替船もどうにかしたい

石渡:高校生への補助、ふるさと納税の活用以外ではどんなアイデアがあるでしょうか?

一木:代替船の確保です。

私が移住した頃は、定期船がドック期間中に、小笠原海運の親会社である東海汽船の代替船が就航しており、このような問題は発生していませんでした。

年末、おがさわら丸が故障して、竹芝桟橋を出航後に引き返してきてしまい、数日間島に来られなかったことがあります。

代替船の確保は非常に重要です。

しかし、船にはその能力とは関係なく、航海できる範囲があります。

どんなに大きな船でも沿海航行の免許しかもっていないと、小笠原に来航できません。

小笠原のような外洋に来るためには近海航行の免許が必要です。

そのため、小笠原まで性能的には来航できる船はたくさんあっても、免許を持っていないので代替船を確保できないという現実があります。

今年7月に新造船が就航するので、今の古い定期船を東海汽船等で活用してもらい、小笠原の代替船として活用できれば、このような問題は起きない訳です。

代替船の確保はセンター試験だけでなく、ドック期間中の食料、医療、観光、教育などの島のあらゆる問題を解決してくれます。

次の議会ではドック期間中の代替船確保の課題も取り上げようと思っています。

村議会はどう動く?

石渡:この問題ですが、村議会全体の動きとなっているのでしょうか?

一木:2012年のときも今回も村議会全体の動きにはしておらず、情報の共有もしていないので、今は特に村議会全体の動きはありません。

もし、今の動きがどこかでまた止まるようなことがあれば、村議みんなに説明をして協力してもらい、意見書を村議会で可決してもらって小笠原村としての意志決定をし、国や東京都などに働きかけをしたいと思っています。

他の離島との連携は?

石渡:ネットでの反応を見ると、

「教育権の侵害」

「どうにかできないか」

などの意見が多数でした。

一方で、

「小笠原だけの問題でない」

「他の離島でも前泊が必要なところはあるはず。なぜ、小笠原だけ優遇しなければならないのか」

「うちだって、離島でないのに前泊が必要」

などの意見もありました。

他の地域はともかく、大島、三宅島など同じ東京都の他の離島の議員や教育関係者も、この前泊問題をどうにかしたい、とお考えのはずです。

他の離島の関係者と協議されたことはありますか?

一木:他の離島の関係者とこの問題を話したことはありません。

24泊しなければならない離島は小笠原だけだと思いますので、解決の手段があまりに違いすぎるのかなと思います。

ただ北海道などでは、隣の市の受験会場だと日帰りができるのに、同じ支庁内の受験会場だと3泊しなければならないというような話を聞いたことがあり、悩ましい気持ちはとてもよく理解できます。

解決する手段は違っても、悩みは同じです。

離島、半島、へき地の共通課題として連携することはとても有効だと思います。

石渡:ありがとうございました。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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