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ノーベル平和賞受賞者のカイラシュ氏、山元町で子供たちの未来を語る(GRA岩佐大輝との対談イベントにて

岩佐大輝起業家/サーファー
2014年ノーベル平和賞受賞者 カイラシュ氏と山元町の子供たち

認定NPO法人ACEのアレンジで、ノーベル平和賞受賞者のカイラシュ氏が東日本大震災で甚大なダメージを受けてから5年後の山元町に来てくれました。僕(GRA岩佐)との対談では、児童労働の問題だけでなく、世界の未来、平和についてまで幅広く語ってくれました。屈託のないやんちゃなカイラシュの笑顔が忘れられません。

【岩佐】今日は大震災から5年を経た山元町を視察して頂きましたが、まずはその感想を聞かせてください。

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【カイラシュ】まず山元町のお子さんたちは非常にきれいな美しい目をしているし、とても賢いな、という印象を受けました。子どもたちというのは非常に素晴らしいパワーを持っていて、誰でもすぐに友達になれてしまう。私がここに入ってきたときにも、瞬く間に本当にたくさんの友人ができました。みんな、自分がきれいだという意識はありますか?自分はなんでもできる、色々なことに立ち向かっていける、と思えるお子さんはいますか?

みなさんはとても賢いと思います。それは、みなさんのお父さんとお母さんが賢いからです。では今度はお父さんお母さんに聞きたいですが、自分が賢くて大胆に行動できる人だと思う人はいますか?あなたは自分が強いと思いますか?

私は、みなさんは本当に力強さを持っていると思います。それが、私がここへきて最初に得た印象です。何故かというと、まだここへ来て三時間しか経っていないですが、今まさに復興されている姿をこの目で見てきました。そしてここで山元町のみなさんとお会いして、みなさんが幸せそうにしているな、みなさんには笑顔があるな、そしてとても美味しいイチゴを食べて楽しんでいらっしゃるな、という印象を受けました。

確かに、みなさんは大きな地震と津波の被害に遭われたと思います。地震や津波によって、家や学校や鉄道の駅などは流され、そして破壊されてしまったと伺っています。しかしながら、ここには破壊されていないものがあると感じました。それはみなさんの中に眠っている魂であり、そしてみなさんの強さです。みなさんのその魂や強さはしっかりこの町に根付いていると思います。

世界から見ると日本人のみなさんは非常に恥ずかしがりやで優しい、柔らかいという印象がありますが、同時に、日本人の皆さんは強さも持っていらっしゃるなと感じます。例を言えば、第二次世界大戦後、広島・長崎にあれほど大きな被害を受けたにも拘らず、ここまで立ち上がってきました。私自身も広島・長崎、また水俣市にも訪れたことがありますが、そこで感じたのは、日本人の皆さんは、常に強い精神力で現状をみなさんが良いと思う方に変えてきたんだな、ということです。

ここへ来る前に、津波の被害に遭ったという山元町の中浜小学校へ寄ってきましたが、中浜小学校の建物は非常に強い建物ですね。この建物があったおかげで当時まだ小学校に残っていた59人の生徒たちを含め総勢90人の人たちが、学校の屋上に上り小屋に入って、津波を凌いだと言われています。日本の建物そして中浜小学校という学校は非常に強い建物なんだなと感じました。

そしてこちらにいるGRAの岩佐大輝さんは、最初話を聞いたときに私は6,70代くらいの年配の方かと思っていましたが、とても若い方なのですね。この若さでここまでの美しいイチゴ農園を作ったなんて、本当に素晴らしいと思いました。岩佐さん、本当におめでとうございます。

カイラシュ氏(左)とGRA代表 岩佐(右)
カイラシュ氏(左)とGRA代表 岩佐(右)

【岩佐】ありがとうございます。今日はカイラシュさんもお見えなので、GRAの活動を紹介したいと思います。

この山元町という町は、当時まだ小さかった人もいれば大人だった人もいると思いますが、5年前の震災で起きた津波で人口の4%が亡くなってしまいました。こういった大変な状況の中で、みなさんの家族や多くの友達が犠牲になった方も多いのではないかと思います。さらに、この5年間で人口の20%が、山元町の外へ出ていき、いなくなってしまっている。大変危機的な状況にあるのが山元町の現状です。

この山元町というのは元々とてもおいしいイチゴ産業が有名で、私のおじいちゃんもイチゴ農家だったんですね。それで震災後にイチゴでこの町を復興しようと思って、震災の跡地に井戸を作ってイチゴを作り始めたのが始まりです。私と橋元洋平と、農業を40年やってきた農家の橋元忠嗣と、一から3人で始めました。

伝統的な農業と新しいテクノロジーを組み合わせることで、ITを学びたいような若い人も入れるような農業を作りたいと思いました。この山元町には歳を取った農家さんだけではなくて、私のように若い農家もたくさん集まってきていて、GRAもとても若い会社です。例えばコンピューターを使って温度や水を管理できる。それが私たちの新しい農業です。

そしてミガキイチゴというのを作って、今はそれを世界に売っています。実は2013年にはインドにも農場を作りました。インドにあるマハラシュトラ州のプネという町に、女性も働けるハウスを作って今ではインドでもみんなでイチゴを作っています。

インドでは貧富の差がとても大きく、あるお金持ちの社長の家である大きなビルがある場所からたった200mくらいしか離れていない場所に、貧しい人のいるスラムがあるんです。私たちはこういったインドの問題をイチゴで解決しようとしています。実は山元町のイチゴというのはインドでも作られているんですね。

最近では、私が日本に戻った後はインドには日本人の駐在員が行き、20人くらいのインドの方にイチゴ作りを覚えてもらって、インドでイチゴが作れるようになりました。そしてインドの方に山元町と同じように美味しいイチゴを食べて頂けるようにしています。小学校6年生の方は、理科の教科書にその活動が載っているので、教科書を見てみてくださいね。そういったのが、私たちの活動です。

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【岩佐】カイラシュさんは、子どもたちが労働を強いられている場所に入り児童労働を辞めさせる活動をしているとのことですが、子どもを使って仕事をしている人というのはマフィアや武器を持った怖い人だと思います。そこへ飛び込むときに怖い思いをしたことや、危険な目にあったことはないんでしょうか?

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【カイラシュ】みなさん学校に行っていますか?児童労働を強いられている子どもたちは学校へ行っていません。本当に朝早くから夜遅くまでずっと働かなければいけないという状況にいます。それも労働環境は劣悪です。岩佐さんの言うように、そこで子どもたちを使う人間というのはとても危険です。私はそこに入り込んだら、棒で攻撃をしかけられました。子どもたちを外へ出してあげようとするのですが、何回も攻撃をされ、左足が折れたこともあります。右肩、頭、背中も。左手だけ元気です。本当にそこはとても危険な場所で私の友人も襲われ、二人がそこで殺されました。

でも私は、子どもたちは自由になるべきだ、そして学校に行くべきだと、信じている。みなさんも、世界中の子どもたちが学校に行ってほしいと思うでしょう。あのような扱いを受けるべきではないのです。ですから、もちろん場合によっては危険なところへ足を踏み入れなければいけないこともあります。でも私は、子どもたちはああいう形で劣悪な環境にねじ込まれるべきではないと思うのです。

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【岩佐】カイラシュさんの話を聞いて、とても強い想いを感じました。私たちは誰もが強い心を持って、素敵ないい世の中を作っていかなければいけないと思うのですが、どうすればそういう強い志、想いを育てることができるんでしょうか。私たちは親の立場であって、今日きている子どもたちも、これからどんどん成長して大人になろうとしている。どうやったら、カイラシュさんのような強い志、ハート、勇気を持てるんでしょうか。

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【カイラシュ】みなさんは既に強いと思います。ここで私がみなさんに、どうすれば力強さを保てるのか、ということを教える必要はないと思います。ただ、もし私との違いがあるとすれば、多分みんなが今強いのは自分のため、自分の家族や周りの人のために強くいられるのだろうと思います。

でも世界というのは、自分のためだけに強さを持っているだけではこの先立ち行かなくなってくると思うのです。ですので、自分のためではなくて他人のために、他の人がより良い生活をできるように、自分の強さを使うということもぜひ考えて頂きたいと思います。みなさんには、世界中の子どもたちのことを考えてほしいです。中には奴隷のように働かされている子どもたちがいます。学校に行く歳の子どもで学校に行けていない子どもたちもたくさんいます。そのためにそういう子どもたちにも思いを馳せることを心掛けてほしいなと思います。

ここにいるみなさんはおそらく日本で生まれ、私はインドで生まれ、同僚のアンジェリカはアメリカで生まれました。みんなどこかで生まれているわけです。でも私たちは生まれた場所は様々ですが、一つ共通していることがあります。それはみんなこの地球上で、地球という惑星で生まれたということです。

それが私たちを世界で生きるものとして繋げる要素だと思うんです。私は今たまたま日本にいて自分の足を日本の地につけていますが、それは地球上ということになります。私の妻は今インドにいますがインドはやはり地球上にあって、私の友人は今アメリカにいますが、アメリカもやはり地球上にあります。そうやって、アフリカなども含め他の地域も全て地球上に存在しているということで繋がっているんだ、だからこそ大きな意味で言えばみんな全員が家族であるということを考えて頂きたいなと思います。

子どもたちの中には靴を作るために一日中働いている子もいますし、また服を作るために働いている子どもたちもいます。そして私たちはそれを利用しているわけです。みなさん今日チョコレートを貰ったと思いますが、その原料のカカオを育てるためにも児童労働が行われています。その児童労働で作られたカカオを知らず知らずのうちに食べていることもあります。だから、そういう風に強制的に労働させられている子どもたちがいるんだということを、そして全ての子どもたちは学校に行く自由を持っているべきなんだということを、みなさんも是非考えて頂きたいなと思います。

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【岩佐】ありがとうございます。私は、どうやったら世界や日本が良くなるか、みんなが幸せになるか、ということをいつも考えます。でもほとんどのことはおそらく考えるだけでは解決しないことばかりだと思います。大事なことは二つあると思っていて、一つは辛い人がどういう気持ちでいるかを心を透明にして感じることが大事だと私は思っています。考えることも大事ですが、感じることはもっともっと大事だと思っています。

そして感じるために行動してみることが大切だと、今カイラシュさんの話を聞いて思いました。カイラシュさんは、子どもたちはとにかくみんなが勉強すべきだという強い想いを持っています。たいていの人はそこで終わってしまいますが、カイラシュさんは、想いを持っているだけではなくて行動しているということ、そしてその行動量が普通の人とは全然違う点だと思います。ここにいる私たちも、どんどんそう思ったら行動して感じることが大切で、そういう人たちがたくさんいればおそらく世界はもっと良くなっていくんじゃないかと、私は思っています。

山元町の子どもたちからの質問に答えるカイラシュ氏
山元町の子どもたちからの質問に答えるカイラシュ氏

【岩佐】最後の質問ですが、まだ世界中には紛争もあるし、先日は日本の熊本で巨大な地震がありたくさんの人が亡くなったり、またこれからも戦争が起こったりすることも考えられるのですが、どうすればもっと世界が良くなると考えられますか?

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【カイラシュ】私は、今のまま自己中心的な考えのためだけに母なる自然、母なる大地を破壊し搾取していったら、多くのことがまずい状態になってくると常に感じています。実際既にまずい状態になっていて、例えば世界で気候変動、地球の温暖化という問題が起きています。これは全て我々が自然を我々の良いように使い込んでいき、自然がそれに反応したという結果です。私たちはちゃんと自然のことを考えたうえで様々なものを使っていくべきだと思うんですね。

特に考えなしに例えば水や服、食料、石油などを無駄遣いしていくと、確実に危険な状況を生み出すのであって、そしてそれは私たちに返ってくることになります。ですので、私たちは消費者として常に、これがこの先地球温暖化の問題に反応するんだ、ということなどを考えて使わなければならないと思います。

皆さんに質問ですが、地球は何個ありますか?一つですね。太陽は?一つです。二つじゃないですね。月はどうでしょうか?やはり一つです。ではインドで、あるいはガーナで働いている子どもたちは、手は何本ありますか?二本ですね。目は?二つですね。足も二本です。例えば流れている血は、緑でしょうか?みんな赤ですね。そうすると、みなさんの違いってありますか?ありませんね。それが、みんなが家族であるということの証です。

だから、みんながその家族を守っていく。お互いに愛情をもって尊重して、お互いのためにできることをしていく。それが子どもの労働、奴隷をなくす、ということに繋がっていくと思います。みなさん、そう思いますね?これで、私はたくさんの友達が今日この部屋に生まれました。ありがとうございました。

子どもたちとの写真を撮るカイラシュ氏
子どもたちとの写真を撮るカイラシュ氏
認定NPO法人ACEの代表岩附さん(右)と白木さん(左)、GRA岩佐(中)
認定NPO法人ACEの代表岩附さん(右)と白木さん(左)、GRA岩佐(中)

カイラシュ・サティーアーティー

カイラシュ・サティヤルティ子ども財団」 創設者 「児童労働に反対するグローバルマーチ」名誉代表 2014年ノーベル平和賞受賞者。1954年1月11日、インド・マディヤブ ラデシュ州ビディシャ生まれ。1980年、 26歳で子どもの強制労働を撲滅する団体を設立。30年以上にわたり、児童労働問題にグローバルに取り組む。創設した NGO、BBA(子ども時代を救え運動)では 84,000人以上の子どもを過酷な労働から救い、救出された子どもに対する教育やリハビリのモデルケースとなっている。「児童労働に反対するグローバルマーチ」を構想。1998年に子どもを含む市民を巻き込み 5 大陸でマーチを実現させ、翌年のILO 最悪の形態の児童労働条約の採択に つなげた。「子どもや若者の抑圧、またすべての子どもの教育における権利に 対する闘い」の功績が認められ、2014年マララ・ユスフザイ氏と共にノーベ ル平和賞を受賞。

起業家/サーファー

1977年、宮城県山元町生まれ。2002年、大学在学中にIT起業。2011年の東日本大震災後は、壊滅的な被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。アグリテックを軸とした「地方の再創造」をライフワークとするようになる。農業ビジネスに構造変革を起こし、ひと粒1000円の「ミガキイチゴ」を生み出す。 著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『絶対にギブアップしたくない人のための成功する農業』(朝日新聞出版)などがある。人生のテーマは「旅するように暮らそう」。趣味はサーフィンとキックボクシング。

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