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特定秘密保護法案、「首相が第三者機関」というとんでもない「妥協」を許してはいけない。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

自民党、公明党、みんなの党が、秘密保護法案について、

修正協議で妥協した、という報道に接したので、どこかすこしでもまともになったところがあったのか確認してみた。

すると、あまりにも珍妙な妥協案なので、驚いてしまった。

秘密指定、首相が第三者機関的に関与 自公み、修正妥協          2013年11月19日07時02分  朝日新聞 

特定秘密保護法案で、自民、公明両党は18日、みんなの党との修正協議で大筋合意した。閣僚らによる秘密指定に「首相の同意」を求めるみんなの要求に一部応じ、首相が、秘密指定の統一基準を作成し閣議決定する▽有識者に実施状況を毎年報告する▽閣僚に指定などの改善を指示できる――との修正案を新たに提示。みんなも受け入れた。

ただ、与党は法案の根幹部分を譲っておらず、秘密が恣意(しい)的に指定され、国民の「知る権利」が制約される可能性をはらむ法案の問題点は、修正案でも解消していない。

与党は18日、みんなに対し「首相の第三者機関的観点からの関与を明確にする」と修正の趣旨を説明。首相が17日の記者会見で「第三者的仕組みによる適切な運用の確保、政府における一体的な管理運用」に言及したのを受けたとみられる。

出典:朝日新聞

日本の政治家ってみんなこんなに頭が悪いのだろうか。あまりの低レベルに暗澹たる思いだ。これは右とか左とかそういうレベルではない。法律や憲法に関する高校生レベルの理解力もないのではないだろうか。

首相は行政の長であり、行政の責任者である。行政に対する第三者ではあり得ない。

そもそも第三者機関が必要なのは、行政権力の暴走・濫用を防ぐためである。

その歯止めの役割を行政のトップである首相が果たす、というのは内部統制に過ぎず、第三者機関によるコントロールでないことは明確である。

もし企業が大きな不祥事をしたとしよう。そこで第三者機関を設置して、不祥事の検証・再発防止をしようというときに、その第三者機関のトップが企業の社長だったとしたら、みんな呆れてしまい、一斉に非難されることであろう。それと同じような手打ちを、大真面目に、日本の政権与党を含む公党が三党そろってするというのはあまりにも深刻である。

これほど重要な法案をこんな愚かしい議論で通してしまってはならないし、私たちはこんな政治を「仕方ない」と許してしまってはならないと思う。

一方、日本維新の会との修正協議は、もう少しまともなのだろうか。

「第三者機関の設置検討を法案の附則に盛り込むことで合意」したとある。これもあくまで「第三者機関の設置を検討する」と一文書き込むだけであり、将来の検討事項に過ぎず、法案の骨格を変えるものでは全くない。子どもだましだ。与党も与党だが、こんな子どもだましの修正で受け入れてしまう野党もあまりにも腰が引けており、野党としての誠実さ、真剣さに著しく欠けている。

人権や民主主義を危険に晒すことになるこの法案、このようなレベルの低い議論で安易に話しを通してよいはずはない。

小手先の修正では到底この法案の本質を変えることはできない。

国会でも、報道も、また社会も、もっと真剣で実のある議論をしていくべきだと思う。

与野党の修正に茶番・妥協・ごまかしがないか、それを伝えるメディアも物事の本質をきちんと伝えているのかどうか、有権者としては厳しくチェックしていきたい。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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