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ワールドカップはサッカーだけではない! アイスホッケーのワールドカップが12年ぶりに開催<後編>

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
1996年のワールドカップで優勝したアメリカ(写真:ロイター/アフロ)

*前編をご覧になられていない方は、こちらのリンクから ご覧ください。

▼NHLと国際アイスホッケー連盟の二人三脚

長野オリンピックの成功によって、国際アイスホッケー連盟(以下国際連盟)はNHL選手のオリンピック出場を、強力に推進するようになりました。

期せずして、長野の次はアメリカのソルトレイク。さらに、トリノ(イタリア)を挟んで、2010年には再び北米へ戻り、カナダのバンクーバーと、移動距離も少ない北米で行われるとあって、NHL各チームのオーナーも容認し、レギュラーシーズン中にオリンピックブレイクを設定。多くの選手たちが、祖国のジャージに袖を通してプレーをしました。

このような流れが示すとおり、NHLと国際連盟の二人三脚が続いたこともあって、1996年のあとにワールドカップが行われたのは、2004年の一度だけ。

というのも、2004年はNHLと選手会の労使協定更新の交渉が難航し、解決の見通しが立たないことから、9月14日をもって協定が失効する前に、「ひとまず稼いでおきしょうか!」と第2回ワールドカップを開催。

言ってみれば、「積極的に開催したワールドカップではなかった」のです。

(※ 結局労使交渉は長引き、この年のNHLは、北米メジャースポーツで初めてのフルシーズンキャンセルになりました)

▼二人三脚の終焉

ところが、このあとNHLは独自路線を進み出します。

2014年のソチオリンピックこそ、多くのNHL選手を輩出しているロシアが舞台とあって、オリンピックブレイクを設けましたが、2年後のピョンチャン(平昌)、2022年の北京に関して、NHLのゲーリー・ベットマン コミッショナーは、「ワールドカップを終えるまでは、(レギュラーシーズンを中断するオリンピックブレイクを継続するか否かの)結論は出さない」とコメント

その一方で、ゴルフのライダーカップを模した「北米選抜 vs ヨーロッパ選抜」の大会の開催を、NHL選手会と交渉中とも伝えられ、国際連盟との二人三脚にピリオドを打つ意向を示唆しています。

男子アイスホッケーは、冬季オリンピックで必ず最後に決勝が行われる花形競技とあって、NHL選手がオリンピックに参加するか否かは、プロモーション面をはじめ、国際連盟にとって大きな影響を及ぼします。

それだけに、NHLを筆頭に北米のプロリーグが導入している独自のルールを、次々と国際連盟でも採用し、「世界標準ルール」にするなど引き留めに必死でした。

しかしながら、NHLの意向は揺るがないため、国際連盟のルネ・ファゼル会長は、今春に「NHL選手がオリンピックに参加する際に負担してきた保険代や移動経費の負担は、今後行わない」と公言。

事実上の「NHL引き留め断念宣言」を行い、白旗を上げた模様です。

▼NHLが独自路線を歩む二つの理由

このようにNHLが独自路線を歩めるのには、二つの大きな理由が考えられます。

一つは「アメリカ経済が活況を呈している」こと。

12年前にシーズンフルキャンセルとなった時には、30チーム中20チームが赤字に陥っていましたが、現在は大きな財政的不安を抱えるチームは、見当たらない様子。各チームとも、有力選手との大型長期契約を結ぶなど、積極的なチーム運営が目につきます。

一方で、7チームがホームタウンとしているカナダの経済は、いささか低調な面も報じられていますが、トロントやモントリオール、さらにバンクーバーといった北米でも屈指のビッグシティをホームにしているチームもある上、何よりホッケーが国技というお土地柄だけに、スポンサーやファンからの注目度の高さは、大きな強みになっています。

そして、もう一つは「テレビの放映権収入」です。

アメリカでの全国放映権を持つ NBCユニバーサル とは、「2011-12シーズンから10年間」。一方のカナダでは、ロジャース コミュニケーションズ と、「2014-15シーズンから12年間」という長期契約を、それぞれ締結。

この他に、各チームのホームタウンローカル局との契約もあり、またワールドカップは、アメリカのスポーツ専門局 ESPNが放映権を取得と、NHLの ベットマン コミッショナーは、きっとホクホク顔を浮かべているに違いありません。

▼「ワールドカップ = 真の世界一決定戦」なのか?

12年ぶりに行われるワールドカップには、下記の8チームが参加します。

【グループA】

カナダアメリカチェコ

チーム・ヨーロッパ(=欧州出身のオールスターチーム)

【グループB】

ロシアスウェーデンフィンランド

チーム・ノースアメリカ(=北米出身の23歳以下のオールスターチーム)

過去2回はスロバキアとドイツが参加して、「8ヶ国による世界一決定戦」でしたが、第3回大会は、ヨーロッパのオールスターチームと、北米出身選手によるU23オールスターチームを結成して、「6ヶ国+2チーム」というフォーマットに変更。

さらに、第1回と第2回大会では、北米のみならず、ヨーロッパでも試合が行われましたが、来年のワールドカップは、カナダで全ての試合が開催されます。

このように、NHLが好き勝手に・・・

もとい、独自の色を強めて行われる12年ぶりのワールドカップが、真の世界一決定戦と呼べるのか? 異論が聞こえてきそうですが、果たしてどんな戦いが繰り広げられるのでしょうか?

カナダ最大の都市・トロントのエアカナダセンターを舞台にして、いよいよ半月後(現地時間17日)に幕開けとなります。

ワールドカップの舞台エアカナダセンター(Rights of Jiro Kato)
ワールドカップの舞台エアカナダセンター(Rights of Jiro Kato)
フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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