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オランダの農業を真似しても日本の農業が強くならない理由

岩佐大輝起業家/サーファー

オランダは九州程度の面積しかない(九州:約42,000平方キロメートル、オランダ:約41,500平方キロメートル)のにアメリカに次ぐ世界第二位の食糧輸出国だ。日本にできないはずがない。目指せ農業輸出額1兆円。オランダを真似よ!・・・いや、ちょっと待ってほしい!そこには、いくつかの罠がある。

■議論の前にオランダと日本の地理的な条件の違いを知ろう

オランダとその周辺
オランダとその周辺
日本
日本

前回に引き続き、日本の農業の未来を突っ込んで考えてみたい。まずは日本とオランダの置かれている環境の違いを考えなくてはらない。オランダは広大なユーラシア大陸の一部であり、隣国とは陸続きだ。ヨーロッパ中に張り巡らされたハイウェイを使い、わずか数百キロをトラックで運んだだけでそれは、「輸出」になる。輸出額が大きく見えるのは当たり前だ。東北の農産品を東京の大田市場に運んでいるようなものだ。しかも、一千数百万しか住んでないオランダで内需は薄く、しかも隣国とは陸続きで関税もなければ通貨も同じ。額の大小で議論する場合は、前提となる環境の違いを正確にとらえなくてはそもそも議論の拠り所からして間違ってしまう。

■オランダの単位面積当たりの収量が極端に高い理由

オランダは確かに最先端の農業技術を保有し、単位面積当たりの収量はとんでもなく高い。トマトなどは同じ面積で日本の数倍は穫れる。日本の1000平方メートルあたりのトマトの収穫量は品種にもよるがよく作っている人で20トン。対して、オランダは1000平方メートルあたり70トン以上穫る農家がざらにいる。その収量を支えているのは産地および農場施設の大規模化・クラスター化による熱やCO2などの有効利用。そして何より作付品目の少なさだ。つまり、極端に限られた種類の農作物を大規模な施設で大量生産している。栽培品目の選択と集中は研究開発、施設建設、栽培、輸送そして販売に至るまでのバリューチェーンのすべてにおいて、コスト低減効果を生む。

では、なぜオランダと日本の作型にそれほどの違いが生まれるのか。やはり地理的な条件の違いが大きい。オランダは葉物野菜のような日持ちのしない作物を簡単にフランスやドイツなどの土地利用型の農業大国から陸続きで輸入できる。少し足を延ばせばスペインもある。したがって、作る品種を極端に絞っても、なんの問題もない。極端な話、自国内の生産を全部輸出向けにすることだって可能なのだ。

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ちなみに、日本ではイチゴだけでも250以上の品種が登録されており、しかも品種ごとに細かく栽培方法が異なっている。ほとんどマニアックといっていいような世界がそこにある。しかも、味の良さを第一にして育種しているから、栽培管理の手間(コスト)を削減するような思想で作られている品種もほとんどない。果実もやわらかいから国内輸送すら一苦労だ。

もし日本で、作る野菜を5つに絞ったらどうなるか。その他の95を全部、島の外から運んでこなくてはならない。そんなことが出来るわけがない。葉物野菜などは穫ったその瞬間から痛みはじめて数日後にはヘタへタになる。海の向こうから全部飛行機で運んでくるわけにもいかないし、船で運んできたら船積みしている間に全部腐ってしまうだろう。

■効率性だけでははかることのできない食材としての付加価値

日本の野菜は超スーパーデリケートだ。外国人でコシヒカリとひとめぼれの差を云々と議論できるような人はまず見たことがない。博多のあまおうと栃木のとちおとめの差を云々と議論できるような人はもっと少ないだろう。デリケートっていうのもビッグワードだから、本当は気を付けなければならないんだけど、いわゆる日本食としての食材の選び方はとっても繊細な部分で勝負が決まるだろう。

僕はイチゴ農家だからもちろん日本で生産されているほとんどの品種と、海外産でも有力な品種ならば食べただけで言い当てることができる。だけど海外のイチゴ農家は決して同じことは出来ない。それは当たり前で、そもそも日本の農業とオランダの農業では、勝負のルールが違うのだ。オランダは徹底的な大量生産によりコスト競争力を高めて対外競争力で勝負する。日本は、国内の繊細でバラエティーに溢れる食文化が求める需要にどれだけニッチに応えられるかで勝負する。日本刀は切り殺す。サーベルは突き殺す。同じ農業生産でもルールが違えば戦い方が異なるのは当たり前だ。

■ではどこに農業産業化の活路を見出すか

日本のイチゴのブースに殺到するインドの人々
日本のイチゴのブースに殺到するインドの人々

これは次回以降のテーマにしたいが、端的に言えば日本のブランドおよび食文化そのものの輸出が解の一つになるだろう。しかも、ホンモノを世界中に展開すること。これは、殆どゼロスクラッチからの挑戦に近いと思ったほうがいい。ジャパンブランドの認知度はアセアンなどの一部の地域を除けば、まだまだマイナーだ。私たちGRAの海外部隊もその一点で勝負をしている。

インドでの取り組みは前回の「<COOL JAPAN>ムンバイで日本のイチゴが大ブレイク」に詳しく書いた。そして、今年は中東地域でジャパンブランドを広げていくことをスタートした。これは、先日上梓した『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(岩佐大輝著 ダイヤモンド社)が詳しい。

次回以降、日本の農業が活路を見出すための具体的なハウに迫ってみる。

《参考リンク》

起業家/サーファー

1977年、宮城県山元町生まれ。2002年、大学在学中にIT起業。2011年の東日本大震災後は、壊滅的な被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。アグリテックを軸とした「地方の再創造」をライフワークとするようになる。農業ビジネスに構造変革を起こし、ひと粒1000円の「ミガキイチゴ」を生み出す。 著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『絶対にギブアップしたくない人のための成功する農業』(朝日新聞出版)などがある。人生のテーマは「旅するように暮らそう」。趣味はサーフィンとキックボクシング。

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