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誤認逮捕・その後の補償は?

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

PC遠隔操作事件で、神奈川県警は誤認逮捕を認めて、保護観察処分を受けた少年に謝罪したという。

http://jp.wsj.com/Japan/node_533358

ただ謝罪をすればよいというわけではないだろうから、今後どう補償するかが問題となる。

少年補償法によれば、刑事補償法に準じて拘束された日数に応じて補償がなされる。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H04/H04HO084.html

しかし、保護観察処分は拘束を伴わないわけであるから、処分前の身体拘束だけが補償対象となるにとどまる。

以前、2003年に東京で発生した誤認逮捕事件を担当したことがあるが、この際は警視庁が誤認逮捕の被害に遭った女性の自宅に訪れて謝罪、その後、100万円を東京都が被害者に賠償金として支払うことで示談が成立した。

こちらの請求金額満額であった。

この件は、私と都知事の石原慎太郎氏の間で示談書も取り交わしている。

もちろん大変画期的なことであるが、その時に感じた疑問は「このような不起訴事案・誤認逮捕はやまほどあるというのに、なぜこの事件だけこのような示談になったのか」ということである。

弁護士の活動で誤認逮捕を明らかにし、不起訴に持ち込む事件は多々あるが、警視庁と示談をしたのはこの一件だけである。

私が弁護人として不起訴を勝ち取った事件の中には、被疑者補償という手続により、補償金が認められたケースもあるが、この規程も

拘束一日当たり1000円から12,500円という少額なものであり、さきほどの金100万円とは大きな開きがある。

http://www.kensatsu.go.jp/kanren_hourei/h_higisha.pdf

誤認逮捕という部類ではないものの、昨年、墜落出産により子どもが死産となった件で出産した女性を殺人罪で東京地検が逮捕するという案件があった。この案件もとんでもないえん罪であるから、がんばって不起訴を勝ち取ったのであるが、東京地検はその後、不起訴裁定書すら公開せず、被疑者補償規程に基づく補償も、何の理由も示さないまま行わなかった。

えん罪・誤認逮捕は日々行われているが、たまたま明るみに出て、メディアで騒がれた氷山の一角のような事件のみ、迅速で相当な補償がなされ、そうでない事件はそのまま、謝罪すらない。

誠に恣意的に運用されている、というのが実務家としての率直な感想であり、改善を望む。

もちろん、以前経験した誤認逮捕事件同様、相当な補償がすべての被害者に対してなされるべきである。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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