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小渕優子氏の経済産業大臣就任が意味するもの。女性はこれをどう読み解けばよいか。

治部れんげ東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

正式にはあと数時間で発表ですが、主要メディアの報道も出そろってきました。

朝日新聞(9月3日 0時50分)

http://www.asahi.com/articles/ASG9272C5G92UTFK011.html

日経新聞(9月3日 1時30分)

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDE02H08_S4A900C1MM8000/?dg=1

NHK(9月3日 4時57分)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140903/t10014299881000.html

ちょうど昨日(9月2日)夜8時から、日経CNBCのウェブ特番マーケッツのツボ」で、ウーマノミクスと内閣改造について、お話をしています。番組自体は会員制ですが、冒頭15分をYoutubeでご覧いただけます

小渕氏が「ママたち」に語ったこと

本稿では、小渕氏・経産相就任の意味について考えてみたいと思います。実はちょうど先週、小渕氏の話を直に聞く機会がありました。閣僚人事が微妙な時期で「取材はNG」でしたが、次世代社会研究機構の企画で、私が子育て中の友人10数名に声をかけ「母親目線で政策について意見交換する」という趣旨でお時間をいただきました。政治団体ではないので「気軽に政治参加するママの会」と名付けてみました。

参加した母親10数名は、大半が働いており、仕事と育児の両立に多かれ少なかれ課題を感じていました。彼女たちの希望で共通するところは「男性も育児参加できるような働き方」であり「長時間労働の是正」です。

この点について、小渕氏の考え方やロジックの立て方は説得力が高いと思います。小渕氏は「女性活用は一丁目一番地」と述べます。そのココロは「女性が働き続けられるような環境を作ることは、女性だけでなく老若男女皆にとってメリットがある」ためです。

母親が働きやすくなれば老若男女働ける

例えばある女性が出産後も働き続けようと思ったら、その女性の夫、つまり男性の家庭参加が必要になってきます。このようにして女性の就労継続は男性の働き方を変えます。また、育児中の社員は基本的に長時間残業をしませんから、職場では仕事の割り振り方、成果の考え方を見直す必要が出てきます。単に母親に配慮することに留まらず「時間当たりの生産性」に着目して人事評価をする必要が出てくるでしょう。育児と仕事の両立が可能になることは、介護と仕事の両立も可能にします。さらに、高齢化社会を迎え、労働者の高齢化も避けて通れません。何がしかの持病や体調不良を抱えながらも、完全に仕事を辞めず働き続けたいと考える人は増えてくるでしょう。

つまり、「女性=家庭責任を抱える労働者」の能力を最大限活用できる環境整備を進めることは、少子高齢化が進む日本が一定の経済力と活力を維持するために必要不可欠なのです。

こうした背景を考えると、小渕氏の経産相起用は、安倍政権が「女性活用は経済の最優先課題」と認識したことのメッセージと解釈することができます。私、個人的にはこれまで、雑誌記事などで見てきた小渕氏の「ふつうの人の感覚を保った育児」に共感します。子育て政策も経済政策も、自分自身で手を動かし、悩んだ経験のある人にリーダーシップを取ってほしい、そう思うからです。

リベラル系女性たちが警戒すること

女性有識者の中には、人気の小渕氏起用で安倍政権が盤石なものになることに対する警戒心も残っています。これまで安倍首相が公言してきた伝統的な家族観と、経済面における女性の登用は論理的に考えれば両立し得ません。果たしてこの点をどう考えるのか。また、女性票を確保した上で安倍流外交政策を一気に進められると困る、という意見もよく耳にします。

私自身はやっと来た好機を女性の側が上手に活用し、経済的な地位を上げていくと同時に、権力に近づく喜びに酔うことなく、適切にチェックしていく、戦略性を身に付けるしかない、と思っています。

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社で16年間、経済誌記者。2006年~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年からフリージャーナリスト。2018年一橋大学大学院経営学修士。2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、国際女性会議WAW!国内アドバイザー、東京都男女平等参画審議会委員、豊島区男女共同参画推進会議会長など男女平等関係の公職多数。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)、『ジェンダーで見るヒットドラマ』(光文社新書)などがある。

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