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学生ツアコン奮戦記~文京学院大・中山道ウォークから「学生主体の教育プログラム」を考えてみた

石渡嶺司大学ジャーナリスト
晴れ渡った中山道を歩く参加者とスタッフ

「学生主体?へー」(棒)から取材

大学ディープ紀行、4回目となる今回、もとは

「学生主体のプログラムなんですよ」

という話からでした。

こういう話を持ち込まれると、私としては、その場をどう取り繕ったものか、色々と考えてしまいます。

たとえて言うならば、

「消防署の方から来た」

などと言い張る、消火器販売の口上を聞いたも同然。

大体は学生主体と言いつつ、教職員がほとんどやっているか、学生の自己満足に終わっているか、学級崩壊ならぬ企画崩壊を起こしているか、いずれか(理由は後述)。

ま、私の知人が進めている教育プログラムは学生主体との看板通り、うまく進んでいますが、数少ない例外でしょう。

※こう書いておけば、知人・友人はみな「お、自分のところの話は悪く書いていないな」と思うはず。学生諸君、これが世渡りというものだよ、うん。

五街道ウォーク、もとは東海道ウォーク

7月某日、文京学院大学キャリアセンター・小泉拓也さんと就活イベントの打ち合わせをした際、

「学生主体のプログラムなんです」

と紹介されたのが、五街道ウォーク。

五街道を歩いて回る、という教育プログラムです。

2年に1回開催し、開催年は8日程度(1日1区として7〜8区)。

学生は一般参加とスタッフ参加に分かれ、一般参加は全日程フルの参加もできます。

が、大半は1日のスポット参加です。

一方、スタッフ参加の学生は全日程ないしは半分程度に参加。

さらに、一般参加ではなくスタッフ参加なので、各区行程を円滑に進めるための準備に1年以上かける、今年(2016年)は旧中山道を中心に、3つの地域の自治体と密に連携し、地域交流をしながら3大学合同で協働にて歩く、とのこと。

繰り返しますが、この時点では、

「学生主体といっても、よくある教育プログラムなんじゃないか」

程度の認識です。

ちょっと形の変わったフィールドワークとか、ゼミ合宿とか。

普段なら丁重にお断りするところですが、

中山道を歩く、というのはなかなか機会がありません。

つまらなければつまらないなりにいいか、と考えて、取材することになりました。

大学ディープ紀行のネタ探しをしていた、というのもありますし。

が、参加してみたら、「つまらなければ」という予想は大きく外れることになります。

高速バスで6時間かけて中津川へ

私が取材するために参加したのは全8区あるうちの4区(8月21日)。

岐阜県恵那市内を回る区となります。

参加は、文京学院大生21人、中京学院大の学生・職員27人、それからスタッフ(文京学院大生と教職員)33人。

合計81人で、それなりの規模です。

前日からの参加、取材経費(言うまでもなく、交通費・宿泊費等は自己負担)をケチって、高速バスに乗ったところ、東京の大雨の影響で渋滞が発生。

取材前から疲れた状態でホテルにチェックイン。

参加者は基本的に前泊、ミーティングに参加するということでロビーからバスに乗ってミーティング会場となる公民館に向かいます。

一般参加者ミーティングの受付。緑Tシャツの学生がスタッフで受付も担当
一般参加者ミーティングの受付。緑Tシャツの学生がスタッフで受付も担当
一般参加者ミーティングの風景。私服多数で緩い感じ
一般参加者ミーティングの風景。私服多数で緩い感じ

参加者ミーティングでは、受付をして(受付担当はスタッフ学生)、そこで記念品のタオル、ウエットティッシュ、団扇が配布されます。

ウエットティッシュは恵那市、団扇は明光義塾のもので、どちらも提供品とのこと。

参加者ミーティングは集合時間、行程の確認、緊急連絡先の伝達などがさくさく進んで30分程度で終了。

ま、どうってことないミーティングです。

参加者ミーティングの緩さが消える

まさか、このどうでもいいミーティングを見るために高速バスに6時間乗ったのか、と考えていると、参加学生が入れ替わります。

今度はスタッフミーティング。

スタッフとなる学生・教職員のみが参加。

すると、雰囲気ががらりと変わりました。

服装が私服か、スタッフを示す緑のTシャツでそろっているか、という違いだけではありません。

進行役の学生が

「では、スタッフミーティングを始めます」

と、進めようとすると、

「ちょっと待って、資料を全員が出してからでないと」

と、職員から待ったがかかります。

先ほどまでの緩い雰囲気はどこへやら。

ピリピリしたムードの中で話が進みます。

スタッフミーティング風景。緑Tシャツ(スタッフ)の学生と教職員だけとなり、真剣そのもの
スタッフミーティング風景。緑Tシャツ(スタッフ)の学生と教職員だけとなり、真剣そのもの

学生「バスとワゴンの配置ですが…」

え、バス?

スタッフ学生の手元を見ると、バス・ワゴンのフローチャートなる資料を発見。

中型バスが2台、それと輸送用ワゴンが2台(他に中京学院大側のバス1台)あるのですが、この5台に乗るスタッフ学生が誰か、バスに参加者を振り分けるのはどうするか。

バス・ワゴンチャート表の一部
バス・ワゴンチャート表の一部

などなど、細かい話をしていると理解するのに、少し時間がかかりました。

どうでもいいし、その場その場で適当に決めればいい……、というわけにはいきません。

10人、20人程度ならそれでもどうにかなるかもしれませんが、この五街道ウォークは大所帯。

私が取材した4区はスタッフ学生も含め81人もいます。

しかも、参加学生は16時までの行程が終了して、そのまま東京に帰る学生、中京学院大との交流会(会場は中京学院大瑞浪キャンパス)に参加する学生、2つに分かれます。

前者はそのまま中京学院大に直行すればいいですし、後者は恵那駅による必要があります。

参加学生を直行組と交流会参加組、混ぜていれば非効率です。

まして、取り違えでもした日には、東京に帰る学生が予定していた電車に間に合わない、ということも起こりえます。

参加者が気持ちよく参加できて、気持ちよく帰れるためには、細かいことも打ち合わせしておく必要があります。

そのため、スタッフの教職員だけでなく学生も真剣そのもの。

なるほど、雰囲気が違うわけです。

学生のまとめ方が甘いと、教職員から、

「そこはどうなの?」

「それで大丈夫?」

などと、ツッコミが入ります。

協賛となる市役所や商工会議所から提供を受けた品の確認、給水スポットの確認、交流会の進行など細かい点を諸々打ち合わせて、20時前に終了。

引き上げる教職員、打ち合わせ続ける学生

これで終わりだ、さあ、スタッフ学生も飲みに行くのだろう。

そう私は考えました。

大学のゼミやフィールドワークなら、よくある話です。

ミーティング終了後も、打ち合わせを続けるスタッフ学生
ミーティング終了後も、打ち合わせを続けるスタッフ学生

ところが、この五街道ウォークはそうではありませんでした。

教職員(と私)は引き上げて居酒屋へご飯を食べに行きました。

が、学生は夕食後も打ち合わせを続けて、遅い学生で22時ごろまでかかったそうです。

区によっては深夜までかかることもあるそうで。

これは、よくある「学生主体のプログラム」ではなく、文字通りのものではないだろうか。

いや、これ、もう旅行会社と同じレベルではなかろうか。

などと、居酒屋で飲みながらちょっと考えました。

朝から気合入るスタッフ学生

翌日、8月21日(日)、7時45分からホテルロビーにてスタッフミーティング開始。

朝のスタッフミーティング
朝のスタッフミーティング

この日の行程は次の通り。

8時15分 ホテル出発(バス)

8時40分 恵那峡到着~中京学院大参加者と合流

9時 ウォーキング(8キロ)

11時30分 喫茶ぱぁとなぁ到着、昼食

12時30分 バス移動~恵那峡

12時40分 遊覧船乗船

14時 バス移動~中山道広重美術館到着、見学

15時 ウォーキング(3キロ)

16時 甚平坂公園到着、解散式

16時10分 バス移動、恵那駅到着(直行組は解散)

17時 バス移動、中居学院大瑞浪キャンパス到着、交流会

19時 交流会終了、バス移動

20時 ホテル到着、解散

さて、うまく行きますかどうか。

参加学生にスタッフ学生は一生懸命

8時前、参加学生の集合時間です。

前日、それに集合前にスタッフ学生がピリピリした雰囲気の中で打ち合わせをしていることなど、参加学生は知る由もありません。

参加者の受付をするスタッフ学生
参加者の受付をするスタッフ学生

私の乗ったバスは、この4区を統括する区長となった猪狩さんが参加学生へのアナウンスも担当。

参加者に行程のアナウンスをする区長の猪狩さん
参加者に行程のアナウンスをする区長の猪狩さん

猪狩「これから行く恵那峡は人工の湖です。福澤諭吉の娘婿、福澤桃介が建設しました。土産物店などに福澤さんのポスターが貼ってあるので気になる方は見てください。ウォーキング中に通る大井ダムですが、下見のとき、結構、高かったことを覚えています。高いところが苦手な方は、気合いでどうにか(車中、爆笑)。大井ダムを横断した後の坂は結構きつく、一番の難所です。前日の雨で滑りやすいので、足元にお気を付けください」

区長の猪狩さんは、おとなしそうなタイプの方です。

声はやや小さいとはいえ、話す内容はバスガイドそのもの。

笑いもしっかりとっていました。

中京学院大生と合流、ウォーキング開始

8時50分、中京学院大生と合流。

オレンジのTシャツが中京学院大生、緑Tシャツは文京学院大生(スタッフ)と分かれています。

ストレッチを入念にしてから、いよいよウォーキング開始。

ウォーキングは、先頭と最後尾にそれぞれスタッフ学生が付きます。

出発してすぐ給水ポイント。

天然記念物傘岩を見学後、森を抜けて、大井ダムへ。

森を抜ける一行。滑りやすい場所もそれなりにあり
森を抜ける一行。滑りやすい場所もそれなりにあり

給水ポイントではゴミもしっかり分別

大井ダムから恵那峡を望んだ後、急坂を登り、給水ポイントに到着。

先回りをしていたワゴンに乗ったスタッフが冷たい飲み物を用意してくれていました。

この日は、最高気温が34度を超えていました。

が、給水ポイントがきちんと設けられていて、熱中症などで気分を悪くする参加者はゼロ。

私も冷たいお茶をもらい、のどを潤しました。

給水ポイントでゴミを分別するスタッフ学生
給水ポイントでゴミを分別するスタッフ学生

感心したのは、給水ポイントのスタッフ学生です。休憩時間が終了すると、ごみを集めて回り、分別までしていました。

話を聞くと、

「こういう給水ポイントも、事前に自治体や公園管理者などにいつ頃、到着してこれくらいの時間を使わせてほしい、と交渉しています。ごみの片づけくらい、当然です」

ゴミの片づけの意識の高さにも感心しましたが、給水ポイントを事前に交渉している、という話も驚きました。

別にキャンプをするとか、長居をするわけでないし、適当でいいんじゃないの?

そう聞くと、

スタッフ学生「いや、80人もいるのでそうもいかないですよ。大学の名誉もかかっていますし、きちんと筋は通さないと」

なんだか、学生と話をしている気がしません。

恵那ハヤシ、遊覧船、広重美術館を回る

恵那ハヤシ。喫茶ぱぁとなぁにて。とても美味!
恵那ハヤシ。喫茶ぱぁとなぁにて。とても美味!

天界苑という観光スポットまで歩き、そこからはバスで恵那名物・恵那ハヤシを出す喫茶店へ移動。

喫茶店内では、それぞれの参加者がまとまらないよう、文京学院側と中京学院側が混ざるように配席。

協同でやるからには、少しでも交流を、というスタッフ学生の意気込みが感じられました。

広重美術館での重ね擦り体験をする参加学生。
広重美術館での重ね擦り体験をする参加学生。

食後は、バスにて中山道広重美術館に移動。

こちらでは、版画の重ね擦り体験が目玉の一つ。

参加者(と私)は楽しんで、それぞれ版画制作にいそしみます。

そんな中、冷静なのが、スタッフ学生。

参加者の力作を預かるスタッフ学生
参加者の力作を預かるスタッフ学生

最後のウォーキング後に渡すように、一度、預かります、とアナウンス。

なるほど、せっかくの力作も、ウォーキング中は、はっきり言って邪魔。

なんかもう、君らのことが旅行会社社員にしか、見えなくなってきたよ。

そう声をかけると、

「参加者の方が楽しんでくれるのが一番です」

「僕らも僕らで楽しんでいますし」

「旅行会社の人たちほど、働いているわけではないです」

なんなんだ、この優等生は。

中山道広重美術館のあとは、最後のウォーキング。

ゴール後は、恵那駅で一度、解散し、中京学院大にて交流会を実施。

20時に解散し、ホテルに戻りました。

日ごろの運動不足がたたった私は当日、すぐ熟睡。

翌日、東京に戻りました。

チェックアウトのとき、たまたま、スタッフ学生のミーティングがあったので、それも見学。

なんでも、一般参加者の満足度は高かった、とのこと。

そりゃあ、そうでしょう。

旅行会社もかくやの大活躍、学生ツアコンといってもいいくらい、頑張っていたのですから。

他大学の「学生主体プログラム」が崩壊する理由

文京学院大に対して、「学生主体」がウソ、というわけではありません。

が、この文京学院大学「五街道ウォーク」がうまく行っている勝因は他でもない教職員の適度な介入です。

私が取材していた限りでは、要所要所で教職員がアドバイスや疑問の投げかけをしていました。

ここで、事情を知らない読者と、教条主義の教職員からは、

「教職員が介入しているなら、学生主体のプログラム、との看板は偽りではないか」

との指摘が出ることでしょう。

確かに、学生主体と言いつつ、結局は教員(または職員)が何でも決めている教育プログラムも多数存在します。

学生主体と言いつつ、学生は教職員の指示に従っているだけ、教職員は学生をいいように使っていい気分でしょうけど、教育効果は全く意味なし、というものも私は結構見てきています。

一方で、教職員の介入が全くない教育プログラムも、私は結構見ています。

この場合、「学生主体は本当」ということで、担当の教職員は、それはそれでいい気分かもしれません。

が、よく言えば「学生による完全運営」と言えますが、悪く言えば、放任・丸投げです。

しかも、組織論を理解していない学生がほとんど。

理解していないがゆえに、リーダー、構成員、それぞれうまく機能せず、学級崩壊ならぬ企画崩壊を起こしてしまっている、というものも私は結構見てきています。

主体が教職員にしろ、学生にしろ、それが本来の目的にあっているなら、私はどちらでもいいと思います。

それから、規模が小さいもの、たとえば大学のゼミであれば、教員側が主体となっているところもありますが、それはそれでいいと思います。

「上から目線」VS「貴様ら動け」で企画倒れ

問題は規模が大きな教育プログラムです。

文字通り、学生主体で、しかも学生が組織論を理解せず、本来の目的を実行できていない、というものが結構あります。

組織論といえば、難しそうですが、実はそんな大した話ではありません。

民間企業では、ピラミッド型にトップがいて、その下に管理職がいて、さらに一般社員がいます。

自治体や医療機関、教育機関だと、ピラミッド型かどうか、など微妙に違いますが、基本は同じ。

命令・指揮系統がはっきりしていますし、もう一点、ミッションのために動く、という目的がはっきりしています。

ところが、サークルや学生団体、それから教育プログラム関連の組織など全員、学生の場合はどうでしょうか。

命令・指揮系統がはっきりしていない組織がどうしても多数を占めてしまいます。

同学年はもちろんのこと、上級生だったとしても、リーダーの学生に対して、

「上から目線で偉そうに命令してうざい」

「自分一人で組織を支えていると思い込んでいる。地球を一人で支えているとでも勘違いしているのでは?」

などなど、嫌われるケースが結構あります。

一方、リーダーとなった学生はリーダーなりに苦悩します。

あれこれ言わないと、成り立たないし、言ったら言ったで嫌われます。

それがさらに進みすぎると、

「貴様ら、のろのろしないで動け!」

「どいつもこいつも責任ばっかり押し付けていい迷惑」

などと言い出してしまいます。

これをお互いに言い合うようになると、相当危険で、最悪の場合、けんか別れしてしまいます。

こういう話、「いまどきの学生は」というわけではなく、昔からよくある話です。

余談ですが、私・石渡が参加していた、とある学生団体(今から20年も前の話)でも、「上から目線」VS「貴様ら動け」という対立がありました。

けんか別れという最悪のパターンには陥りませんでしたが、結構、険悪になったことを今でも覚えています。

ミッション遂行より感情優先

この、ミッション遂行という目的を最優先するかどうか、ここが社会人と学生の大きな違いです。

例えばビール会社なら

「ライバル会社より1ケースでも多く売る」

がミッションです。

ミッションがはっきりしていれば、

「あの課長、偉そうで嫌い」

「主任は仕事をしないで、定時で上がる。仕事の量が私よりも少ないのに、役職手当までもらって不公平だ」

云々というネガティブな感情が上司・同僚や顧客にあったとしても、ミッション遂行のためには、

「それとこれは別」

と、消えてなくなります。

ところが、学生の組織となるとそうはいきません。

「××が嫌い」

「あの委員長、上から目線で偉そう」

「△君は何もしていなくて、私に仕事を押し付けてばかり。そんなの不公平だ」

などと、感情的になると、ミッションの遂行はどこへやら。

学生間で完結するサークルや学生団体なら、それもまあいいでしょう。

一方、学生主体の教育プログラムやインターンシップでは、学生間で完結することはありません。

社会人や民間企業、自治体などが、顧客、ないし交渉相手としてかかわります。

今回の五街道ウィークであれば、顧客は一般参加の学生(一部、OB・OGの社会人も含む)。

交渉相手は自治体、商工会議所、美術館などの観光スポット、飲食店、ホテルなど。

さて、学生のみの組織だと、感情論を優先させてしまいがちです。

中には、感情論優先で、顧客や交渉相手を放り出すということもなくはありません。

この五街道ウォークではそうした話は皆無であり、だからこそ、顧客たる一般参加の学生や交渉相手である自治体職員などは高く評価しています。

もっとも、これは、感情論優先のスタッフ学生が実施前にやめたからだ、とも言えます。

「実は去年、入ってきた1年生30人のうち、1回目の下見(2015年夏)が終わった後、半分が辞めました。アルバイトや講義が忙しい、とする理由が多かったです。実際、月に1回は両キャンパスの教職員を交えた会議。コースの下見は直前のものも含めて3回あります。会議、下見の他にも放課後、授業の空き時間にも部室に集まって作業をするなど、相当忙しいです」(実行委員長の河原君)

ミッション優先、学生はできなくて当たり前?

学生がミッションよりも感情を優先させてしまう、というのは単に若い、幼いから、というだけではありません。

社会人の場合、感情よりもミッション優先にすることで、ちゃんと実利は得られます。

同じ給料でも仕事をこなす量が多ければ、いつかは人事考課で評価されます。

最悪、その組織で評価されなくても、転職によって高く評価されることがあります。

逆に、ミッション遂行をさぼっている、感情を優先させすぎ、となると、人事考課で評価されず、昇給・昇進で大きな差が出てしまいます。

学生組織では、サークルだけでなくインターンシップや教育プログラムでも人事考課で極端に差をつけるということはほぼありません。

となると、

「自分より△君は半分しか仕事をしていないからおかしい」

という感情、言い換えれば、仕事負担の機会について平等を求めるのも無理はありません。

社会人の場合は、仕事負担の機会が不平等でも、人事考課(昇給・昇進)の結果が平等だから、感情を押し殺すことができるのです。

やめた学生からすれば「ブラックバイトと同じ」?

スタッフ学生をやめた学生には取材していません。

が、おそらく、この仕事負担の機会平等を求めてやめた学生が一定数いることは想像できます。

実行委員長の河原君にも、この点を聞いたところ、

「その通りです。先輩学生とのやり取りのこじれからやめたスタッフ学生は確かにいました」

とのこと。

この五街道ウォーク、スタッフ学生のやっていることは旅行会社の社員そのものです。

それも、タイトルにあるツアコンだけではありません。企画運営や広報・宣伝、集客まで全部こなしています。

しかも、開催中は開催中で、参加者のことをあれこれ気遣わなければなりません。

スタッフ学生に聞くと、

「好きで始めたことだし」

「まずは参加者に楽しんでもらいたいです」

など、前向きな答えが返ってきました。

が、途中でスタッフをやめた学生からすれば、

「仕事は大変だし、会議もあるし、それで上から目線であれこれ言われて、それでいて給料もらえるわけでないし」

などなど、文句が出てきそうです。

ひょっとしたら、

「ブラックバイトと変わらないじゃないか」

と言っているかもしれません。

もし、そうだとしたら、ちょっともったいないなあ、と思う次第です。

教職員の介入、なくてもダメ、強すぎてもダメ

この五街道ウォークについては、教職員のアドバイス(言い方を変えれば介入)が絶妙でした。

多すぎず、少なすぎず。

一例を挙げましょう。

私が取材したとき、参加者が道路を横になって歩く場面が多々ありました。

列が縦長になれば先頭にいる区長が注意を呼び掛けても聞こえません。

そこで教職員の一人が他のスタッフ学生に、

「区長任せでなく、みんなも声掛けを手伝おうよ」

と、アドバイス。

すると、一番、頑張ったのが1年生の篠田君です。

笠をかぶって声を大きく出す篠田君の指示に、参加者もだんだんと従うようになりました。

打ち合わせ中の篠田君と区長の猪狩さん
打ち合わせ中の篠田君と区長の猪狩さん

篠田君ほど、声が出なかったスタッフ学生もいます。

教職員に言われて、その場では声掛けをして、あとはしないスタッフ学生もいました。

これが、何度もうるさく言うと、介入が強すぎてしまいます。

この加減が絶妙だった点が印象に残っています。

スタッフ学生は就活でモテる

取材すると、スタッフ学生は、

「就活でこの五街道ウォークの話をすると、面接でも受けて、かなり有利になると先輩から聞きました」

とのこと。

そりゃそうでしょう。

旅行会社の企画担当社員からツアコンまで1人で何役も兼ねるようなもの。

それを学生のうちに経験しているのですから、就活で強くないわけがありません。

体力ある大学だからできる?

この五街道ウォーク、文京学院大は相当お金をかけています。

「下見3回と本開催にかかる交通費、宿泊費、食費。スタッフ学生と教職員の分はすべて大学負担です」(小泉さん)

ということは、ざっと計算しただけでも1000万円は軽く超えています。

文京学院大はかつて文京女子大という女子大でした。

2000年代に入り、女子大が共学化する動きが続いています。

が、私立女子大から共学化は、失敗か、よく言って微減というところ。

広島安芸女子大は2002年に共学化しましたが、それが追い打ちをかけ、翌年、廃校してしまいました。

共学化で成功したといえるのは、武蔵野大、京都橘大、そして、この文京学院大くらいです。

いうなれば、大学業界での勝ち組で、資金も潤沢な大学だからこそできる話、とも言えます。

ケチをつければ「もったいない」

ただ、資金が潤沢な大学ならできて、そうでない大学ならできない、ということはないでしょう。

資金がないなら、ないなりに規模を小さくしてやればいいだけなのですから。

文京学院大のこの五街道ウォーク、いい取り組みと思うのですが、あえてケチをつけるとすれば「もったいない」。

文京学院大は教育プログラムの大きな柱として、この五街道ウォークと、もう一つ、「新・文明の旅」というものがあります。

五街道ウォークと同じ、リレー式(こちらは3年に1回)でユーラシア大陸を横断。

2024年、文京学院100周年のときに北東アジアエリアを回ってゴールする、というものです。

2015年にはバルト3国エリアを回り、次は2018年、中央アジアエリアを回る予定です。

中京学院大との交流会で置いてあった文京学院大の大学生活紹介冊子「ARUKU」を開くと、五街道ウォークは表紙と中ほどで1ページが割かれていました。

ただ、表紙は五街道ウォークに参加して、スタッフ学生のTシャツから、わかる話で、部外者は全く分かりません。

その点、「新・文明の旅」は中ほどで、見開き2ページが使われていました。

どう考えても、目立つのはこちら。

大学サイトでの紹介も、地味といえば地味。

「新・文明の旅」と五街道ウォークが文京学院大の教育プログラムの大きな柱で予算も使っているのであれば、もうちょっと元を取るという意味で宣伝に使ってもいいのではないでしょうか。

次回は日光街道

五街道ウォークは、次回は2018年。回る場所は日光街道です。

「毎回、場所が変わるので、前例踏襲ができません。ホテルから自治体、商工会議所、企業、マスコミ、立ち寄る観光スポットなど全部一から交渉することになります。これも五街道ウィークの特徴です」(小泉さん)

そのとき、新しく入ってくる学生ツアコン、もとい、スタッフ学生がどう頑張るのか。

あるいは、現在のスタッフ学生が先輩として、どう指揮運営をしていくのか、今から2年後が楽しみです。

ゴール後の記念写真。みなさん、お疲れ様でした!
ゴール後の記念写真。みなさん、お疲れ様でした!

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大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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