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定額制音楽配信のDeezerが1億ドルを新規調達

ジェイ・コウガミデジタル音楽ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

フランスの定額制音楽配信「Deezer」が1億900万ドルの資金調達を完了したことを発表しました。

今回の投資は、ワーナーミュージック・グループの親会社である投資会社のAccess Industryと、フランスのモバイルキャリアの「Orange」が行いました。ロシア人の投資家レン・ブラバトニック(Len Blavatnik)率いるAccess Industriesは、過去にDeezerへ投資した他にも、アップルが買収した定額制音楽配信の「Beats Music」や、チケットサービスの「Songkick」等の音楽サービスに投資を行っています。2006年創業のDeezerは今回のシリーズEラウンドを合わせて資金調達額が2億1600万ドルに達しました。

Deezerは昨年9月にIPOの準備に入ったことを発表して3億4300万ドルの資金を調達することを目指していました。しかし10月になり、「市場の状況」を理由にIPO計画を取り止めました。

現在世界180カ国以上に展開するDeezerは、規模の数では世界最大の定額制音楽配信サービスになります。ライバルのApple Musicは世界100カ国以上、Spotifyはわずか58カ国に展開するのみです。

しかしユーザー数となれば、立場が逆転します。Spotifyはアクティブユーザーが7500万人以上、有料会員は2000万人以上で、他社を大きくリードしています。

Apple Musicは1月の報道では、有料会員数が1000万人を超えたと言われています。

Deezerは2015年の段階でアクティブユーザー1600万人有料会員が634万人と答えており、この3サービスでは最も有料会員からのビジネスで成功していないのが現状です。

ちなみに、昨年ブランド戦略を変更して再出発した、高音質が売りの定額制音楽配信「Tidal」は100万人の有料会員を獲得しています。

DeezerのCEO、ハンス・ホルガー・アルブレヒト(Hans-Holger Albrecht)はニューヨーク・タイムズに対して撤回したIPOと競争の激しい市場について、「競合相手に遅れないように行くことは簡単じゃない。しかしこの市場は一つの企業が全てを勝ち得る市場ではないはずだ。もしモバイル事業者と協力関係を作れれば、Spotifyのような厳しい経済状況にならないだろう」と答えています。

世界中が注目する定額制音楽配信では、2016年にはますます競争が高まると予想されています。昨年はグーグルも「YouTube Red」を正式発表し、Google Play Musicと合わせてサービスの拡大を目指すと思われます。またRdioが経営難のために破産申請を行いPandoraに資産が引き継がれるなど、定額制音楽配信で競争していくための成長戦略と認知拡大のマーケティングが結果として現れているサービスとそうでないサービスの差が浮き彫りになっています。

アルブレヒトによれば、DeezerはApple Musicが始まった6月以降も変わらずに同じペースで成長し続け、ユーザーが減少するといった変化も見られなかったそうです。

Deezerの成長戦略で大きな比重を占めているのが、Orangeなどサードパーティとのパートナーシップです。OrangeのほかにもCricket Wireless、T-Mobileなどのモバイルキャリアと提携を結び、ユーザーには低価格のバンドルプランを提供しています。しかしこれらの提携の多くはアメリカ以外の国で行われているため、Deezerは世界最大の音楽市場ではSpotifyやApple Musicのように思い切った戦略を打ち出していません。

新たに調達した資金は、Deezerのヨーロッパ地域におけるマーケティング活動と営業活動に投じられるとのことです。

ソース

Deezer Raises $109 Million After Postponing I.P.O.(The New York Times)

Image byDeezerFacebook

この記事はデジタル音楽ブログ「All Digital Music」で2016年1月22日に掲載された記事の転載です。

デジタル音楽ジャーナリスト

専門は「世界の音楽ビジネス、音楽業界xテクノロジー」の執筆・取材・リサーチ。音楽ビジネスメディア「All Digital Music」、音楽業界専門のマーケティング支援会社「Music Ally Japan」や、音楽ストリーミング・データ分析プラットフォーム「Chartmetric」日本事業展開も担当。グローバル音楽業界、レコード会社、ストリーミングサービスのビジネスモデル、トレンド分析、企業分析に関する記事執筆多数。

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