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「子どもたちの声が社会を変える」スピーチコンテスト・日本にもたくさんのマララさんがいる。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
世界子どもの日・スピーチコンテストのウェブサイト

■ 子どもたちの声に耳を傾けて

今日5月5日は日本で決められた子どもの日。子どもたちの健やかな成長の願う日です。

世界には、「世界子どもの日」という日があり、11月20日がその記念日です。

子どもの人権について定めた条約・「国連子どもの権利条約」が採択された日です。

私たち認定NPO法人ヒューンライツ・ナウでは、昨年はこの日にあわせて、世界子どもの日「映像スピーチコンテスト」を実施。

素敵な映像作品をみなさんからお寄せいただきました。是非子どもたちの声を聴いてほしいと思い、「子どもの日」にあわせて、こちらで紹介させていただきます。

寄せられた子どもたちの声は私たちの社会にゆがみに対して率直な問題提起をし、それを自ら乗り越えようとする力にあふれています。

■ 子どもたちの声が世界を変える。

今、子どもたちが世界で置かれている状況は、バラ色とはいえません。

世界には、今も絶え間ない戦争によって子どもたちの命が奪われています。児童労働や差別、貧しさなどから、自由や未来を奪われている子どもたちがたくさんいます。

しかし今、子どもたち自らがそうした状況を変えようとする動きも始まっています。

2014年にノーベル平和賞を受賞したのはパキスタン出身の少女マララさん。

子どもたちに教育を、と強く訴え、世界に大きな影響を与えました。

彼女が15歳のときに通学バスに乗り込んできた男に銃で撃たれてしまったニュースは、まだ記憶に新しいと思います。彼女が撃たれてしまったのは、女の子が教育を受けられないのはおかしい!と女の子への教育の必要性を社会に訴え続けていたからです。

しかし、銃に打たれても、マララさんは負けませんでした。病院で手術を受けた後も、脅しにひるむことなく、私自身も学校に行けない6600万人の女の子のひとりだと、女の子に教育が必要だ、と言い続けました。

その勇気ある行動は世界中の人々にマララさんと同じ境遇にある少女たちの存在と教育の必要性を気づかせ、国連が取り組みを強めるきっかけになりました。一人の子どもの勇気ある声が世界を動かしています。

■ 日本の子どもたち~ 集まる応募作品

日本でも、いじめにあったり、大人から暴力を受ける子、親からネグレクトされたり、貧しい環境に置かれた子どもたち、さらには、周りのことを気にして自分らしく行動できない、言いたいこともいえないということがあるのではないでしょうか。

保育園になかなか入れない、ひいては子どもが育てにくい環境で子どもの数が減る「少子化」が問題になっていますが、子どもが育てにくい社会は、すなわち、子どもにとっても生きにくい社会なのではないでしょうか。

日本でもこうした課題を子どもたち自身が見つめて、考えて、解決を求めて声をあげ、行動してくれる、たくさんのマララさんのような子どもが出てくれば、社会は変わっていくのでは、そんな子どもたちの行動を応援したい、そんな期待を込めて、初めてのスピーチコンテストを公募しました。

スピーチコンテストの詳細は、こちらのページをぜひご確認ください。

今回初めて開催したコンテストであるにも関わらず、様々なスピーチの素敵な映像作品をみなさんからお寄せいただきました。

高校生として平和の問題でデモを始めた若者たちの想いを伝えるビデオ投稿もありました。

どれも中高生一人一人がよく「学び」、「考え」、「発信」した素晴らしいものでした。

審査委員の顔ぶれはこちら。あとでみますとおり、審査という枠を超えて子どもたちを応援していただきました。

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●審査委員

後藤弘子氏 (千葉大学教授)

濱田邦夫氏 (弁護士/元最高裁判事 )、

Faith Amano 氏 (フリー・ザ・チルドレン・ジャパン)、

堀潤氏(ジャーナリスト・NPO法人「8bitNews」代表)、

三浦まり氏(上智大学法学部教授 )、

安田菜津紀氏(フォトジャーナリスト)

■ スピーチコンテストの結果

審査の結果、入賞者はこちらに決まりました。

●コンテスト入賞者

1位 伊藤輝さん(福生市立福生第二中学校3年生)

2位 森百合香さん(玉川聖学院中等部3年生)

3位 小山美海さん・馬路ひなのさん(東京学芸大学附属国際中等教育学校4年生)。

(いずれも当時)

優勝した伊藤 輝(いとう・ひかる)さんは、フィリピン人と日本人を両親にもちNPO法人青少年自立援助センターYSCに通われていました。

フィリピンから日本に来たときは、日本語ができないまま小学校へ入学し、学校でとても大変な思いをしたけれども、努力を重ねて日本語が話せるようになりました。日本語が得意ではないお母さんが日本語を一生懸命勉強されている様子を見て、励まされたそうです。自分の経験から、差別についても考えるようになり、より平和な社会を、自分自身の言葉で伝えていきたい、という願いをスピーチに込めて話してくれました。

率直に実体験を語り、今の社会には差別が根付いているが、自分から小さなことでも周囲や社会に積極的に働きかけるからはじめよう、そのことが大きな変化につながっていくのではないか、と力強く語るスピーチには引き込む力があり、審査委員一同が感動し、最優秀賞に選ばれました。

伊藤さんはその後、「世界こどもの日」を記念して、ヒューマンライツ・ナウが開催している恒例イベント・世界子どもの日チャリティ・ウォークアンドランの閉会式( 昨年は11月21日)にて、数百人の参加者を前にしてスピーチを披露。

審査では「スピーチ能力のレベルアップ」が課題になったことを受けて、審査員の堀潤氏が本番の数日前に、そして本番直前には審査委員のフェイス・アマノさんが、それぞれ自発的に申し出てくれ、伊藤さんのスピーチを指導してくれました。

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1位の伊藤さんをスカイプでスピーチ指導する堀潤さん

子どもの表現を支えよう、サポートしようという大人としての行動に感銘を受けました。

■「もしあなたが、自分の国に帰れと言われたらどう思いますか。」

「もしあなたが、自分の国に帰れと言われたらどう思いますか。」

優勝した伊藤さんはスピーチでそう切り出し、「あなたは差別をされたことがありますか。差別をしたことがありますか」と問いかけました。'''

(世界子どもの日チャリティウォークアンドランでのスピーチ)

伊藤さんは、7歳で日本に来て、日本語がしゃべれないまま小学校にあがり、ばかにされたり、いじめを受ける経験をしたことを語りました。伊藤さんは努力をして日本語を一生懸命勉強して、日本語が得意になったと紹介。

それでも、日本語ができなくなってからも差別はなくならなかったといいます。

「全国にこの瞬間にも差別やいじめで苦しんでいる子がいる」伊藤さんは訴えます。伊藤さんは文部科学省のいじめ認知件数が18万8000人だと紹介、本当はもっともっといるはずだと指摘しました。

そして子どもたちがおかれた人権状況を変えるためにはどうしたらいいのか、心を打ったのは、伊藤さんが

「子どもにできることは自分から変わること」と言ったことでした。

現状に文句を言ったり、誰かのせいにするのでなく、自分から変わること。思わずはっとさせられました。

では、それをどう変えたらいいのか。

伊藤さんは、学校の先生から教えられた「梵字徹底」という言葉に何度も言い聞かせ、救われてきたことを紹介。 

「梵字徹底」とは、小さなことからできることから、毎日コツコツやればいい、ということです。彼女は日本での生活をそんな思いで乗り越えてきたのでしょう。そして彼女は、「小さいことから、できることから私たちは社会を変えることができるかもしれません。」と問いかけました。

(伊藤さんのスピーチ全文)

彼女はまず、周囲との関係を変えるために自ら動き出したこと、具体的には、毎日嫌いな人や苦手な人にも笑顔で積極的に挨拶するようにしたことを紹介、彼女の行動で周囲が変わってくれたと語ります。

「小さな変化はいつか大きな変化になってこの社会からいじめがなくなるのではないでしょうか。」

世界の人たちは差別のない平和で平等な社会を願っている、だからこそ、小さなところからひとつひとつアクションを起こしていきましょう、と彼女はスピーチを締めくくり、観客にあなたも「隣の人に挨拶してみてください」と呼びかけ、聞いている人たちを魅了しました。

学校に行く権利~ マララさんに呼応して

第2位の森さんは日本では当たり前な「学校に行く権利」について中高生が真剣に考え、活用し、発信していくことの大切さについて述べました。内容だけでなく、映像的にも大変分かりやすい、すばらしいスピーチでした。

森さんに対しても、堀潤さんが、大変親身にスピーチ指導を行ってくれました。

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2位の森さんをスピーチ指導する堀潤さん

こちらの映像は、2位入賞が決まった後に、学校で撮影された公表用のスピーチ映像。森さんはこの撮影までにスピーチをとても勉強し、本当に素晴らしいスピーチになっていました。そして、撮影は、学校まで行って堀潤さんがしてくれたのです。

本当に素晴らしいスピーチですので、ぜひ見ていただければと思います。

■ ファストファッションについて考えよう

第3位の小山さん・馬野さんはペアで登場。ファストファッション業界での労働環境に着目し、「今あなたが来ている服はどんなものを使ってどこで誰が作りどのようにして手元まで運ばれてきたか知っていますか」と述べ、格差をなくすためには今着ている服がどのように作られているのか立ち止まって考える必要があると訴え、3位に選ばれました。

二人は事前にヒューマンライツ・ナウが主催した映画「トゥルーコスト」の上映会に参加するなどして、「自分たちが着ている服と人権」について学び、二人で話し合い、スピーチを応募するというアクションに出た行動力も素晴らしいものでした。

■ 被災地の子どもがマララさんのスピーチを演説

この3組のスピーチとともに、もう一人ご紹介したいと思います。

岩間 文佳(いわま・ふみか)さん(岩手県立釜石高校2年生)は、冒頭でご紹介した世界子どもの日チャリティウォークアンドランに、伊藤さんと並んでスピーチ。岩間さんは、認定NPO法人カタリバが運営する「コラボスクール」という放課後学校で英会話を学んでおり、マララさんのノーベル平和賞受賞スピーチを英語でスピーチすることに挑戦してくれました。

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2011年3月11日の東北大震災による津波によって、岩手県大槌町の子どもたちは、学校の外で勉強する場、友だちと過ごす場をなくしてしまいました。2011年から認定NPO法人カタリバが運営する「コラボスクール」という放課後学校では、そのような居場所をなくしてしまった子どもたちに教育の機会を提供しているのです。

岩間さんはとてもきれいな英語で見事にスピーチしてくれました。彼女が話してくれた、マララさんのスピーチの日本語版の一節を紹介します。

親愛なる兄弟姉妹のみなさん。いわゆる大人の世界であれば理解されているのかもしれませんが、私たち子供にはわかりません。なぜ「強い」といわれる国々は、戦争を生み出す力がとてもあるのに、平和をもたらすことにかけては弱いのでしょうか。なぜ、銃を与えることはとても簡単なのに、本を与えることはとても難しいのでしょうか。なぜ戦車をつくることはとても簡単で、学校を建てることはとても難しいのでしょうか。

現代に暮らす中で、私たちはみな、不可能なことはないと信じています。45年前に人類は月に到達し、おそらく火星にもまもなく降り立つでしょう。それならば、この21世紀には、全ての子供たちに質の高い教育を与えられなければなりません。

■子どもたちの声に応え、良い社会を築いていく大人の責任

この応募をきっかけに、伊藤さん、森さんのスピーチは指導を受けて格段に上達し、伊藤さんは今回の活動をきっかけに、地元福生市の教育委員会からも表彰を受けたとのこと、この経験が自信につながってくれると本当にうれしいと思います。

子どもの意見表明を大人がサポートする、そして子どもの意見に耳を傾けて応援する、とてもよい機会になりました。

私たちはこのコンテストを通じて、日本にも多くの勇気ある子どもたちがいることが実感できた企画でした。日本にもマララさんのような子どもがたくさんいると。

応募された皆さんのスピーチは、子どもの純粋な目で世界の矛盾や問題をとらえ、しかしそれを自分も解決のために行動しようという思いにあふれたものでした。

今も「自分の国に帰れ」というヘイトスピーチが横行する日本の社会、そして、教育よりも戦争・軍に多額の出費を費やし続ける世界の状況、世界と日本を覆う格差と貧困など、私たちは問題を解決していくため、子どもたちの想いに応えられているでしょうか。

子どもたちの希望や前向きな気持ちが絶望に変わらないよう、子どもたちの想いを聞いた私たちがよい社会を築いていく責任を果たしていく必要性を痛感させられます。

「まず自分が変わること」という伊藤さんの言葉と行動はとても貴重な示唆を私たちに与えています。

ぜひスピーチを聞いてみてください。

私たちは今年もこのコンテストを開催する予定です。多くの中高生のチャレンジをお待ちしています。そして、この取り組みを通じて子どもたちの意見表明をサポートしていきたいと思います。

今日は子どもの日ですので、みなさんも自分のお子さん、周囲のお子さんのお話しに耳を傾けてみませんか。いつも照れくさくて言えないかもしれないけれど、きっと素晴らしい想いを抱いているはずです。ぜひその思いを受け止めて、応援してあげてください。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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