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2015年の音楽産業、史上初めてデジタル売上がフィジカルを上回り3.2%プラス成長

ジェイ・コウガミデジタル音楽ジャーナリスト
IFPIレポート2015年版(写真:ロイター/アフロ)

デジタルと音楽の市場が世界的に成功に繋がり始めました。

世界各国の音楽産業団体を代表する国際レコード産業連盟(IFPI)が毎年公開している、グローバル音楽レポートの2016年版が発表されました。

IFPIはレポートで、2016年度の音楽産業全体は収益が3.2%増加して150億ドル(1兆6250億円)を記録、約20年ぶりに音楽産業がプラス成長したことを明らかにしています。2015年が記録した3.2%のプラス成長は、IFPIが1998年に報告した世界市場の収益増加4.8%以来となる記録となったことで、音楽産業にとって明るい未来が見えてきました。

今回は公開されたIFPIレポートの数字をシェアしていきます。

なおレポートは今後も詳しく分析して紹介していきたいと思います。

もし「こんな情報、ありますか?」「ここが詳しく知りたい」などありましたら、Facebookなどで直接ご連絡ください。

IFPIレポートによると、2016年はデジタル音楽からの収益が全体の45%を占め、39%だったフィジカル売上を初めて上回った、歴史的な一年となりました。デジタルを後押ししたのは、SpotifyやApple Musicなどの音楽ストリーミングでした。今年は全体の収益源の中でシェア19%を獲得(前年の14%から更に成長)、売上は前年から45.2%と大きく増加し、29億ドル(3140億円)の売上高を達成しました。2015年までの過去5年間で音楽ストリーミングは4倍以上成長し、現在では業界で最も急激に成長している収益源となりました。

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デジタルからの収益は前年比10.2%増加して67億ドル(7260億円)。音楽ストリーミングの売上が大きな成長を遂げたことで、ダウンロードおよびフィジカルからの収益低下を上回ることができました。IFPIは19カ国の音楽市場でデジタル売上がフィジカルを上回ったと報告しています。

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デジタルの領域ではストリーミングの収益がシェア43%を占め、ダウンロードの45%に迫っています。

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音楽配信が市場を牽引

定額制音楽ストリーミングの成功がこの領域の成長をリードしています。定額制サービスの有料会員数は世界で推定6800万人を超えました。2010年の時点で世界の有料会員数はわずか800万人、2014年では4100万人だったことからも、この一年でどれほど大きな成長を実現したかが分かります。SpotifyやApple Musicなど定額制音楽ストリーミングサービスからの収益は推定20億ドル(2168億円)でした。

成長率でみると、SpotifyやDeezerなどフリーミアムモデルを含む定額制音楽ストリーミングサービスは、58.9%成長。一方でYouTubeなどオンデマンド型動画配信サービスを含む広告型のストリーミングサービスは11.3%の成長となりました。

ダウンロードは、業界全体の20%を占めてわずかに音楽ストリーミングを上回りました。しかし、2015年の売上は10.5%の二桁減少、30億ドル(3250億円)の売上高となりました。2014年の減少率が8.2%だったことから、2015年にはさらにダウンロードされる数が減っています。アルバムダウンロードは14億ドル。

CDなどフィジカルからの売上は引き続き減少しています。2015年は前年比4.5%売上が落ち込みましたが、2014年の8.5%と2013年の10.6%よりも、減少する速度が落ちていることがわかります。フィジカル市場は市場でシェア39%を現在も維持。レポートでは、日本(75%)がドイツ(60%)、フランス(42%)と一緒に、フィジカル市場中心の音楽産業と紹介されています。

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広告型音楽サービスは将来の不安要素?==

ストリーミングの影響により、音楽の消費が飛躍的に増大した一方で、IFPIは「value gap=価値の乖離」の影響によって、アーティストとレーベルに公平な対価が支払われていない根本的な問題が表面化していることを指摘します。「value gap」を生む原因としてIFPIが挙げているのが、ユーザーが自主的に投稿できる音楽サービスが、適応されるべき音楽ライセンスの契約に乗っ取らずにサービスを運営している点や、欧米の”免責条項”を理由に人為的に低く抑えられたレートでライセンス契約を行っている点を指摘しています。

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問題となっているのが、「広告モデル」の音楽ストリーミングサービスで、上のチャートが示すように定額制音楽サービスが有料会員が推定6800万人で20億ドルの収益を音楽業界にもたらしている一方で、広告型音楽サービスは9億人の推定ユーザーを抱えながらも収益は6億3400万ドルと定額制の1/3ほどで、音楽業界への貢献ができていない仕組みとなっています。

IFPIは免責条項が、積極的に音楽配信を行っている音楽サービスに適応されるべきではないと力説し、その結果として市場のゆがみ、不公平な競争、そしてアーティストとレーベルに作品の正当な対価が支払われない状況を生んでいる現状のシステムを非難します。音楽の権利関係者とクリエイティブ業界はこの不平等な法的権限を変えるべく活動しています。

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この不平等なライセンス契約を示している一例がこちら。これは1ユーザー当たりの収益をSpotifyとYouTubeで比べたもの。18ドル(1951円)のSpotifyに比べて、YouTubeでは1ドル以下(108円)にまで下がってしまいます。

広告型音楽ストリーミングの収益は11.3%増加し売上高は6億3000万ドルでした。

音楽産業がここまで広告型の無料音楽サービスにシビアになるのも、これまでは定額制音楽サービスがどれほど成功するのかわからなかったことも幸いしていたが、2015年の成長を見る限り、ビジネス的な可能性が見込まれるようになったことで、市場全体が今後も引き続き成長すると期待が高まっている証拠だと思います。逆の見方をすれば、広告型を展開する無料音楽サービスが、今後の成長における不安要素となってしまったと言えるでしょう。今後日本の音楽ビジネス市場においては、定額制音楽サービスが普及段階にある中で、アーティストとレーベルとのライセンス契約の交渉では、広告型音楽サービスを使うのか、それともフリーミアムモデルを使うのか、有料モデルを使うのか、それぞれのメリットとデメリットが引き続き議論されていくように感じます。

ソース

IFPI Global Music Report 2016(IFPI)

この記事はデジタル音楽ブログ「All Digital Music」で2016年4月12日に掲載された記事の転載です。

デジタル音楽ジャーナリスト

専門は「世界の音楽ビジネス、音楽業界xテクノロジー」の執筆・取材・リサーチ。音楽ビジネスメディア「All Digital Music」、音楽業界専門のマーケティング支援会社「Music Ally Japan」や、音楽ストリーミング・データ分析プラットフォーム「Chartmetric」日本事業展開も担当。グローバル音楽業界、レコード会社、ストリーミングサービスのビジネスモデル、トレンド分析、企業分析に関する記事執筆多数。

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