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東日本大震災から4年・アンケート調査から見た被災地の不安と困窮

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

■ 被災地アンケート調査

東日本大震災から4年が経過しようとしている。

被災された方々の現実に立脚したとき、復興は果たして進んでいるといえるのか。

でしょうか。東京を本拠とするヒューマンライツ・ナウ(震災問題プロジェクトチーム)は、被災地アンケートをもとにした実態調査報告書を先ほど公表した。 

被災地アンケートは、今回、岩手県大船渡市の被災者の方々を対象として実施、アンケートを実施するにあたっては、地元のNPO法人夢ネット大船渡の方々に多大なるご協力いただいた。

アンケートを実施した期間は、2014年9月から11月で、岩手県大船渡市の被災者57世帯の方々から回答をいただいた。

本アンケートは震災から3年半以上が経過した段階での集計であるが、まだ多数の被災者の方が仮設住宅での避難生活を余儀なくされており、また、仮設住宅に入居していない被災者も、様々な困難と不安を抱え、先の見えない生活を送り復興と程遠い現実が明らかになった。

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(1)生活が困窮している被災者

今回のアンケート結果から分かることは、まず第1に、経済的な困難を抱えた被災者が多いということである。

アンケート回答者の年収は、震災前に最も層の厚かった200万円以上400万円未満の人が29名から21名に減り、

震災前には8名だった100万円未満から200万円未満の最低所得者層が13名に増えている。

400万円以上の比較的高所得者層も、震災前は合計11名だったのが、現在は5名に減っている。

また、注目すべきは、無職のうち、震災後に無職になった人が14名いたことである。震災によって職を失い、現在も職を得られていない人が少なくないことがわかる。

「生活に困っているか」との質問に対する回答は、困っているが25名、困っていないが29名、無回答が3名であった。しかし、この質問は大変抽象的であり、困っていないと回答した人の中にも、その後の具体的な質問項目での回答を見ると、むしろ困っているのではないかという人も複数見受けられた。

「困っている理由」(Q2-1-2)として、最も多かった回答は、

生活費が足りないで12名、次いで健康上の悩みが9名、借金があるが4名、行政に対して不満があるが3名、人間関係の悩みと家族間でのトラブルがそれぞれ2名、就職先が見つからないが1名、その他が8名であった。

その他に回答した人の内訳は、

ガイドラインに申請しているがなかなか進まないが1名、被災した宅地の処理の見通しが立たないが1名、住宅の問題が4名、不明が1名

であった。

ところが、生活保護に関しては、受給したくないという回答が目立った。

ただでお金をもらうのは申し訳ないとか、人目が気になるとか、そもそも生活保護制度自体がよく分からないからと回答している人が多い。生活保護制度の理解の不十分さが理由となり、客観的には最低生活水準以下に陥っている世帯の生活保護申請を妨げている可能性がある。「生活に困っていない」との回答とあわせて、客観的に困っていながら我慢を重ね、SOSを発することが出来ないという事態が懸念される。

(2)高齢の被災者の状況

次に、高齢者の割合が多いことから、高齢者特有の問題も見て取れる。

前述した「生活に困っている理由」として、健康上の悩みと回答した人が、生活費が足りないと回答した人に次いで多かった。高齢者が長引く避難生活によって健康を害しているケースが多いと推測される。

高齢者についての行政等に対しての要望では、介護施設に入所するための補助を充実させてほしいとか、在宅介護のための補助をもっと手厚くしてほしいなど、介護関係の補助に関する要望が多かった。また、買い物等の移動支援の要望も多かった。

(3)住宅問題について

もう一つは、被災者の住宅に関する問題である。

・住まいの実情 

震災前の住まいの居住形態は、戸建て(持ち家)が50名、借家が4名、無回答が3名であった。

現在は、建設型仮設住宅と戸建て(持ち家)がそれぞれ25名、民間借り上げ住宅が3名、無回答が4名であった。未だ回答者の約半数が仮設住宅ないし見なし仮設住宅に居住している実態が見て取れる。

そして、現在の住宅設備に関して困っていることや不足しているものを質問したところ、

部屋数や部屋のスペース等の問題で困っている、隣の音が気になる、仮設の建物が傷んでいる、防寒設備が不十分

と回答した人の割合が多く、仮設住宅の住宅設備としての不十分さやそこでの長期化する被災者の不便な生活が見て取れる。

・災害公営住宅 

そこで、今後、災害公営住宅への入居を希望するか尋ねたところ、希望するが12名、希望しないが16名、そもそも入居資格がないが14名、無回答が15名であった。

災害公営住宅への入居に際し、どのような点が障害となるか、と聞くと、

最も多かった回答が家賃がかかるで17名、次いで居住地域が不便な場所にあると回答した人及び入居資格がないと回答した人がそれぞれ8名、転居できるかどうかと回答した人が7名、希望に合致する住宅の存在(エレベーターの有無等)と回答した人が6名、その他が5名であった。

その他と回答した人の具体的な記述としては、災害公営住宅の部屋数やスペースに関する点や場所的な利便性等であった。

やはり家賃が発生することが災害公営住宅への入居に際して大きな障害となっていること、また買い物や通院に不便な場所にあるといった場所的な利便性の問題、部屋数やスペース等で被災者の希望が受け入れられないといった問題があるということである。

・仮設住宅 

震災から4年近く経つ現在においてもまだ仮設住宅に入居している被災者の方は、自宅の再建が難しく、また災害公営住宅の入居も困難であるという人が多い。

仮設住宅に入居している人は、仮設住宅の入居期限のさらなる延長を求める人が多く(Q3-7-1)、仮設住宅の入居期限が区切られていることに不安を感じている(Q3-8-1)ことがわかった。

仮設住宅の入居期限の延長を希望する理由を尋ねたところ、

他に行く場所がないため、あるいは仮設住宅を出ると家賃がかかり生活が苦しくなると回答した人が最も多かった。

また仮設住宅の入居期限が区切られていることによって具体的にどのような不安があるかについて尋ねたところ、

住居がなくなることの不安、あるいは生活設計が立てにくいと回答した人が多かった。

これらの被災者にとっては、経済的なことも含めた将来の生活設計や、自分の 住居がどうなるのかの見通しが、震災から4年近くが経つ現在もまだ見えていないことが大きな不安の原因となっているようである。

・高台移転

さらに、高台移転に関しては、

行政の進める高台移転事業に対する不満として、計画の進行が遅い、高台移転によって生活が不便になる、行政から提示された買取金額が不満である、買取の時期や金額の見通しが見えない等の回答があった。

(4) まとめ

今回、大船渡市に限定したアンケート調査であったが、私たちのアンケートの結果から垣間見えたのは震災から4年後の、不安と困窮を深める被災者の状況である。

特に生活再建の基礎となる住宅再建による安定した居住権の確保が実現していないこと、災害公営住宅については家賃負担がネックになっていること、復興計画が充分に進まず、将来の見通しすら立ちにくいこと、そのため仮設住宅の延長を求めたいが、延長が一年ごとで不安定であることに不安を募らせ、その一方で長引く仮設生活の疲れ、仮設住宅の老朽化等も含めた設備の不備などが、被災者を追い詰めている。

私的な感想になるが、私たちの支援対象地のなかでも、大船渡市はあまり不満・不安が顕在化せず、どちらかというと行政の抱える大きな問題は他の被災自治体に比べると見えにくい地域であった。

そうした地域にあって、このような結果が出たことは改めて、声を出さない被災者の方たちが現実には静かに困窮の度合を深めているということを強く私に印象付けた。

そして、このアンケート調査が、NPOの協力を得て行われたことに鑑みても、比較的支援にアクセスしやすい被災者の方々から回答を得ているということであり、アンケートや支援などが届きにくい被災者の実情はさらに深刻なのではないかと思わせるものがあった。

■ 政府は何をすべきか。

私たちはアンケートの結果から浮かび上がった課題を踏まえ、国・自治体に被災者支援策の強化を提言した。

深刻な住宅問題に関しては、

・ 行き場所のない被災者を生み出さないように、現在、平成28年3月までとされている応急仮設住宅の入居期限を少なくとも5年間延長し、その後も柔軟な対応をすること。

・ 被災者生活再建支援金制度の上限金額や適用対象者の範囲を広げることにより、同制度のさらなる拡充を図り、住宅再建を促進すること。

災害公営住宅の建設を速やかに進めるとともに、同住宅への入居条件や家賃減免制度の要件を大幅に緩和するなどして、より多くの希望する被災者が同住宅に早期に入居できる措置をとること。移転に伴い生活環境が悪化したり、コミュニティが分断されることがないよう、被災者の希望とニーズに十分に配慮しつつ移転プロセスを進めること。

を求めている。

また、高齢被災者について

・施設介護、在宅介護を含む介護関係や医療関係の支援制度を充実させること。

・高齢被災者の移動支援(買い物や通院など)や、特に仮設住宅の独居高齢者の見回り等の支援を充実させること。

も喫緊の課題である。

そして何より、

国・自治体として、現在の被災者の経済状態・健康状態・住まいの状況やニーズ等に関する総合的な実態調査を速やかに実施して、実情をきちんと把握すること、

そして、その結果を踏まえ、被災者のニーズに即応した施策を検討すること

を求めたい。

■ 報告会を開催します。

ヒューマンライツ・ナウでは、3月6日、報告会

「 大震災から4年。私たちに何ができて何ができなかったか。 ■■そしていま、私たちにできることは。■■」

を東京・渋谷で開催する。

http://hrn.or.jp/activity/event/post-319/

今回の大船渡市でのアンケート調査から見えてきた現状、課題について報告を行うとともに、被災地支援に関連の深い方々をゲストスピーカーとしてお招きして、被災地の現状やこれからの課題について議論を深めたいと考えている。見過ごされ、私たちの心から遠くなりつつある被災地の現実。是非風化に抗して復興のあり方を考える機会としたいので、直感ではあるが、多くの方に御参加をいただけると嬉しい。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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