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アイスホッケー日本代表を完封したドイツ人GKは、オリンピック出場権よりも大きなものを手に入れた

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
長野オリンピックでも日本を倒したドイツが、ピョンチャンオリンピックの出場権を獲得(写真:ロイター/アフロ)

昨夜(現地時間)まで、ベラルーシ、ラトビア、ノルウェーの3ヶ国で、2018年に開催される「ピョンチャンオリンピック」の出場権を懸けた男子アイスホッケー最終予選が行われました。

国際アイスホッケー連盟の世界ランキング(一昨季終了時点=以下同様)に基づいて、上位8ヶ国(カナダ、ロシア、スウェーデン、フィンランド、アメリカ、チェコ、スイス、スロバキア)と開催国の韓国が、既に出場権を手にしていますが、残り3つの出場権を目指し、世界ランキングで9位から17位までの9チームと、二次予選を勝ち上がった3チームが、3つのグループに分かれて、1回戦総当たりの最終予選に臨みました。

2月に札幌で開かれた二次予選を勝ち上がった日本(ランキング20位)は、ラトビア(10位)、ドイツ(13位)、オーストリア(16位)と対戦しましたが、3戦全敗。

総得点「1」に対し、総失点「11」と完敗を喫してしまい、1980年のレイクプラシッド オリンピック以来となる「38年ぶりの自力出場」はなりませんでした・・・。

▼ドイツが二大会ぶりのオリンピック出場!

日本が戦ったE組では、ドイツが3連勝を飾って、二大会ぶりのオリンピック出場権を獲得。

ドイツは前回の「ソチオリンピック」の際には予選で敗れ、1952年の「オスロオリンピック」から続いていた連続出場が「16」でストップしてしまっただけに、試合終了後の選手たちは、文字どおり喜色満面!

そんなドイツの選手の中で、活躍が際立っていたのが、GKのフィリップ ・グルバウワー(24歳)です。

フィリップ・グルバウワー(Rights of Jiro Kato)
フィリップ・グルバウワー(Rights of Jiro Kato)

初戦の日本戦で、シャットアウトを演じたのに続いて、2戦目のオーストリア戦も、見事に完封勝利。

ピョンチャン行きのチケットを懸けた昨夜のラトビア戦こそ、2点を奪われましたが、3試合全てドイツのゴールを守り抜き、セーブ率(相手チームに浴びた全シュートに対するブロックした割合)は、「97%」(被シュート66 失点2)

アイスホッケーの試合では「シュートを10本打てば1点入る」のが平均値だと言われている中で、驚異的なセーブ率を披露しました。

▼グルバウワーが手に入れたオリンピック出場権よりも大きなもの

ピョンチャンオリンピック出場権獲得の立役者となったグルバウワーは、2010年のNHLドラフトで、ワシントン キャピタルズが4巡目(全体112位)で指名。

AHL(NHLの一つ下のリーグに相当)をはじめとするマイナーリーグで実績を残し、昨季はワシントンの2番手GKとして、年間を通じてNHLでプレーをしました。

それだけにグルバウワーは、さらなるステップアップを目指し、今季終了後(来夏)まで結んでいるワシントンとの契約延長を念頭に置き、好成績を残したいのが本音のはず。

一方で、前回の記事でも紹介したとおり、NHLはワールドカップを再開させることにより、現役選手たちがオリンピックに出場するためのレギュラーシーズン中断期間(オリンピックブレイク)を、今後は設けない見通しになっています。

そのためグルバウワーが活躍して、ワシントンとの契約延長に至った場合、ピョンチャン オリンピックでドイツのゴールを守ることは、(事実上)ありません。

「彼の活躍で出場が決まったのに、オリンピックには出られないの・・・」

ドイツのファンから、こんな声が聞こえてきそうですが、グルバウワーにとって、大きな意味を持ちそうなのは、ピョンチャンオリンピックではなく、来季(2017-18シーズン)からNHLに加盟するラスベガスの新チームです。

▼ラスベガスの初代守護神に就任 !?

ラスベガスの加盟に伴い、NHLは既存の30チームから、新規加盟チームの選手を供出する「エクスパンションドラフト」を行います。

エクスパンションドラフトに先駆けて、既存の30チームは、それぞれ指名不可能な「プロテクト選手名簿」を提出。

ラスベガスは、それ以外の選手の中から、合わせて30人を指名できます。

ちなみに、既存のチームがプロテクト選手名簿に載せられるGKは一人だけ。

ワシントンには、NHLタイ記録となる年間48勝をマークし、昨季のベストGK賞(ベジナトロフィー)に輝いたブレイデン・ホルトビーがいることから、グルバウワーがプロテクトされる可能性は、十中八九ないでしょう。

もう一つの見逃せない点は、NHL加盟が決まって、ラスベガスの初代GMに任命されたジョージ ・マクフィーの存在

マクフィーは、1997年から14季(シーズン未開催年を除く)にもわたってワシントンのGMを歴任。ジュニア時代のプレーを評価し、ドラフトで「グルバウワー指名」を決断した人なのです。

このような背景から考えると、

エクスパンションドラフトでグルバウワーが指名され、新生・ラスベガスの初代守護神に就任!

というシナリオの現実味が高まってきそう。

それだけに、彼の今後のプロキャリアを考えると、

「2試合で完封勝利を達成し、3戦全勝の成績を残したGKのグルバウワーは、オリンピック出場権よりも大きなものを手に入れた」

と言えるでしょう。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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