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週刊朝日の人権感覚は論外

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

「ハシシタ 救世主か衆愚の王か 橋下徹のDNAをさかのぼり本性をあぶり出す」という週刊朝日の記事。

絶対に売り上げに貢献したくないので購入しなかったが、内容は読むことができ、あまりのことに驚いた。

被差別部落出身であるとか、親の職業や行動にさかのぼって、橋下氏がDNAレベルで危険だというのだから。

橋下氏をファシズムという人がいるが、このような報道こそユダヤ人が劣っているというナチスと同じやりかたであり、本当に危険な発想であり、明らかな差別であって背筋が凍る。

私ははっきりいって、橋下氏の政策のほとんどを支持できない。

政治手法も独裁的、人権感覚に欠け、許しがたいことが多々ある。

しかし、それなら、政策や政治家としての行動を堂々と批判すればいい。

どんなに嫌いでも、その政治姿勢に危惧を抱いたとしても、血脈にさかのぼって攻撃し差別を助長する等論外である。

こうした記事をそのまま掲載するなど、最低限の人権感覚が著しく欠如しているとしか思えない。

週刊朝日は連載を中止し、謝罪の意思表示をしている。

http://www.asahi.com/national/update/1019/TKY201210190469.html

ところで、朝日新聞のコメントが呆れる。

「当社は、差別や偏見などの人権侵害をなくす報道姿勢を貫いています。当社から2008年に分社化した朝日新聞出版が編集・発行する「週刊朝日」が今回、連載記事の同和地区などに関する不適切な記述で橋下徹・大阪市長をはじめ、多くの方々にご迷惑をおかけしたことを深刻に受け止めています。」

人権侵害をなくす報道姿勢ですって?

週刊朝日の河畠大四編集長は、「差別を是認したり、助長したりする意図は毛頭ないが」と言っているが、仮に原稿読んで、差別の是認や助長につながるとまったく思わずにスルーして掲載していたとすれば、それこそ言論機関としての資質・人権感覚はどうなのか。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121018/k10015852531000.html

驚いたことに、この間、週刊朝日をかばい、橋下氏を批判したり揶揄する人たちが いて、その人たちの多くが、橋下氏の政策に危機感を募らせる「リベラル」と言われる人たちであることに大変失望した。

絶対にあってはならないことは、誰に対してもあってはならないと思う。

平気で差別を助長する人、そうした企画を取り上げて恥じない人、最低限の人権感覚のない人は、そもそもリベラルと名乗る資格がないし、リベラルとはいわない。

こんな下劣なやりかたでなく、正々堂々と橋下氏の行動を検証・批判する説得力のある言論をこそ期待する。

ジャーナリズムのやることはもっとほかにあるはずだ。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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