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ビジョンのつくりかた― “〆切” “大事なことを数字に” “自分ごと”

岩佐大輝起業家/サーファー

■ひとを動かすビジョンをつくる3つのポイント

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東北エリアに、10年間で100社10,000人の雇用を創出します。

僕がこのGRAのビジョンをつくるさいに考えた基準が、3つある。

  • 時間軸(〆切)
  • いちばん大事なことを、数字にする
  • 自分ごととして考えられるものにする

である。時間軸については前回書いた。残り2つを紹介しよう。

なぜ「100社10,000人」なのか?

もちろんこれは「10年100社10,000人」というのがわかりやすいから、ということもある。ただもっと重要なことは、これが「雇用」をいちばん大事な指標、いわゆるKPI(Key Performance Indicator)にしていることだ。

地方の活性化、東北復興を考えたとき、もっとも重要なのは経済だ。長期にわたって、近くで働いてお金を稼ぐ場所があること。それがあれば町は豊かになるし、生活が安定すればひとは都会に出ていかなくても済む。結婚してこどもをつくって育てる環境が、その地域にできる。だから、経済的な指標、なかでも雇用をビジョンのなかに盛り込んだ。

ことわっておけば、「100社10,000人」を、すべて自分たちでやる、という意味ではない。まずは自分たちが農業を中心とした事業において成功事例となることで、地域社会、とくに東北に対して刺激を与えたい。その結果として、触発されて僕ら以外にも起業するひとたちがどんどん出てくれば、あたらしい会社が100社でき、10000人のあたらしい継続的な雇用ができる。東北に若い起業家が現れて、地域に根付いていく。僕たちは、そういう未来をつくりたい。

つまり、ビジョンのつくりかたのふたつ目のコツは、「いちばん大事なことを数字にして盛り込む」ということだ。

ビジョンを定量的な数字に落とし込むと、緊張感が出てくる。いつまでにこれくらいやらないと、という意識がうまれる。それに、対外的にも言うことで「できないとヤバいな」と思ってがんばれる。家や親族を亡くされ、立ち上がろうにもできないという被災者のほうがはるかに大変だから、僕たちはそれくらいの努力はしてしかるべきだろう。

別に壮大なものじゃなくてもいいから、農業に関心をお持ちのみなさんも、自分(たち)なりに、ビジョンを考えてみてほしい。

どこかから借りてきたような壮大なものである必要はない。自分の原体験や、地元の文化・産業に由来する、ウソがないものがいい。そのひとたち、その地域の特色を活かしたビジョンでないと、ひとは「自分ごと」として考えられない。すると、空虚なものに終わってしまう。

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ビジョンのつくりかたの三つ目のコツは、「『自分ごと』として考えられる、自分たちにもともとあったものを活かす」こと。

僕は農業を始める以前は東北出身の起業家として、10年IT企業の経営をやってきた。NPO法人GRAの母体は、僕が通っていたグロービス経営大学院というビジネススクールの社会人学生だから、MBAホルダーのビジネスパースンが多い。

東北エリアに、10年間の活動で、100社10,000人の雇用を創出します。

このビジョンなら、僕らの資質やスキルが十二分に活かせると確信したから、採用した。

  • 時間軸(〆切)
  • いちばん大事なことを、数字にする
  • 自分ごととして考えられるものにする

この3つの観点から、ビジョンを考えてみてほしい。

もちろん、そうは言っても、ビジョンだけあっても実際に行動しなければ意味はない。次回は、僕らが就農一年目の経験をお話しようと思う。

成功ばかりではなかった。僕らが直面した問題を洗いざらいお伝えして、これから農業を始めようと思っているひとたちがよけいな苦労をしなくて済むようになればいいと、切に願っている。

起業家/サーファー

1977年、宮城県山元町生まれ。2002年、大学在学中にIT起業。2011年の東日本大震災後は、壊滅的な被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。アグリテックを軸とした「地方の再創造」をライフワークとするようになる。農業ビジネスに構造変革を起こし、ひと粒1000円の「ミガキイチゴ」を生み出す。 著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『絶対にギブアップしたくない人のための成功する農業』(朝日新聞出版)などがある。人生のテーマは「旅するように暮らそう」。趣味はサーフィンとキックボクシング。

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