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松嶋啓介×岩佐大輝の「世界に羽ばたく」対談<前編>

岩佐大輝起業家/サーファー
Keisuke Matsushimaオーナーシェフ松嶋氏(左)とGRA岩佐(右)

1月15日、「いちごの日」に毎年恒例のミガキイチゴ・ナイトが原宿のKeisuke Matsushimaで開催されました。オーナーシェフの松嶋啓介さんとGRA岩佐大輝の「世界に羽ばたく」対談(前編)。

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岩佐)以前に僕のブログの「脱ステップ論」というコラムが予想外にめちゃくちゃバズったんだけど、おそらく多くの若者が世界に打って出ることを夢見ているんだよね。今日は「世界に羽ばたく」がテーマなので、そんな話をしよう。

脱ステップ論
脱ステップ論

岩佐)啓介は20歳でいきなりフランスに渡ったんだよね。まさに脱ステップ論を体現した人だと思うのだけど、じゃフランス語は現地に行ってから勉強したの?何だかんだ言って言葉ってすごく大事だから。

松嶋)僕はフランスに行く前に、料理単語は全て覚えていたんです。海外でスポーツ選手に料理を作っていたんですが、彼らに「どう言葉を覚えたんですか?」と聞かれた時、「とにかく単語だけを覚えること」と答えていました。すると「どう単語だけで言葉が通じるんですか?」と聞かれるんですけど、みなさんの日本語も多分おかしいと思うんですよね。でも、今僕は「みなさんの日本語もおかしいと思う」と言いましたけど、「みなさんのおかしい日本語」と順番を変えても多分意味は伝わると思うんですよ。相手に聞く耳を持たせることができれば、単語だけを並べても意味は伝わる。僕は、言葉に自信がないという人にいつもこう言うんですけど、まずは相手が聞いてくれる姿勢をどうやって作るか、努力することが重要だと思うんです。

岩佐)聞いてくれるための努力っていうのは、例えばどういうもの?

松嶋)例えば、こういう会場であれば「すみません、静かにしてください!」って言えば聞いてくれると思うんですよ。また、面談させてもらいたいのであれば何か物を持っていくと思いますし、自分が流暢に話せないのであれば、相手が聞く姿勢を作ってくれるように仕掛けて、あとは単語だけ喋れたら問題ないと思います。僕は未熟だからと謙虚でいるのもいいですが、人間って面白いことにおせっかいするのが好きなんですよね。一生懸命話していたら、「それ言葉の使い方間違ってるよ」って教えてくれると思うし、海外に行ったらとにかく相手の懐に入って自分が話しやすい環境を作り、会話しようとしていたと思う。僕がそれを本田くんに教えた時は、彼はオランダ二部リーグのキャプテンでしたが、彼の話す言葉は「ホングリッシュ」と言われてましたね。

岩佐)僕も全然海外の留学経験もないのに英語を使わなければいけない仕事をしているから、今すごく苦労しているけど、テクニックよりも想いとか非言語コミュニケーションが、コミュニケーションの7割くらいを決めるんじゃないかなと思いますね。イチゴを売りに行くときも、誰がどういう想いで作ったものです、というのを必死で伝えると、お店の人もじゃあ少し扱ってみようか、となるんだよね。もちろん言語も重要だけど、その国の人たちの心に入り込んでいくように、しっかり自分の想いを伝える心意気がより重要なんじゃないかと。

そんなことを意識していたら、いつのまにかインドで現地パートナーとイチゴ農場を作ることもできた。インドに出張に行った時に今でも絶対にやるのが、現地のメンバー全員とのハグ。もちろん女性とは握手だけだけど(笑)。

インドのイチゴ農場にて、現地パートナーたちと岩佐(右から三番目)
インドのイチゴ農場にて、現地パートナーたちと岩佐(右から三番目)

ところで、今日のミガキイチゴ・ナイトには農水省から日本食の輸出力強化プロジェクトの担当官も来てくれているんだけど、海外から見た日本食について、何かコメントがあれば。

松嶋)正直に言うと、日本食を頑張って海外へ持っていく必要はないと思います。もうすでに海外には、日本が大好きで日本的なお店をやっている人はたくさんいます。でも日本人からしたら「それは日本食じゃないよね」、というようなお寿司屋さんとかお店がたくさんあると思うんですけど、それも日本食だということを受け入れてあげることが大事かなと思うんです。僕は普段フランスに住んでいますが、日本に帰ってくるといつも、フランス料理は東京には一軒もないと感じます。残念ながら、なんちゃってフランス料理しかない。ということを僕が言ったらどうなるかと言うと、非難轟々です。まあ平気でよく言いますが(笑)。でもそれと同じように、なんちゃって日本料理に対して、「これは日本的じゃないよ」と上から目線で見る日本人があまりに多いと思う。おもてなしを大事にする優しい民族だと自分でも言っている私たちが、他人が生み出したものについては厳しく、おもてなしの精神は全く感じられないので、そういったところから寛容になれば、もう少し早いスピードで日本食も広まるんじゃないかなと思います。あれも日本食だっていうことをまずは受け入れてあげることが大事かなと。

岩佐)今こんな真面目な話しながらこんな変ないちごのかぶり物を被っていてもいいのかなと思ったんだけど(笑)

松嶋)僕はそれも受け入れます(笑)

岩佐)日本人は「カリフォルニアロールは寿司じゃない」とかよく言うじゃん。でも日本食が世界文化遺産に登録されたけど、世界の人が評価している日本食というのは、例えばカリフォルニアロールのような、世界の人が日本食だと思っているものも含めた広義の日本食なんだよね。日本食原理主義だけを海外へ持っていくのは、マーケティングで言うとプロダクトアウトの発想だけど、そうではなく、その土地の人をリスペクトしてその土地に入り込むようにすれば、もっと日本食は広まるんじゃないかな、と思っているんだ。

<後編に続く>

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松嶋啓介

1977年12月20日生まれ。20歳で料理の修行のため渡仏し、25歳になった2002年、ニースでフランス料理レストランKEISUKE MATSUSHIMA(※開店当時の店名はKei’s Passion)をオープン。地元の食材を用いた料理を提供し、2006年にはミシュランガイドで一つ星の評価を獲得。東京では2009年よりKEISUKE MATSUSHIMA(※開店当時の店名はRestaurant-I )(渋谷区神宮前)をオープン。

起業家/サーファー

1977年、宮城県山元町生まれ。2002年、大学在学中にIT起業。2011年の東日本大震災後は、壊滅的な被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。アグリテックを軸とした「地方の再創造」をライフワークとするようになる。農業ビジネスに構造変革を起こし、ひと粒1000円の「ミガキイチゴ」を生み出す。 著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『絶対にギブアップしたくない人のための成功する農業』(朝日新聞出版)などがある。人生のテーマは「旅するように暮らそう」。趣味はサーフィンとキックボクシング。

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