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ルワンダから女子中学生など3人が来日。彼女たちの日常、東京の女子大生との意外な会話

治部れんげ東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト
ルワンダから来日した女子中学生とジェンダー専門家。

今日、10月11日は「国際ガールズ・デー」です。この日のため、アフリカのルワンダから2人の女の子がやってきました。レベッカさん(写真左)とフランソワーズ(写真中)さんです。ふたりは共に中学生。国際NGOプラン・インターナショナル(略称:プラン)の支援を受けて、学校に通っています。

(本文中で紹介している4点の写真はすべてプラン・インターナショナル提供)

男の子の意識を変えるプログラム「ボーイズ・フォー・チェンジ」

プランでは、男の子のジェンダー平等への理解を進め、女の子と協力する姿勢を醸成するプロジェクト「ボーイズ・フォー・チェンジ」、女の子が夜間も勉強できるようサポートするソーラーランプの支給、生理期間中に学校を休まなくてよいように生理用品や衛生キットを集めた「ガールズ・キット」の支給、家畜をつがいで支給して、生まれてくる家畜を市場に出すことで学資や生理用品費等の捻出をサポートする家畜の支給などを行っています。

ジェンダー平等の活動に参加するフランソワーズさん
ジェンダー平等の活動に参加するフランソワーズさん

今回、ふたりは、日本のプランの招待で日本に来ています。東京で開かれた、国際ガールズ・デーのイベントや、都内の大学、埼玉県上尾市の中学校などで講演をするためです。

ルワンダでシングルマザー家庭に育つということ

レベッカさんとフランソワーズさんに共通するのは、共に15歳の女の子であること。そして、お母さんは彼女たちを妊娠したことをきっかけに、学校を中退したことです。ふたりとも、お父さんを知りません。家庭環境や経済状況もあり、日常生活には大変なことがたくさんあります。当初、ふたりとも、それぞれの祖父に支援されて生活や学費をまかなってきました。でも、祖父が亡くなったことをきっかけに、ふたりの生活は困難を増していきました。

レベッカさんのお母さんは、事故でけがをしてしまい、働くことや家事がままなりません。そのため、レベッカさんは毎朝5時半に起きると、床掃除、水汲み、お皿洗い、牛のための草取りなどをしてから学校へ行きます。お母さんや兄弟のための食事作りも、レベッカさんの「仕事」です。

食事のしたくをするレベッカさん
食事のしたくをするレベッカさん

フランソワーズさんは、祖父が亡くなった後、ある裕福な女性の養女となりました。養女といっても、生活は家事使用人に近いものです。毎朝5時に起きて床掃除、水汲みなどをした後で学校へ行きます。

水汲みをするフランソワーズさん
水汲みをするフランソワーズさん

ふたりの生活は、日本のふつうの中学生とは全く異なります。話を聞いていて思い出したのは、家事育児を配偶者に分担してもらえず、ひとりでがんばっているワーキングマザーの生活でした。ただし日本のワーキングマザーは、多くの場合、教育を受けた後で、仕事と家事育児を両立していますが、レベッカさんとフランソワーズさんは、教育を受けながら、家事の責任者という仕事をこなしているのです。

家庭内の仕事は「女の子がやるべき」と思われている

ところで、レベッカさんやフランソワーズさんのように、家事全般を中学生の子どもがやることはルワンダでは普通なのでしょうか。

フランソワーズさんは言います。「男の子と女の子がいる場合、女の子の方が家事をするべき、という規範が私の国にはあります。でも、家族がいれば他の人も家事をやってくれます。私の大変さは、私の他に、家事をする人がいないことからきています」。

レベッカさんもほぼ、同じ意見を持っていました。「家事は、女の子がやるのが規範ですが、私の場合、同居している人が少ないため、より大変になっています」。

ジェンダー・ギャップ指数、ルワンダは6位、日本は101位

ルワンダは、国際比較データを見ると、女性の地位が高い国です。世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」によると、2015年にルワンダは6位でした。日本は101位です。(こちらのレポート16~17ページをご覧ください。)。

ジェンダー・ギャップ指数は、経済、政治、教育、健康の4分野で国内の男女格差の大きさを測ったものです。差が大きいほど、順位は低くなります。日本の場合、国全体は豊かですが、経済・政治分野の意思決定に関与する女性が少ないことが、ランキングの順位を大きく下げています。一方、ルワンダはアフリカ地域でトップ10に入っている唯一の国です。特に政治分野のランキングが高く7位となっています。その理由は、議員に占める女性比率が64%と高いことです。

今回、ふたりの中学生と一緒に来日したプラン・インターナショナルのジェンダー専門家グレースさん(写真右)は言います。

女性の政治家が多いと何が起きるか

「議会に女性が多いため、女の子の問題に積極的に取り組んでいます。教育や女の子のリーダーシップなど、変えるためのプラットフォームを政治主導で作ってきました。また、マイクロファイナンスなどの仕組みを通じて、経済面でも女性のエンパワーメントを進めています」

3人の話をまとめると、レベッカさんやフランソワーズさんの話に代表される女の子特有の困難がルワンダにはあること。それを女性政治家が率先して変えようとしている、ということです。例えば生活保護や公的医療保険、ひとり親支援の制度など、日本が持っている福祉制度を導入し、きちんと使えるようにすれば経済的な支援になりそうです。

今回、初めて村から出て、初めて飛行機に乗ったレベッカさんは「日本は美しい国だと思います」、レベッカさんは「日本の中学校には校庭があって、子どもが遊ぶスペースがあるのが素晴らしい」と驚いていました。いつでも電気を使える環境そのものが、ふたりにとっては感動体験だったようです。

困難にあっても夢は明確。医師、ジャーナリスト目指し勉強中

朝5時に起きて家族の分まで家事をしながら学校に通う生活。夜は石油ランプが尽きたら本を読むのも難しい。それでも、ふたりはやりたいことが明確です。「医師になりたいと思っています。生物、化学、算数を頑張って、試験に受かるための準備をしています」(レベッカさん)。「がんばって時間を作って勉強しています。ジャーナリストになりたいので、特に言語を学ぶことに力を入れています。英語、スワヒリ語、フランス語の勉強をしています」(フランソワーズさん)。

医師を目指し勉強するレベッカさん
医師を目指し勉強するレベッカさん

東京の女子大生がルワンダのジェンダー専門家に相談したこと

日本人と話した感想を尋ねると、ジェンダー専門家のグレースさんが笑いながら、こんな風に話してくれました。

「面白いことがありました。日本の大学でお話した後、何人もの女子学生が私のところにやってきて、こう言ったのです。『父に、もっと母の手伝いをしてほしい』と。母親が父親からサポートされていたら、働くことや社会参加への意欲がわくはずです。この点は、日本もルワンダも同じだと思いました。

どんな国にも、ジェンダー・ギャップはあります。東アフリカの優等生と呼ばれる経済大国のケニアにも、そして日本にも、男女間の格差はありますよね。女性は従属的なもので、たとえ外で働いていても夫の言うことに従わなくてはいけない、という考えを持つ男性は先進国にもいるでしょう。」

豊かな日本に残るジェンダー格差

私が3人の話を聞いて感じたのは、日本の経済的な豊かさ。日本のひとり当たりGDPはルワンダの約24倍もあります。明かりがなくて夜、勉強するのが難しいルワンダの女の子と、いつでもネットにつながって情報収集できる日本の女の子がおかれた環境は確かに違います。ただ、豊かになってもなお、残るジェンダー格差の課題は共通していると思いました。例えば、家事育児をやるのは女性という意識の問題は、日本にもまだ根強く残っています。

レベッカさんとフランソワーズさんの学校生活や、男の子の意識を変えるプログラムなどについて、プランが開設したブログで読むことができます。国際ガールズ・デーの今日、ふたりの日記(記事の最後にリンクがあります)を読みながら、日本との違い、共通点などについて、身近な人と話をしてみませんか。

ボーイズ・フォー・チェンジに参加しました

ヤギ、ランプ、生理用品が支給されることになりました

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社で16年間、経済誌記者。2006年~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年からフリージャーナリスト。2018年一橋大学大学院経営学修士。2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、国際女性会議WAW!国内アドバイザー、東京都男女平等参画審議会委員、豊島区男女共同参画推進会議会長など男女平等関係の公職多数。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)、『ジェンダーで見るヒットドラマ』(光文社新書)などがある。

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