Yahoo!ニュース

AV出演を強要される被害が続出~ 女子大生が続々食い物になっています。安易に勧誘にのらず早めに相談を

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

■好奇心で安易に誘いにのらないで。

夏休みや春休みなどの時期、駅前などで若い女性をターゲットに、タレントにならない? グラビアモデルにならない?AV(アダルト・ビデオ)女優にならないか? という勧誘が盛んになるようです。

好奇心で話を聞きに行き、タレント事務所に所属することになり、契約にあたってその条項にAVもOK等と言う項目がついてくることがあります。しかし、有名になるために少しだけならAVも大丈夫、などとサインすると、後々とんでもないことになります。

やめたくてもやめられず、意に反してAVに出演し続け、ほとんどお金ももらえない被害が相次いでいます。

私は20歳になったばかりの女子大生などがひどい被害にあっている事案の相談にのってきました。しかし、弁護士まで辿り着くのはごく一握り、かなり多くの若い女性が被害にあっているのではないかと思っています。

AV出演自体を恥じ入り、誰にも相談できないで泣き寝入りする人が多いことは想像に難くありません。

自分で積極的にそういうことがしたい、という方は止めませんが、思わぬ被害にあっている方が多いことを考えると、まず、好奇心から軽い気持ちで勧誘に応じたりしないでほしいと是非言いたいです。

■ AVタレント契約の実態

もちろん、自由意思でAV女優になっている人たちもいるかとは思います。

しかし、以下に紹介するのは、私が被害者の女性たちの話からみた、AVタレント契約の実態です。

女の子たちのスカウトは未成年の頃から行われ、親に内緒でタレント事務所と契約を締結することになります。

「タレント契約」「営業委託契約」などと書かれたその契約書をみると、内容はとてもアバウトでアンフェアです。

タレント事務所に所属したタレントは、事務所の指示に従って活動しなければならない、と規定され、無制限にどんな活動でもOKして事務所の指示に従わなければならない内容となっています。タレントに支払われるギャラなどは書かれていません。事務所の指示に従わない場合は違約金を払え、という条項が必ずあり、金額は書かれていません。

ひとたびAVやポルノもOKというところにチェックを入れたら最後、拒絶する権利だとか、取り消す権利を留保する条項は全くありません。

だいたい、契約書はサインさせられるけれど、コピーはもらえないままという被害者も少なくありません。

タレント事務所と契約させられた女の子たちに圧倒的に不利な内容ですが、親に内緒で、未成年の子たちはサインしてしまいます。その後は契約書をたてに事務所から脅かされ、どんなにいやでもAVに出演しないといけないことになるのです。

タレント事務所やプロダクションは、以前はAV女優と雇用契約や、労働者派遣契約を締結していたこともあるようですが、AV出演は、「職業安定法」や「労働者派遣法」上の「公衆道徳上有害な業務」に該当するとされ、募集や派遣行為は処罰の対象となっています。

(裁判例もあります。詳細はこちらの中里見教授の論文に詳しいhttp://ir.lib.fukushima-u.ac.jp/dspace/bitstream/10270/3621/1/2-419.pdf)

だから、今では法の網の目をかいくぐって「タレント契約」「営業委託契約」のようなかたちで、さらに女性達が報酬も得られず、無権利状態で圧倒的に不利な立場で搾取される状況となっているのです。

そして、タレント契約については、雇用契約でないため、タレント事務所・プロダクションに対しては監督官庁もなく、届け出義務もありません。

これまでの経験から言えば、法人登記すらされず、事実上違法営業をし責任を問われると逃げる、というような業者も少なくない、そのようなところに、無知に乗じて若い女性が罠にはまり込み、食い物にされてしまっているわけです。

■「違約金」「親にばらすぞ」と言われ、出演を強要される

こうして契約した女の子たちは、通常20歳になると本格的にAVデビューさせられることになります。

うっかり契約してしまい、「もうやめたい」と思っていても、「違約金払え」「親に言うぞ」等と言われ、そんな大金は支払えないし、親にばれるのだけは嫌なので、泣く泣くAVに出演するしかなくなります。

先日私のところに来た相談について、御本人の承諾を得ましたので、概略をご紹介しましょう(事案を単純化しています)。

2011年、未だ高校生であったKさんはX社にスカウトされ、「営業委託契約」なるものをすぐに締結させられてしまいます。

3か月後にはわいせつなビデオの撮影が行われ、とても嫌で屈辱的だったので、Kさんは「仕事をやめさせてほしい」とX社に懇願しました。

しかし、X社は「違約金がかかるぞ」と脅し、同様の撮影を強要します。撮影されたビデオは販売されたのに対価は全く支払われません。

Kさんが20歳になると、X社はいよいよ、AVの撮影を強要してきました。

Kさんが「嫌だ」というと今度は「ここでやめれば違約金は100万円」と脅され、泣く泣く1本だけAV出演させられました(AVの撮影・製造は他社であり、X社から派遣されました)。

そこで行われた撮影は本当にひどいもので数人の男性との性行為を強要されて、Kさんは心身共に傷つき体調も大変悪くなりました。

いよいよKさんは、「もうこれで終わりにしてほしい」と勇気を出して申し出ましたが、X社は、もう「違約金は1000万円にのぼる」と脅して拒絶(撮影前から撮影後、わずかの間に、100万円の違約金が1000万円にはねあがったわけです)。

「あと9本AVの撮影をしたら、違約金は発生しない」等と脅し続け、あと9本出演するよう執拗に要求しました。

困ったKさんは民間団体の支援を得て、「もう出演しない」と宣言するも、メールで脅したり、最寄り駅周辺や自宅まで多人数の男たちが押しかけ、出演を事実上強要しようとしました。Kさんはこうした強要に負けないことを決意。書面で「契約を解除します」と連絡をしました。すると、今度はX社は弁護士をたてて、違約金なんと2400万円以上を請求してきました。

その間Kさんは性行為の強要やわいせつ行為を伴う撮影という大変苦痛を伴う行為をさせられてきたというのに、違約金を請求される一方で何ら報酬を得ていません。

これは典型的な事例といえますが、2400万円の請求はあまりにひどい。こんな請求を20歳そこそこの女子学生が受け、唯一回避する方策はAV出演だと言われたら、、、まさに債務奴隷ではないでしょうか。

しかも、プロダクション側には「人権派弁護士」を標榜する弁護士がついて法外な請求をしているので、唖然としました。

■ 深刻な被害をなくすために。

違約金の恐怖におびえ、親に相談できずに、法的な知識もない若い女性の無知と困窮に乗じて、性行為とその撮影を強要する、これは、現在日本で進行しているまさに「現代的性奴隷」「債務奴隷」とでもいうべき問題です。そして、すべての性被害と同様、恥ずかしさから誰にも相談できず、泣き寝入りをして声をあげられない被害者が多いことも深刻です。

被害者は、出演を強要され続け、なんとかやめられた後も、ビデオが出回って知られてしまうのではないかという恐怖に怯えながら生きていかないといけません。

いま、リベンジポルノが問題となっていますが、AVは商業ベースに乗せられるわけですので、拡散のリスクはリベンジポルノをはるかに上回ります。

●私は、まず多くの人にこうした問題があることを知ってほしいと思っています。何らかの規制が必要です。

●そしてターゲットとなる若い女性達には、被害が深刻なことを知って、好奇心から安易に契約しないよう是非注意してほしいです。

若い女性の無知と困窮に乗じてAV出演を強要するような契約は、公序良俗(民法90条)に違反して無効であり、また違約金を支払う正当な根拠もありません。特に未成年の時に親の同意なく取り交わした契約は、法律上取り消すことが出来ます(民法5条)。法律家のサポートを得れば、AV出演から簡単にのがれられるケースはたくさんあります。また場合によってはビデオの回収が出来る場合もあります。

困っている方は、泣く泣く出演させられてしまう前に、嫌なものは嫌とはっきり断ること、家族などに相談する、家族に相談しにくくても支援団体や公的機関、この問題を取り扱う弁護士に是非相談してほしいと思います。

相談を受け付けている支援団体の例はたとえばこちらです。

http://paps-jp.org/aboutus/coerce/

■ 業界や政府に対して

●AV産業全体に問われる企業倫理

個人的には率直に言って、なぜ日本ではAVのようなものが表現の自由として許容されているのかそもそも不思議でなりません。。

(2016年11月27日追記: 実際の性交渉を行っているのに売春防止法等の法律の適用がないことに疑問を持った、という意味です。

お問い合わせがありましたので、追記いたします)。

しかし、それはここではさておくとします。

少なくとも、対価ももらえず、嫌なのになくなく出演を強要されている、性的搾取・強要の被害は根絶されなければなりません。

AVは今や巨大産業となっており、AV制作や販売・PRは大手企業によって行われていますが、この産業の少なくとも一端が若い女性に対する意に反する性行為とその撮影の強要という人権侵害・性的搾取によって成り立っているとすれば、企業倫理が問われることになります。

制作会社自体はAV女優が任意・自発的であるかチェックするプロセスを踏んでいると主張することが少なくありませんが、タレント事務所で「違約金支払え」「親にばらす」などと脅されて面接に送り出された若い女性達が本心を言えない状況に置かれていることについて十分に配慮し、対策を打つべきです(これは警察の取り調べで怖い目にあって自白させられた無実の人が、検察の取調でも自白を貫いてしまうのと似ています。まして、被害者は20歳そこそこの女性達です)。

プロモーションを担って巨額の利益を得ている大企業も、サプライチェーンの一番最初に性的搾取がないか、十分に調査し、確認し、性的搾取をなくすための措置を具体的にとるべきです。

●そして、政府にも、児童ポルノ、リベンジ・ポルノや女性に対する様々な暴力と併せて、この隠された深刻な問題について、調査の上実効的な対策をしてほしいと望みます。

法外な違約金を要求して出演を強要させているような悪質業者に関する情報を集め、取り締まりをすることが必要です。

■ 裁判所のきっちりとした判断を

私がこれまで被害女性の代理人となったAVの事案の多くは、業者が契約解除を認め、もちろん違約金などなし、画像等を返却する等の和解で解決する事案・つまり円満解決してきました。

しかし、一度はどこかで法的な紛争とし、裁判所から明確に「公序良俗に反し無効」という判決をもらう必要があると考えています。

そうでないと、どこかで泣き寝入りをしてしまう人を助けることはできません。

今年、東京地方裁判所で私が担当した事件で、芸能関係の契約(分野は異なりますが)について、違約金の定め等の条項が公序良俗無効と判断される判決が出され、確定しました。

AVに関する不当な契約や契約慣行についても司法の光りを当て、法外な違約金の脅しで女性たちがこれ以上食い物にされないよう、明確な判例を勝ち取ることが必要ではないかと思っています。

この問題の世論を喚起するため、今後も折に触れてお伝えしていきたいと思います。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

伊藤和子の最近の記事