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18歳以上なのに投票ができない? ~下宿中で住民票を移動していない学生有権者は選管に確認しよう!~

伊藤伸構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

参議院選挙が公示された。

この選挙の注目は何といっても、選挙権年齢の引き下げによって初めて投票権を得る18,19歳の動向だろう。

大阪府箕面市の投票所では期日前投票の一番乗りが高校生であったことが報道されていたが、今回の選挙をきっかけに、いかにして若い世代が選挙や政治に関心を持つことが重要であるかは言うまでもない。しかし、その流れに逆行しかねない制度解釈が存在している。

住民票は実家に残したまま下宿をしている学生は、選挙権がないというものだ。

下宿していて住民票が実家にあると不在者投票はできないのか?

一昨年と昨年の2年間、私が教えている法政大学の講義の中で選挙に関するアンケートをとった(有効回答数273)。

これまでの選挙(国政、地方)で投票に行ったことがあるかとの問いには、「欠かさず投票に行く」人は約2割、一度も投票に行ったことがない人は、選挙権のない(まだ選挙がない)人を除くと45%という結果となった。

法政大学「NPO論」受講者アンケート(総数273)
法政大学「NPO論」受講者アンケート(総数273)

次に、投票に行かなかった理由を聞くと下図の通りとなった。

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上記理由のうち、「投票日に用事があった」(28%)は、期日前投票が簡単であることを知っていれば減少していただろう。もう一つ、「住民票が実家にある」(39%)と答えた学生の大部分は、そもそも投票ができないと考えていた。

以下は、今治市の選挙管理委員会のホームページに記載されているメッセージ。

学生の選挙権について

大学や専門学校に修学のため、親元を離れて寮や下宿などに居住している学生の住所は、特別の理由がない限り「寮や下宿の所在地」にあるとされていますので、 住民票を今治市にそのまま残している学生は、今治市でも修学地の市区町村でも投票ができませんのでご注意ください。

選挙人名簿に登録されるためには、転入の届出がされた日から引き続き3か月以上住民基本台帳に記録され、かつ実際に居住していることが必要です。

住民票が今治市にあっても市外に居住している学生は、今治市の選挙人名簿に登録され投票所入場券が届いても、今治市の選挙人名簿に登録されるべきでなかった者として取り扱われ、投票(期日前投票や不在者投票を含む。)をすることはできません。

投票をするためには、実際に居住している寮や下宿などの所在地の市区町村に住民票を移す手続きを行うことが必要です。

居住している市区町村に転入届を提出した日から3か月以上たちますと、選挙人名簿に登録される資格ができ、投票をすることができます。

出典:愛媛県今治市選挙管理員会ホームページ

つまり、下宿先に住民票を移していないのなら実家だろうが現住所地だろうが、期日前や不在者投票含めて投票することはできないというのだ。

これは本当なのだろうか?

住民票を実家に残したまま東京で下宿している複数の学生が、実際に実家のある選管に問い合わせてみたところ、「不在者投票が可能」という選管が大部分。今治市同様、投票はできないと言われた選管も1つだけあった(ちなみに、ホームページには今治市と同様のことを書いていた選管の中で電話すると大丈夫だと答えたところもあり・・・)。

民主主義の根幹である「投票」できるかどうかが、地域によって異なっているのだ。しかも、それが今回の選挙で最も重要と言われている若年世代の投票に関してである。このようなことは決してあってはならない。

では、不在者投票が断られた理由は何かというと、「そもそも実家を離れているのなら住民票を移さなければならない。不在者投票制度は長期の出張や旅行によって期日前投票、投票日の投票ができない人を対象にしている」とのこと。この根拠は、「住所が変わった場合に住民票の移動は14日以内に行わなければならない」という住民基本台帳法によるものと考えられる。

住民票を移すべきかどうかの判断は「生活の本拠」がどこにあるかによると解されている。例えば国会議員の多くは、地元には週末程度しか帰らず東京の議員宿舎に泊まることが多いが、住民票は地元にある。これは、長く滞在するのは東京であったとしても定期的に帰るなど本拠は地元にあるから。同じように考えれば、下宿をしていても夏休みや冬休みなど季節ごとに帰る学生や、今住んでいる場所に卒業後も継続して住むと決めているわけではない学生は実家が本拠ということになろう。であれば住民票を移さなくても良いと解釈できる(逆に、ほとんど実家に帰らず卒業後などその先も帰らないと決めている学生は移す必要が出てくる)。実際に「不在者投票可能」としている選管は以上の考え方によるものとしている。

選挙を所管する総務省選挙課に問い合わせてみると、

「住民票が現住所地と異なる場所にあることをもって選挙権の有無が判断されるものではなく、生活の本拠がどこにあるかというのは個々人の状況に応じる。その判断は個々の自治体となるし、生活の本拠については選挙課ではなく住民制度課になる」

とのこと。

ということは、今治市のように実家に住民票を置きながら下宿していることをもって「どこにも選挙権はない」と明示していることは間違いではないのか。

法の解釈が時代の変化に追いついていない

この論争、実は長い歴史がある。「不在者投票はできない」としている選管は、昭和29年の最高裁判決を拠りどころとしている。

大学の寮に入っていた学生が、実家のある自治体での投票ができないことはおかしいとして裁判で訴え上告までしたが、判決は、

「休暇に際してはその全期間またはその一部を郷里またはそれ以外の親戚の許に帰省するけれども、配偶者があるわけでもなく、又管理すべき財産を持つているわけでもないので、従つて休暇以外は、しばしば実家に帰る必要もなく又その事実もなく、主食の配給も特別の場合を除いてはa村(筆者注:現在居住している自治体)で受けており」(基本選挙人名簿異議決定取消請求、昭和29年10月20日

この判決を踏まえて、各自治体は、選挙権が付与される20歳(当時)を迎えた人に、選挙人名簿への登録の有無を判断するため現在地と住民票届け出場所に関しての調査を行うこととなった。しかし、実際にはその調査をしていない自治体が多い(私の周りの学生でも調査があったという人はいなかった)。

調査していないのは自治体の怠慢だとも言えない。自治体の担当者に聞くと、調査の時間が取れないことも確かだが「生活の本拠」の概念は曖昧なので、調査の意味が薄いと感じているとのこと(例えば「今は下宿しているけど地元で就職活動をするので3年生になったら実家から通う予定」の人は移さなくても良いと判断している)。そもそも、「生活の本拠」が住民票届け出地なのか現在の居住地なのかは学生に限らず、他の世代だって同様のことが言えるのではないか(近年は二地域居住者も増えている)。

ちなみに、こういうのって選挙権年齢引き下げに当たっては当然整理する必要があるのだから、国会では議論になっていなかったのだろうか? という疑問が沸いたので調べてみたところ、平成25年に菅家一郎議員が全く同じ趣旨で質問されていた(第185回国会 衆議院法務委員会 第6号(平成25年11月13日(水曜日))

不在者投票のしかた

以上のことを踏まえて、住民票を実家に残したまま下宿をしていても不在者投票は可能だと私は考えているし、学生にもそう伝えている。

不在者投票はどのようにするのか? ざっと以下のような流れになる。

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1.住民票(実家)のある市町村の選管に連絡し「不在者投票宣誓書兼請求書」(写真)を送ってもらう。最近はHPからダウンロードできるところが大部分なのですぐにもできる。

2.「不在者投票宣誓書兼請求書」を記入して住民票のある市町村の選管に送る。なお、両親などが住民票のある市町村選管に行って手続きをすることで請求書の送付を省略することが可能。

3.住民票のある市町村選管から投票用紙が届く。

4.実家の選挙区の候補者をチェックした上で、現住所のある市町村の選挙管理委員会で投票を行う。

5.投票後は投票した選管から住民票のある選管へ送付される。

投票用紙が住民票のある選管に届く締切が投票日の20時「必着」となる(消印はダメ)。今回の参議院選挙であれば7月10日の20時までとなる(締切日時は選管によって対応が異なる可能性もあるのでぎりぎりになりそうなときは選管に確認する方が良い)。

他の人の投票に比べれば手間がかかることになるが、離れている選挙区の投票をするのだからある意味では当然。「住民票を移していないから投票したいけどできない」人たちの投票行動が変わるだけでも大きいと考える。

繰り返すが、自治体の解釈によって民主主義の根幹である投票ができる学生とできない学生が存在する事実をもって、現在の仕組みには欠陥があると言わざるを得ない。しかもそれが、現在最も課題とされている若年世代の選挙への関心の向上という流れを止めかねない状況はすぐにでも解消しなければならない。このようなことは自治体に委ねるのではなく、選挙を所管する総務省が統一見解を示すべきだ(本来自治体に委ねるべきことはできていないと思うが)。

評論から行動へ

最後に、10代の有権者の投票行動が、全体の投票率に及ぼす影響はごくわずかであることを確認しておきたい。投票権を持っている10代の数は約247万人(公示日の前日時点での18歳以上が選挙人名簿に登録される)。2年前の衆議院選挙の際の有権者数が約1億400万人なので、有権者全体の2%に過ぎない。仮に今回の投票率が前回の参院選より下がったとしても(3年前の参院選の投票率は52.61%)、くれぐれも「選挙権年齢を引き下げても投票行動には結びつかず」という報道にならないようにしていただきたい。

「投票率が上がらない」「特に若者の関心が低い」と評論ばかりしていても始まらない。それぞれが動くことも必要ではないか。私が今できることは、このように仕組みを伝え発信することで1人でも多く投票に行ってもらうことだと感じている。

構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

1978年北海道生まれ。同志社大学法学部卒。国会議員秘書を経て、05年4月より構想日本政策スタッフ。08年7月より政策担当ディレクター。09年10月、内閣府行政刷新会議事務局参事官(任期付の常勤国家公務員)。行政刷新会議事務局のとりまとめや行政改革全般、事業仕分けのコーディネーター等を担当。13年2月、内閣府を退職し構想日本に帰任(総括ディレクター)。2020年10月から内閣府政策参与。2021年9月までは河野太郎大臣のサポート役として、ワクチン接種、規制改革、行政改革を担当。2022年10月からデジタル庁参与となり、再び河野太郎大臣のサポート役に就任。法政大学大学院非常勤講師兼務。

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