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ガザ攻撃で民間人が次々に殺されている。なぜイスラエルは虐殺は繰り返すのか。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
AFP通信 最近のガザ空爆の状況

■ 憎悪の連鎖から軍事行動に

イスラエルによるガザ空爆で、罪もない人々の命がどんどん奪われている。

イスラエル当局は、2014年7月8日に「境界防衛」(Protective Edge)作戦を開始し、女性や子どもを含む多数の無辜の民間人を殺害し続けている。

この作戦に先立ち、イスラエルの10代の少年3名の殺害とこれに対する報復とみられるパレスチナの10代の少年への殺害という痛ましい事件が起きた。犯行は、パレスチナ占領地に入植したユダヤ人たちによって行われたとされているが、パレスチナ少年はガソリンを飲まされて生きたまま焼かれたとも伝えられている。

パレスチナ少年の葬儀を契機に抗議活動が発生、憎悪の連鎖が続き、ハマスはロケット砲撃を強化、イスラエルはハマスのロケット砲撃をやめさせるために「境界防衛」(Protective Edge)作戦を開始したとされる。しかし、作戦の結果は、ハマスのロケット砲撃と均衡性を著しく欠いている。

■ 無辜の民間人が殺されている。

2014年7月8日に始まった「境界防衛」(Protective Edge)作戦は、ガザ攻撃をエスカレートさせ、すでに多数の人々を犠牲にした。一番最近の報道では、イスラエル軍は、4日間に及ぶガザ地区への軍事作戦で、イスラム原理主義組織ハマスのロケット弾の発射地点など1000か所を超える空爆を行い、これまでに女性や子どもを含む96人が死亡し、けが人は700人に上ったという。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140712/k10015955341000.html

イスラエル軍による攻撃の対象にはガザの民間人居住地域も含まれており、パレスチナ戦闘員のみに限定して攻撃をすることはほぼ不可能だ。

紛争中でも民間人は保護されなければならず、無辜の市民を攻撃対象としてはならない。民間人居住地区への無差別攻撃は、民間人の死者を出す危険性があるため、許されない。これは、ジュネーブ第四条約をはじめとする国際人道法に基づく、確立されたルールだ。これに反する民間人殺害は戦争犯罪・人道に対する罪に該当する。

こうした国際社会の警告や抗議にもかかわらず、イスラエル軍は無差別攻撃をやめることなく、犠牲を出し続けている。 

イスラエルのネタニヤフ首相は11日、テレビ演説を行い、アメリカのオバマ大統領などと電話で話したことを明らかにしたうえで、「国際社会の圧力で我々を攻撃するテロリストへの空爆をやめることはない」と述べ、数日のうちに空爆の規模をさらに拡大させる方針を示したという。地上部隊の投入の可能性については、「すべての選択肢について準備をしている」と述べ、ハマス側をけん制したという。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140712/k10015955341000.html

イスラエル軍が市民に対する攻撃をさらに激化し、ガザへの地上戦へと発展させることが深刻に懸念される。

■ 1400人を殺害した前回のガザ攻撃の被害を繰り返してはならない。

イスラエルの本格的なガザへの攻撃は、過去には2008年12月から2009年1月まで行われた。

Operation Cast Leadと呼ばれる作戦では、イスラエルは国際社会の抗議に聞く耳を持たず、地上戦にも突入し、犠牲者は1400人にも及んだ。二度とこのような虐殺の被害は繰り返させてはならない。

国際社会は今こそ、事態の悪化とこれ以上の民間人の犠牲を防ぐために行動すべきだ。

国連人権理事会は、直ちに緊急会合を招集し、イスラエル政府に対し、人命の犠牲を発生させている軍事行動の即時停止を求める決議を採択すべきだ。Operation Cast Leadの際は国連人権理事会の緊急会合が開催されて決議が採択され、地上戦の終結に向けて国際社会は動き出した(それでも1400人もの犠牲が出たのだが)。

国連安保理は国連の中で唯一強制権限を有する機関であり、虐殺・地上戦を止めるための決議採択を行い、強いメッセージを送るべきである。

さらに、国連調査団を速やかに発足して、イスラエル軍がパレスチナ市民に対して行った戦争犯罪が疑われるすべての行為を調査すると共に責任者を訴追する準備を進めるべきだ。

私たちヒューマンライツ・ナウはこのことを求める声明を昨夜公表して国連や各国政府、国連人権専門家等に一斉に送付した。

【声明】ヒューマンライツ・ナウはガザにおける 民間人に対する攻撃の即時停止を要請する

http://hrn.or.jp/activity/area/cat69/post-278/

英語版Human Rights Now calls for the immediate cessation of attacks against civilians in the Gaza Strip

http://hrn.or.jp/eng/news/2014/07/11/human-rights-now-calls-for-the-immediate-cessation-of-attacks-against-civilians-in-the-gaza-strip/

■ 不処罰の容認と、ダブルスタンダード

国際社会はパレスチナの無辜の市民が虐殺されるのを長らく容認してきた。占領の歴史は、国際法違反の歴史である。

イスラエルによって明らかな国際法違反が戦後ずっと繰り返され、国際社会は結局これを止めることなく、容認してきたのだ。(参考【提言】イスラエル・パレスチナ間の紛争に関する見解http://hrn.or.jp/activity/topic/post-51/)

安保理は、国連の中で唯一強制権限を有する機関であるが、パレスチナ問題についてはイスラエルがいかなる軍事行動、戦争犯罪・人権侵害を繰り返しても、安保理は機能不全のまま何らの行動もとれずにきた。

例えば、イラクやリビア、スーダンなどの事態については強い強制権限を発動してきた安保理だが、パレスチナについては強い強制権限を発動しない。単に非難するのが関の山だ。まさにダブルスタンダードといわなければならない。

2008年から2009年にかけてのガザ攻撃(Operation Cast Lead)に関しては、国連人権理事会が設置した国連調査団(ゴールドストーン調査団)が、戦争犯罪が行われた可能性が高いとして、イスラエル・ハマスによる責任ある調査と刑事責任の追及がなされなければ、安保理が国際刑事裁判所(ICC)に事態を付託し、国際的に戦争犯罪として調査・訴追すべきだ、と勧告した(国際刑事裁判所(ICC)は2002年に発足、戦争犯罪や人道に対する罪等の国際犯罪を裁く常設の国際裁判所。イスラエルは国際刑事裁判所設置条約を批准していないが、同条約によれば、未批准の国も国連安保理が事態をICC検察官に付託(Refer)すれば、ICCの捜査が開始される)。

ところが、それから5年近くたつが、何らの刑事責任も問われていない。安保理はこの問題についてICC付託に関するアクションを全く起こしていないからだ。イスラエルの後ろ盾となる米国は安保理でイスラエルの立場を悪くする決議には拒否権を発動する。

オバマ政権も、イスラエルの政策に不快感を示しつつ、外交の重要な局面では結局のところまったく無力で、イスラエルの応援団にすぎず、深く失望する。

ヨーロッパ諸国も、ナチス時代の罪の意識のせいか、イスラエルの非道行為について責任追及しない(それとこれとは異なる問題であるのに)。

日本はといえば、対米追従、欧米の様子見で投票行動を決める国なので、イスラエル問題の決議ではたいてい「棄権」を決め込んで、パレスチナの人びとを見殺しにする国際政治に加担している(今後、イスラエルと武器共同開発などを進め、さらに積極的に加担して粋かもしれない)。

こうして、どんな戦争犯罪・虐殺行為をしても、国際的に何の制裁・処罰もされないことをわかっているから、イスラエルはやりたいことをやる。人権侵害を繰り返す。人権侵害の不処罰がさらなる犯罪を助長している。犠牲になるのはいつもパレスチナの子どもや女性等民間人だ。虐殺は繰り返されてきた。私たちは彼らを見殺しにしてきた。

そして日本などいくつかの国は、こうしてイスラエル がさんざんにインフラや建物を破壊し、人々を殺害した後からやってきて、思いやりよろしく人道援助を開始する。破壊と殺戮に抗議をすることなく、スクラップアンドビルドのサイクルの一端を黙々と担い続けているだけだ。

これでは虐殺と不正義をなくならない。こうした構図を根本から変える必要がある。

■ 市民の声でこれ以上の犠牲をやめさせよう。

そんななか、各国政府の重い腰をあげさせ、事態を動かすために鍵を握るのはやはり、人々の声である。

世界のあちこちのイスラエル大使館前で、人びとが抗議の声をあげている。

イスラエルの軍事行動をやめさせるために市民のメッセージを送ろう。

例えば、日本であれば、

駐日イスラエル大使館の連絡先はこちらだ。

http://embassies.gov.il/TOKYO/Pages/default.aspx

米国ホワイトハウスは、市民からの直接のメールを受け付けている。

http://www.whitehouse.gov/contact/write-or-call#write

国連(人権) 緊急アピールはこちら。

http://www.ohchr.org/EN/Issues/Torture/SRTorture/Pages/Appeals.aspx

(拷問や権力による暴力などの人権侵害に関する通報窓口・誰でもメールを送ることが出来るが、英語で送る必要がある。私たちのステートメントを引用していただいても大丈夫です)。

7月17日に、私たちが開催するパレスチナ報告会「軍事占領下のパレスチナ:人権の今」(主催HRN/JVC)では、国連関係の報告とあわせ、現地から緊急帰国するNGOスタッフがガザの現状報告を行う予定だ。

是非参加して、今後できることについて話しあいに加わってほしい。

■これまでの経過について知りたい方、以下も是非参考にしてほしい。■

NHK視点論点「ガザの人道危機 国際社会の役割」https://www.youtube.com/watch?v=d6xzOEjv8C0

【声明】「ガザ紛争:ゴールドストーン勧告の実現報告書に関する共同要請書」http://hrn.or.jp/activity/topic/post-42/

【声明】「ガザ:国連総会、安全保障理事会に今こそ人権侵害の不処罰を克服するために行動を求める」http://hrn.or.jp/activity/topic/post-123/

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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