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勝利の立役者だったのに放出されてしまったGKがアイスホッケーのワールドカップ決勝戦でリベンジを目ろむ

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
ヨーロッパのGKヤロスラフ・ハラク(Rights of Jiro Kato)

12年ぶりに開催された「アイスホッケー ワールドカップ」は、いよいよクライマックスへ!

8チームによるグループリーグと、準決勝を勝ち上がった、

「カナダ」vs「ヨーロッパ」

の顔合わせで、ベストオブ3(2勝したチームが優勝)で争う決勝が、今夜(現地時間)から始まります。

▼「カナダ優勝」の声が圧倒的

決勝の第1戦を目前にして、大半の現地メディアが「カナダが優勝する」と予想しています。

もっとも、それもそのはずで、今大会の戦績は、、、

カナダ → 4戦全勝 総得点=19 総失点=6

であるのに対し、

ヨーロッパ → 3勝(うち延長戦で2勝)1敗 総得点=10 総失点=8

このような数字に加えて、グループリーグで対戦した際には、カナダが4-1のスコアで勝利。

得点だけでなくシュート数でも、カナダ=46。ヨーロッパ=20と、カナダが圧倒しました。

さらに加えて、両チームの選手たちを比較すると、まずNHLの優勝経験者(のべ人数)は、、、

カナダ=14人

ヨーロッパ=8人

所属チームと契約を結んでいる総年俸は、、、

カナダ=1億5500万USドル(約156億円)

ヨーロッパ=8700万ドル(約88億円)

こういった数字を見る限り、「カナダ優勝」の予想が大半を占めるのも、納得させられます。

▼ヨーロッパの命運を握るスロバキア人GK

さらに加えて、カナダは自国開催であるのはもちろん、「アイスホッケーの国」としての威信を懸けた戦いだけに、ファンの盛り上がりは最高潮。

一方、”超アウェイの戦い”に挑むヨーロッパは、9ヶ国出身者が集まったオールスターチームのため、大会期間中に国歌を聞くことができない唯一のチームとあって、「本命の鼻を明かしてやろう!」と闘志満々に違いありません。

そんなヨーロッパの命運を握るのは、ここまで全ての試合でゴールを守り続けているヤロスラフ・ハラク(31歳・ニューヨーク アイランダーズ)です。

スロバキア生まれのヤロスラフ・ハラク(Rights of Jiro Kato)
スロバキア生まれのヤロスラフ・ハラク(Rights of Jiro Kato)

ゴーリーマスクの後ろに描かれている国旗が示しているとおり、ハラクはスロバキアの生まれ。

U18代表時代の活躍などを評価され、2003年のドラフトで、モントリオール カナディアンズから9巡目(全体271位)指名を受け、2年後の夏に契約。

1年目はマイナーリーグでのプレーに終始しましたが、2年目にNHLデビューを飾ると、その後はベテランGKに代わって、少しずつ出場機会を増やしていきました。

しかし、ハラクの前にライバルが現れました。

キャリー・プライス(29歳・モントリオール カナディアンズ)です。

地元カナダの生まれとあって、ジュニア時代から注目を集めていたプライスは、ハラクと対照的にドラフト1巡目(全体5位)という高い指名を受けて、モントリオール入り。

プロ契約を結んだ翌年にはNHLへ昇格し、ハラクとメインGK争いを展開。

実力は双璧ながら、やはりカナダ出身で、甘いルックスも併せ持つプライスへの注目度は高く、守護神争いが報じられる際には、ほとんどのメディアで「プライスとハラク」というように、年下のプライスの名前が先に紹介されていました。

▼ハラクの逆襲

ところが、ハラクも黙ってはいません。

2010年のプレーオフ・ファーストラウンドで、レギュラーシーズン全体1位の強さを誇ったワシントン キャピタルズ相手に大活躍!

1勝3敗とシリーズに王手を掛けられた第5戦から、プライスに代わって先発マスクを託されると、スーパーセーブを連発。(赤いユニフォームのGK)

土俵際から3試合続けて先発し、実に131本ものシュートを浴びながら、3得点しか許さず(セーブ率:97.7%)優勝候補に挙げられていたワシントンを撃破。

さらに、セカンドラウンドでも、連覇を狙う ピッツバーグ ペンギンズ の前に立ちはだかり、V2の野望を打ち砕く立役者となりました。

▼ハラク放出!

イースタンカンファレンスのファイナルまで導いた大活躍で、ハラクが守護神の座に君臨したかと思われましたが、この年のオフに揃って契約が満了したハラクとプライスのうち、モントリオールが再契約を結んだのは、プライスだけ。

ハラクは、セントルイス ブルースへトレードされてしまったのです。

「なぜハラクを放出したんだ!」とモントリオールの地元議員からも異論が出るなど、一大騒動を巻き起こしましたが、そんな声を封印するかのごとく、プライスが奮起。

一昨季には、レギュラーシーズンMVPや最優秀GK賞に輝き、押しも押されもせぬモントリオールの守護神となったただけでなく、今大会でもカナダの守護神を担い、決勝進出に貢献しています。

対してハラクは、セントルイスへトレードされてからは、プレーオフで見せたような大活躍をすることができず、バッファロー セイバーズを経由して、ワシントンへ移り、一昨季からはニューヨーク アイランダーズの一員に。

しかし、昨季はケガに泣かされ、プレーオフに出場できなかったりと、未だに新天地で満足のいくシーズンを送れずにいます。

このようなキャリアを歩んできたハラクとプライスの先発が確実視される「ワールドカップ」の決勝で、どちらの守護神が頂点に立つのでしょうか?

“超アウェイ” での戦いを強いられるだけでなく、同じスロバキア生まれで、屈指のポイントゲッターである マリアン ・ギャボリク(ロサンゼルス キングス)が、準決勝で味方のシュートを足に受けてしまい戦線離脱。

得点源の一人を失い、これまでにも増して大活躍が求められる中で、ハラクはプライスを上回る働きができるのか !?

かつてのチームメイトと対峙して、リベンジを目ろむスロバキア人GKのプレーが、ワールドカップの行方を左右するに違いありません。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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