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政府は平気で嘘をつく~ 集団的自衛権をめぐる政府の一問一答があまりに信用できない。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

集団的自衛権に関する内閣官房のHP

国民から大ブーイングがおきた7月1日の集団的自衛権閣議決定。

その後、政府は、内閣官房のホームページに「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の一問一答」という記事をアップしました。

この「国の存立を・・」という長いタイトルは何かといえば、先日の集団的自衛権行使容認閣議決定のタイトルです。

安倍内閣は、集団的自衛権行使容認に関する世論の反発に「これはまずい」と思ったのか、この一問一答で、国民理解をはかろうと努めているようです。

しかし、これを読むとあまりに論理が破綻し、心にもない嘘に満ち溢れています。詭弁の見本のようなもので、衝撃を受けました。

いくらなんでも、このようななりふり構わぬ詭弁をよく政府が考えたものだ、と思います。

国民に対する最低限の誠実さも、国としての知性・品格も見受けられません。

一問一答で破綻する論理

それでは、この一問一答、みていきましょう。

【問2】 解釈改憲は立憲主義の否定ではないのか?

【答】 今回の閣議決定は、合理的な解釈の限界をこえるいわゆる解釈改憲ではありません。これまでの政府見解の基本的な論理の枠内における合理的なあてはめの結果であり、立憲主義に反するものではありません。

【問3】 なぜ憲法改正しないのか?

【答】 今回の閣議決定は、国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るために必要最小限の自衛の措置をするという政府の憲法解釈の基本的考え方を、何ら変えるものではありません。必ずしも憲法を改正する必要はありません。

【問17】 従来の政府見解を論拠に逆の結論を導き出すのは矛盾ではないか?

【答】 憲法の基本的な考え方は、何ら変更されていません。我が国を取り巻く安全保障

環境がますます厳しくなる中で、他国に対する武力攻撃が我が国の存立を脅かすことも起こり得ます。このような場合に限っては、自衛のための措置として必要最小限の武力の行使が憲法上許されると判断したものです。

⇒  基本的考え方を何ら変えるものではないなんてよく言いきったものです。

違憲だった集団的自衛権行使を合憲とする、重大な変更です。

日本が攻められていないのに、他国の戦争に自ら積極的に介入することを容認するのですから、根本的な変更です。

海外で自衛隊が命を落とすかもしれない、海外で他国の人を殺害するかもしれない、そのような日本の進路にとってとても重大なことを決めながら、このような詭弁で国民をだますのは本当に姑息なやり方としか言いようがありません。

これから他国の戦争に、自ら参戦していく重大な変更をします、と、改革の本質を隠すことなく正々堂々と率直に国民に伝え、憲法改正の国民投票にかけるべきです。この手法はあまりにもひどい、国民を欺くものです。

【問7】 憲法解釈を変え、平和主義を放棄するのか?

【答】 憲法の平和主義を、いささかも変えるものではありません。

【問8】 憲法解釈を変え、専守防衛を放棄するのか?

【答】 今後も専守防衛を堅持していきます。国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを、とことん守っていきます。

【問9】 戦後日本社会の大前提である平和憲法が根底から破壊されるのではないか?

【答】 日本国憲法の基本理念である平和主義は今後とも守り抜いていきます。

平和主義を「いささかも変えない」などと言っていますが、戦争放棄から、他国の紛争に積極的に参戦する国になるのに、どうして平和主義といえるのでしょうか。

また、「今後も専守防衛を堅持していきます。」とは? 「専守防衛を転換した」とさんざん報道されてきたというのに。

集団的自衛権行使は攻められていないのに自ら攻めることであり、日本が攻められたときに防衛することに徹することを意味する「専守防衛」という言葉とは180度異なるものです。

これは法律解釈だけでなく、日本語の通常の意味の解釈を全面的にねじ曲げて歪曲しているものです。

ひとかけらでも知性を持ち合わせた人間であれば、詭弁であることは明白なのに、詭弁と知りながらこのようなことがまかり通る、そのプロセスの中で誰もストップをかけない、こんなことを国がしてもいいのでしょうか。

【問6】 今回の閣議決定は密室で議論されたのではないか?

【答】 これまで、国会では延べ約70名の議員からの質問があり、総理・官房長官の記者会見など、様々な場でたびたび説明し、議論しました。閣議決定は、その上で、自民、公明の連立与党の濃密な協議の結果を受けたものです。

これもひどい。記者会見で記者にレクチャーしたことをもって「国民的議論」といえるはずはありません。

「議論」というのはみんなが参加して議論し、その声が反映されることです。国民も野党も議論・協議の場から明確に排除して勝手に決めたのに、この言い分はないでしょう。

【問10】 徴兵制が採用され、若者が戦地へと送られるのではないか?

【答】 全くの誤解です。例えば、憲法第18条で「何人も(中略)その意に反する苦役に服させられない」と定められているなど、徴兵制は憲法上認められません。

今は「全くの誤解です」などと言っていますが、信用できるでしょうか。

いつ解釈変更するかわかりません。

ご承知のとおり、今年の6月まで集団的自衛権は違憲だったのが7月1日から合憲になったというのです。徴兵制だっていつ合憲になるかわかりません。

また、自民党は、本心では徴兵制を目指しているものと思います。

自民党は2012年に「憲法改正草案」をとりまとめていますが、18条の改正を提案し、 「何人も、その意に反すると否とにかかわらず、社会的又は経済的関係において身体を拘束されない」という条文に変えてしまおうとしています。

この改正案が通れば、軍事的関係における身体拘束は別によいわけですので、徴兵制は認められるわけです。

【問11】 日本が戦争をする国になり、将来、自分達の子供や若者が戦場に行かされるようになるのではないか?

【答】 日本を戦争をする国にはしません。そのためにも、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しくなる中で、国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るために、外交努力により争いを未然に防ぐことを、これまで以上に重視していきます。

【問14】 自衛隊は世界中のどこにでも行って戦うようになるのではないか?

【答】 従来からの「海外派兵は一般に許されない」という原則は全く変わりません。国の存立を全うし、国民を守るための自衛の措置としての武力の行使の「新三要件」により、日本がとり得る措置には自衛のための必要最小限度という歯止めがかかっています。

ほかにも、これに似たような問いと答えが繰り返し並んでいます。

これだけ同じようなQAがあるということは、首相官邸に苦情が寄せられたのではないかと思います。

しかしこうした国民の不安に対して、一問一答はあまりにも不誠実な回答に終始しているとしかいえません。

「海外派兵は一般に許されない」という原則は全く変わりません。」といいますが、海外派兵をするために解釈を変更したわけですよね。

「新三要件」で歯止めがかかっているといってますが、その「新三要件」は一問一答の最後にそのまんま紹介されているだけ、要件についてのまともに説明はひと言もありません。

広範な言葉が並ぶ新三要件の明確な解釈基準も定義も示さずに「最小限度という歯止めがかかっています」というのはあまりにひどい。

【問12】 自衛隊員が、海外で人を殺し、殺されることになるのではないか?

【答】 自衛隊員の任務は、これまでと同様、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるというときに我が国と国民を守ることです。

これでは答えになっていません。安倍首相も質問にまともに答えないとよく批判されていますが、わざわざ一問一答をつくりながら、「海外で人を殺し、殺されるのか」にYes ともNoとも回答しないのです。答えはYesなのですが、よくわからない言葉ではぐらかしています。

よく「子どもだまし」という言葉がありますが、ここまで見てきますと、子どもだって見破ってしまうと思います。

子どもたちは今まさに、政府が自らのやったことをきちんと説明せず、言葉の通常の意味を歪曲してへ理屈をこねて物事を誤魔化す、と言う有様をつぶさに見ていることでしょう。こんなことを子どもたちが見習ってしまったら、子どもの教育上も大変良くありません。そして、大人たちがこんなごまかしで自分を戦争に行かせようとしていると知ったらどうでしょうか。

何が変わったか、が書かれていない。

この一問一答に対する最大の違和感はといえば、閣議決定で変更した政策について何も変わっていないことばかり強調し、「何が変わったのか」をまともに説明していないことです。

通常、国会で法律が改正されたりすると主務官庁がQAを作成し、何が変わったかをきちんと書いて国民に説明、周知徹底するものです。

ところが今回は、「いささかも変わっていない」「何も変えるものではない」などと言うばかりで、何が変わり、国民生活や自衛隊、日本のあり方はどのように変わるのか、まともな説明がないのです。

実際に戦争か平和か、戦争に巻き込まれるか否かは、国民生活や国民の生き方、日本と言う国のあり方に非常に深く影響を与えるものです。

そうしたことについて、国民に正々堂々と説明し、国民的理解を得ようとしないこのような議論の進め方は、最低限の国民に対する説明責任を果たしているといえず、品位や良識にあまりにも欠けるものです。

自分が政治生命をかけてやりたい政策があるのであれば、それを国民に問うこと自体何ら否定しませんが、そのやり方はごまかし、だましであるべきでなく、堂々と問題を提起すべきだと思います。

将来にわたり国民を巻き込むことになる政策を遂行しようとするなら、こんなだましのやり方ではなく、きちんと説明して理解を得て進むのが国政を預かるものの義務ではないでしょうか。

このHPは果たして永久保存版なのか?

「日本を戦争をする国にはしません。」などと言われると少し落ち着く人もいるかもしれません。しかし、これは永久保存版なのか。

防衛庁のホームページ(HP)には、つい最近まで、「集団的自衛権の行使は、憲法上許されないと考えています」との文章が掲載されていたそうで、同省は7月7日にこの文章を削除したそうです。

でも、HPの写真を撮っていた人がいて、それはこちらです。

画像

この件は閣議決定後も削除し忘れていたことで話題になっていましたが、昨日まで憲法上許されないと政府が正式な広報ツールで公式に宣言していたことがある日を境に許されることになった、しかも国民に断りなくそうなったという点で大変恐ろしい出来事です。

''' 昨日まで政府がきっぱり誓っていたことを、あっさり削除して反故にしてしまうことが許される、そういうことが起きたわけです。

「日本を戦争をする国にはしません。」「徴兵制は憲法違反」というのも永久の約束ではありません。'''

もし政府がこんなことを言うなら永久保存版にして後世まで約束すべきですが、最近経験した通り、HPは簡単に削除されます。

政府の発する言葉には全く重みがなく、信頼がおけません。全く信用できないのです。

国連憲章で戦争は禁止されているから?

こうした一問一答とは別に、政権幹部もあちこちで説明をしています。

石破幹事長はNHKの先週日曜のNHK討論番組で「日本を戦争する国にはしません。侵略戦争は国連憲章で明確に禁止されています。集団的自衛権は国連憲章で認められているのです」と一見論理の通ったことを言って見せました。国連憲章で明確に禁止されていることを日本がするわけがないだろう、日本がやろうとしているのはあくまで合法的なことだ、と言わんばかりです。

HPに比べるとましかもしれませんが、やはりこれも明らかなごまかしです。

国連憲章で明確に禁止されているはずの米国のイラク戦争を「支持します」と言ったのはほかならぬ自民党政権です。日本政府は、国連憲章で禁止されていますよ、と米国に助言や進言など、一度もしたことがないし、これからもできるとは到底思われません。

そんなことは、石破氏自身よーくわかっているはずです。

国連憲章違反の戦争を公然と支持した政府がこんなことを言っても果たして信用できるでしょうか。

粛々とこうした詭弁に満ちた文書を作成する官僚の人びと

政府のHPを見ていると苦労して作成している官僚の姿もしのばれます。

このような文書は、東大などを出て、場合によっては弁護士資格も有している、優秀な官僚が、作成に携わっているのでしょうが、内心とんでもない嘘だとわかっているはずです。彼らはこのような仕事をするために公務員を志したのでしょうか。まさに「悪の凡庸」(上官に言われるまま、黙々と効率的に、ナチスのホロコーストにユダヤ人を輸送する業務を担った官吏を評した、哲学者ハンナ・アーレントの言葉ですね)と言うべきか、自らの知性を殺して、上から言われたままに書いている姿が浮かびます。

今後作成されると予想される「法制」にも法律家出身の官僚などが動員されて、粛々と憲法違反の法令準備作業にあたっていくのか、日本のエリート層があたりまえの知性と理性をおし殺してそのようなことに粛々と加担していくのかと思うと愕然とします。

是非良心を発揮してほしいものです。

市民が賢くなり怒りを持続させること

ここまできて私も非常に腹が立ってきました。あまりにも国民を軽視し、民主主義を軽視し、国民を馬鹿にしているとしか言いようがありません。ある意味徹底した大衆蔑視、ニヒリズムが官邸の政権運営の基本にあるように思われます。

安倍政権を選んでしまい、引き続き高い支持率を寄せているのですから、安倍首相も国民を甘くみることでしょう。

こんな低レベルな一問一答を出して平然としているのは、政権が国民を馬鹿にしている何よりの証拠であり、私たちはもっと怒るべきだと思います。

こんな不誠実を許していれば、日本全体の知の堕落、民主主義の衰退につながりかねません。

結局のところ、どんなにごまかしても閣議決定は違憲です。

政府がすべきことは、明白な憲法違反行為をしたことを謝罪・反省して、閣議決定を撤回すべきなのです。

私たちがきちんとリテラシーを持ち、騙されないで、怒りを持続させて行動することが必要だと改めて痛感します。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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