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「地元でないと結婚できない!」地方女子が就職で苦悩する理由は結婚にあった?

石渡嶺司大学ジャーナリスト
説明会に参加する女子学生(著者撮影/写真は本文とは関係ありません)

就活と同時に結婚を意識させられる女子学生

「女子就活は今」シリーズ1回目。

今回のテーマは「就活と結婚」です。

男子学生はぼんやり考え、あるいは考えなくても、何の問題もありません。

しかし、女子学生は意識する学生、あるいは意識せざるを得ない学生が多くいます。

それが、就活に悪影響を及ぼすこともあります。ま、自分の本タイトルを使えば「騙される」。

地方の学生を取材していると、女子学生を中心に地元企業にこだわる方が多数います。

それも、就活序盤では首都圏・関西圏を含め、どこでもいい、としていた方が地元企業に転換する、という例もあります。

その理由は他でもない、結婚にありました。

首都圏就活を希望したら親が大反対

熊本の女子学生Aさんは、当初、首都圏のIT業界志望でした。

5年か10年働いて、スキルができたら、今度は地元に転職するつもり、最初はそう話していました。

ところが次に会った時は、地元企業に転換。理由は親でした。

話をしたら、すぐ反対されました。

「結婚できない」というのです。

就職がまだなのに、結婚なんか考えてもいませんでした。

社会人になってから、就職した東京か大阪で相手が見つかればいいし、もしいなくても、地元に戻ってから探せばいい、と思うんです。

そしたら、

「東京・大阪で結婚したら、そこに住むことになる。あんたはうちを捨てる気か」

「東京・大阪の男がこんな田舎に来るわけがない。来たとしても、それだけでよそ者扱いだ」

東京・大阪で働いてから戻ると「傷物」扱い

どれだけ保守的なのか、Aさんはびっくりしてしまいました。

すると、さらにもっと怖い話が出てきたのです。

私が

「東京で相手が見つからないなら、地元で探す。それでいいでしょ」

って、答えたら、なんと言ったと思います?

「5年?10年?それだけ東京や大阪で働いて戻ってきたところで、『傷物』扱いされるだけ。誰も相手にしてくれない」

ですって。

東京なり大阪なりで働いて、そのスキルを活かして地元に戻る。

別に悪い話ではありません。

それがなぜ傷物扱いになるのか、Aさんは理解できませんでした。

「男関係がだらしない」「風俗で働いた」噂も

私だって意味不明ですよ。

そんなの。

でも、私の母は真顔で言うんです。

「一度、東京や大阪で就職してから戻ってきたところで、悪い噂が立てられるだけだ。それで結婚なんかできるわけがない」

悪い噂?

東京や大阪で就職すると、

「男関係がだらしない」

と言われるんだそうです。

風俗で働いていたとか噂を立てられるとも言われました。

一体、どれだけ閉鎖的な社会なのでしょうか?

私も、そんなのバカバカしい、と思ったのですが、母親は譲りません。

最後は

「東京や大阪で就職する気なら、絶縁だ」

とまで言われました。そこまで言われては…

結局、Aさんは東京・大阪での就活を断念。地元企業を探し、そこに就職したのです。

地元の結婚斡旋所でも「都会で遊んだ女は嫌」

このように、地方で、女子学生や女性を取材していると、出てくるのが、就活と結婚の関連性です。

首都圏や関西圏では、ほぼ出てこないのですが、地方では結構出てきます。

それも、Aさんの母親のような「地元で就職しないと結婚できない」説、その根拠が、「悪く言われる」。

冒頭でご紹介した、「男関係がだらしない」以外に、私は以下の話も耳にしました。

「東京(または大阪)で、就職したのに、戻ってきたのは、使い込みをして、いられなくなったから」

「左遷されて居場所がなくなったから。要するに都落ちだ」

「どうも、風俗のアルバイトをやっていたらしい」

「二股、三股をかけていた」

「結婚詐欺で捕まりそうになったから逃げ帰ってきた」

付言しますと、こういう話、全く根拠なく、言われるそうです。

で、一人が言っているだけならまだしも、周囲がひそかに伝えていく結果、仕事がやりづらくなるだけではありません。

地元で結婚相手を探そうにも、見合いでも結婚斡旋所でも、男性やその家族からは、

「あんな遊び女は嫌」

「傷物をうちの息子の相手なんて冗談じゃない」

などと中傷され、結婚できなくなるとか。

これを母親が強く話すため、女子学生は地元にこだわるしかなくなる、という次第。

地方で温度差あり?

改めて、取材を進めると、

「え?そんな地域があるんですか?怖いですね。うちではないなあ」

と驚く否定派と、

「あるある、うちがまさにそうです」

とする肯定派、真っ二つに分かれました。

肯定派

「大阪で就職してから地元に戻った。お見合いをしようとすると、相手から『あんな傷ものは嫌だ』とすぐ断られた」(鹿児島)

「親から似た話を言われた。仕方ないので、特に興味はなかったが、旭化成か、宮崎交通を志望する」(宮崎)

「ムラ社会だから、そういうのはある」(山口)

「結婚できなくなるけど、それでもいいか、と親に言われた」(島根)

否定派

「転出入の多さから、まずあり得ない」(北海道)

「はじめて聞いた」(宮城県)

「『都落ち』くらいは言われるかもしれないが、結婚がどう、という話にはならない」(山口県)

「えっと、いつの時代の話ですか?」(愛媛県)

その他

「仙台や山形、盛岡などの県庁所在地では、聞かない。が、郡部だとゼロではなさそう」(宮城県)

「結婚がどうこうまでは言わないが、何となく実家に残ってくれ、とは言われる」(石川県)

「母親でっち上げ」説も有力?

取材中に、否定派から出たのが、「母親でっち上げ」説です。

「単に子離れできない母親が娘を手元に置いておくために、『結婚できない』と、でっち上げたのでは?」

確かに実態のない話であり、一学生では検証できません。

「でっち上げ、とまでは言いませんが」

と、話してくれたのは、東日本の大学就職課職員。

母親は、古いキャリア観に基づいて娘のキャリアの是非を判断しがちです。

古いキャリア観からすれば、総合職という働き方自体、あり得ないし、まして、それが5年、10年、続いて、しかも転職もできる、ということも理解できない。

そこから、「結婚できない」と話してしまう可能性はあります。

意外な新証言「20年前は男性も同じ」

一方、肯定派では、男性から意外な話が出ました。

西日本出身のキャリアカウンセラーは、地元の大学でなく、首都圏の私大に進学。

首都圏で就職し、15年後に地元に戻りました。

すると、

「風俗の用心棒をやっていた」

「詐欺で捕まりそうになって逃げてきた」

など、根も葉もない話を私は陰でさんざん言われました。

こういう話をするのは、高卒で就職、もしくは地元の大学から地元に就職した人です。

東京や大阪への羨望の裏返しで、当時は少数派だったUターン組の悪い噂を話したがるのです。

似た例として紹介してくれたのが、某地方の連続殺人事件(控訴中)を紹介してくれました。

詳細は控訴中なので、名前は伏せます。

大まかにご説明すると、都市部に一度就職した犯人が地元に戻ると、待っていたのは差別的な待遇でした。

その不満が積もり積もって、殺人にまで行ってしまった、という事件です。

あの犯人の殺人は許されることではありません。

しかし、保守的な風土があの犯人を追い詰めたことは確かです。

私が

「風俗の用心棒をやっていた」

と噂を流されたときのことを思い出しました。

まだまだ言われ続ける?

このカウンセラーによると、今は男子学生/男性社会人はそれほど言われないそうです。

というのも、大学進学率が上がり、しかも、地元以外で就職する学生が増えたからです。

それが、女子学生だと、まだそこまでは多くないから、まだしばらくは言われかねない、と分析しています。

東京や大阪などの大都市圏、それから、人の流動が激しい県だと、結婚できない云々という話は出てきません。

しかし、地方、それも、保守的な県だと、まだまだあります。

結婚できないわけではなく、気遣いの問題?

一方、保守的な県であっても、都市部を中心に結婚できないわけがない、という例もあります。

「最初は『都落ち』だなんだと言われました。でも、仕事で結果を出していれば、そういう話もなくなってきます。仕事で知り合った同じ地元の人と結婚しました」

一度、東京で就職。

その後、中国地方にUターン就職したBさん(30代)は、同時期にUターン就職した同じ30代のCさんとは好対照の結果となりました。

Bさんは、東京から戻ったことをできるだけ隠す、東京からの電話はなるべく小声にする、やり方を変えるときも「東京では~」と強調しない、などかなり気を使いました。

その反面、必要な時は東京から知人を呼び、自分の話を代弁させることで、納得させるようにしていきました。

その結果、同僚や取引先などからも信頼され、同僚の一人と結婚します。

一方、Cさんは、Bさんのほぼ逆でした。

小さなところで反感を買ってしまい、さらに決定打となったのがイベント開催です。

仕事で必要なイベントを開催するとき、東京からも応援を呼んだのですが、それがトラブルになってしまいました。

会社の同僚などはタダで働かせ、東京から応援で呼んだ知人には謝礼を払ったことが判明したのです。

なぜ、そんな差を付けるのか、咎める同僚に対して、Cさんは、

「だって東京から来てくれた人に謝礼を払うのは当然でしょ」

と取り合いません。

これで恨みを買ったCさんは、

「東京をひけらかしている」

と悪評が先行。

それがさらにこじれて、中傷まで飛び交い、結婚どころではなくなってしまいました。

女性総合職の初期と同じ?

Bさんには、1985年に総合職として就職した叔母・Dさんがいました。

いわゆる「総合職1期生」世代です。

実はBさんは大学進学の際、親ともめて、結果、自身が希望する首都圏の大学進学をしていました。

後述しますが、「地方出身→首都圏・関西圏の大学進学」という進路ルートの場合、2000年代でも新卒での就職は一般職としてはほぼ絶望的。

ここ数年でも、かなり厳しい状況です。

そのため、東京の民間企業に総合職として就職するしかありませんでした。

Bさんは大学進学のころからDさんに相談する機会を多く持ち、色々な話をしたそうです。

Uターン就職の際も相談しました。すると、Dさんは、

東京での経験を生かしたかったら、『東京』は意識しないこと。

最初は非合理的と思っても、地元のやり方を引き継ぐこと。

『東京』は切り札として使い時を間違えないこと。

を強く言われました。

不思議に思う姪に、Dさんはこんな話をしました。

女性総合職1期生の大半は男社会の前で疲れ果て、やめていく同僚が次々と出た。

長続きした同僚は少ししかいなかった。

私も、10年で転職したけど、長続きした方。

長続きしたか、しなかったか、その違いは、気遣いとしなやかさなの」

気遣いとしなやかさ?

すぐ辞めていった同僚は、女性を意識し過ぎていた。

男性からすれば、それまでは『職場の花』扱いで低く見ていた『女の子』が総合職だ、何だとチヤホヤされれば面白くない。

しかも、それまでの経験則を無視して

『女の勘』『今は女性の時代だから』

と強調されれば、どう思う?

企業側も育成のノウハウが全くない、手探りだったから、失敗例も山ほどあった。

そんな中、長続きした女性は、男性社員にもちゃんと気遣いをして、女性の権利をことさらに主張しなかった。

と言って、男性社員をおだてるだけではないわ。

女の勘でここぞ、というときは、根回しをして、動いた。

きちんとデータを揃えて、キーマンを説得できれば、ビジネスはちゃんと回るものなの

「でも、それって、男性社員に比べて不公平じゃない?」

そう話す、BさんにDさんはこうも続けました。

法律、人権意識。

そういった面から言えば、確かに不公平でしょうね。

それを当事者に、突きつけても

『だから女はビジネスに向かない』

と言われるだけ。

だったら、最初から不公平という前提で考えた方が楽よ。

それを、ずるい、と見るか、しなやかさがある、と見るかは本人次第ではないかしら?

なぜ、その話を今するのか、聞くと、状況が同じだから、とDさんは答えました。

「あなたがUターン就職したら、女性の同僚はいても、東京出身者は少ないでしょう?

東京出身の転職者だからと、期待されていながら、東京を出し過ぎると、

『偉そうに』『どうせ都落ちでしょ』

などと陰口をたたかれる。

これって、30年前の女性総合職1期生と全く同じ状況なの。

この叔母・Dさんのアドバイスを生かしたBさんと、アドバイスが特になかったCさん。

結果はDさんが話した通りになってしまいました。

地方出身の首都圏・関西圏女子が地元一般職に就職できない理由

さて、先ほど、地方の女子が首都圏・関西圏の大学に進学すると、一般職に就職したくてもかなり厳しく、2000年代以前は絶望的、とご説明しました。

その理由は何か。

実は一般職は内規で、「自宅が企業所在地まで90分圏内」と定める企業が大半だからです。

1980年代以前の女子就職、1990年代から2000年代前半あたりまでは総合職でも、この内規によって泣かされる女子学生が多数いました。

この内規が今は一般職でも生きています。

この「自宅」を「実家」「現住所」とするか、「引越予定地」とするか、で大きく変わってきます。

保守的な企業ほど、「現住所」かつ「実家」であることにこだわります。

こうした企業だと、首都圏・関西圏の女子学生が一般職として就職するのは絶望的。

「実家」だと、まだ就職できる可能性はあります。

1980年代以前では「現住所」かつ「実家」とする企業が大半でした。

特に商社や金融では、その傾向が強かったのです。

企業側の理屈としては、

「実家から通える学生は、親の愛情に囲まれていて好ましい」

「一人暮らしだと、何か事故が起きたときに責任を持てない」

などなど。

前者は今となっては意味不明ですし、後者も、それなら男性だって同じだろう、という話。

ですが、当時は大まじめに言われていました。

では、現代はどうか、と言えば、

「実家が90分圏内にあれば、今は東京や大阪の大学でもまあいいです」

とする企業が大半です。

ただし、と話すのは、某地方企業の採用担当者。

総合職ならまだしも、一般職だと、地元の国立大、女子大などから十分に採用できます。

そういう子たちって、結構、つながりができています。

そこに、わざわざ東京・大阪の大学出身者を入れても、浮くだけじゃないでしょうか。

では、首都圏・関西圏の企業はどうか、と言えば、総合職はまだしも一般職だと、かなり厳しい状況です。

「地方出身で一人暮らしをしている学生は、首都圏にある企業(多くは大手)の一般職採用の対象とならないことが多い現状があります」

と話すのは、東日本のある女子大就職課職員のEさん。

一般職採用は学校推薦という形でお話をいただく場合もかなりあります。

その際、

『実家から90分』

の条件を最初から明らかにしている企業はほとんどありません。

今までの経験から言って、受けに来た学生に伝えている要素が強いです。

今後はどう変わる?今の女子学生はどうすれば?

男子学生に比べると、周回遅れとはいえ、地方でも女子学生の進学率は上がっています。

それに、地域外への大学進学・就職者も増えています。

そもそも、優秀な労働者を確保する、という点で経済が疲弊している地方に、くだらない噂・中傷を流す余裕などないはずです。

学生本人にとっても、先々のキャリアアップなどを考えれば、どう考えても大都市部の企業の方がメリットはあります。

私は、志望企業が首都圏など大都市部にあるなら、そちらを受けることをお勧めします。

今の「結婚できない」説が言われている地方であっても、5年先、10年先に続いているとは思えません。

この「結婚できない」説、総合職に対する親の誤解も相当あるのですが、それはまた別の機会にでも。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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