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日中民間レベルの対話の促進を~中国の深刻な環境汚染と環境NGOの活躍

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
中国環境活動家の王さん

中国で、深刻な環境問題が報道されて久しい。

経済発展を続け、「世界の工場」となっている中国では、工場や激増する自動車から排出されるガスを原因とする大気汚染や、工場の排水等を原因とする水質汚濁、土壌汚染等が、住民の安全・快適な生活を脅かし、全国的に様々な問題を引き起こし、人々の善き環境に生きる権利、健康に生きる権利を脅かしている。

PM2.5や、土壌・水質汚染は広く日本でも報道され、懸念が広がっている。

この点、日本の受けとめ方は、どちらかというと、呆れている、日本にまで汚染が影響して迷惑、というものではないだろうか。

しかし、環境汚染の原因を作り出している中国企業は環境汚染をしながらつくっている製品・部品を、日本企業を始め、外国企業に供給していることが少なくない。多国籍企業のCSRにおける調達先コントロールがきちんと行われていれば、かなり改善できる可能性があるといえる。そして、中国の民間には、こうした問題を改善するために日夜チャレンジを続けている市民社会のリーダーたちがいることも忘れてはならない。その多くが若い世代だ。

人権活動家やNGOの活動が厳しく弾圧されている中国だが、比較的弾圧を受けにくく、かつ活発で変化をもたらしているのが、環境に関わるNGOである。環境悪化は政府にとっても頭痛の種、民間の動きを弾圧している余裕はない。

そんな団体のひとつが環境団体「公衆環境研究中心」である。その活動はとてもクリエイティブでエネルギッシュである。

この団体は、土壌・水質等の汚染の汚染源を特定し、かつ、その汚染源となる工場が部品を納入している世界的大企業の名前も公表する「汚染マップ公表」という手法を採用している。

彼らの団体の活動を紹介した朝日新聞記事はこう伝えている。

同センター(「公衆環境研究中心」)は06年秋、政府から環境基準違反を指摘された企業の名前や具体的な違反内容などを示すホームページ「中国水汚染地図」(www.ipe.org.cn)を開いた。データは04年から06年まで。政府の公開情報を中心に、メディアの報道などを拾った。

所在地・北京市通州区 企業名・永順之舟食品 違反内容・基準を超えて廃水、汚泥の処理も不適切 摘発時期、機関・06年8月、市環境保護総局

地図をクリックするだけで、こうした情報が手に入る。水質汚染だけで5千社近くが違反企業に名を連ね、ほぼ70社は外資系企業。約20社の日系も含む。水汚染に続き、大気汚染の企業リストも作成中だ。

出典:朝日新聞デジタル

記事によれば、名指しされた日本企業の中には、

花王、松下電池、日清食品、スズキ

などもあるという(それぞれ、その後改善した、などと主張)。

アップルに部品を卸していた企業も汚染を垂れ流していたので、アップルも名指しされ、改善を迫られた。

こうして、世界的な大企業に進出先・中国現地での倫理的な企業活動を促し、調達元も含めて環境改善に取り組むことにより、事態の改善を実現しようとしているのだ。

このたび、この「公衆環境研究中心」 のナンバーツーの女性環境活動家で、先進的な取り組みを続けている

王 晶晶氏

を日本に招聘し、大阪と東京でシンポジウムを企画した(10月30日大阪・10月31日・11月1日東京)。

まだ若く、とても魅力的な女性であるが、そのエネルギーはすごい。

中国の先進的な取り組みは、日本の環境問題解決にとっても、また日本企業のCSR・企業進出における倫理を考えるうえでもとても有益だと考えられるし、日本が公害環境裁判を1970年代から経験し、改善を図ってきたとても貴重な経験を伝え、交流することも、中国側にとって有益ではないかと考えている。

何かと国レベルで対立することの多い中国と日本。しかし、中国の中には、人権や環境など深刻な状況のもとで多くの人が苦しんでいて、こうした切実な問題に対してなんとか改善しようと、困難な中で献身的に活動されているNGOなど民間の人たちが少なくない。

特に環境問題については日中が互いに迷惑だと言い合ったりするのではなく、協力し、経験を交流することを通じて、改善を実現しうる課題だといえる。日本企業のCSRの取り組みや、日本との経験交流が状況改善に貢献することも期待される。

日中の民間レベルでのこうした対話・交流をどんどん進めていくことはとても大切だと今だから思っている。

≪王 晶晶氏のご紹介≫

◆中国・北京環境保護局に在籍していたが,中国環境NGO団体「公衆環境研究中心」設立初期に合流し,ナンバー2として,代表者の馬軍氏をサポートして活動。

「公衆環境研究中心」は,主として,水や大気等の汚染調査をし,ウェブ上に「汚染地図」を発表するなど,環境問題に関する情報公開に力を入れている北京の環境NGO団体で,「緑色サプライチェーン・アライアンス」と呼ばれる40余りの環境NGO団体とも連携している。 汚染源となっている工場を公表するのみならず,その工場が製造する部品を仕入れている外資企業など大手メーカー名も公表し,その対応を求めることで,汚染を停止させるという特徴的な手法で活動している。最近ではアップルの下請工場の汚染問題を指摘して注目された。

朝日新聞デジタル版が,この問題に関して団体代表の馬軍氏にインタビューをした記事を配信している。

シンポジウム企画概要は以下のとおりですが、詳細は下記のウェブサイト参照。

http://hrn.or.jp/activity/event/post-233/

企画申込み・取材申し込みはNGOヒューマンライツ・ナウ事務局宛お願いします(連絡先はhttp://hrn.or.jp/から入ってください)。

【1】 大阪会場

日  時/2013年10月30日(水)

午後7時~8時50分

場  所/大阪弁護士会館内(北区西天満1-12-5)       

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【2】 来日記念企画 Activist-α

日  時/2013年10月31日(木)

午後7時~9時

場  所/東京大学 駒場キャンパス 

1号館1-104教室(目黒区駒場3-8-1)

基調講演/王 晶晶氏

パネリスト/阿古智子氏(東京大学准教授)ほか

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【3】 東京会場

日  時/2013年11月1日(金) 

午後7時~9時

場  所/東京大学 駒場キャンパス

1号館1-104教室(目黒区駒場3-8-1)

基調講演/王 晶晶氏

是非、機会があり興味を持たれたら、東京・大阪で開催される企画に参加して対話に加わってほしい。

互いの偏見・誤解などから自由になって、共通の課題解決に向けて話し合えると素晴らしいと思う。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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