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ピョンチャン五輪のアイスホッケーで、NHLのスター選手のプレーを見るのは絶望的?

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
開幕まで500日を切ったピョンチャンオリンピック(写真:ロイター/アフロ)

「アイスホッケー ワールドカップ」は、昨夜(現地時間)、決勝の第1戦が行われ、カナダが 3-1 のスコアでチーム・ヨーロッパを下して先勝。12年前の第2回大会に続く2連覇へ王手を掛けました。

トロントが舞台とあって、“超アウェイの戦い” に挑んだヨーロッパは、ワールドカップの決勝で、モントリオール カナディアンズ在籍時のリベンジを目ろむ、スロバキア人GKヤロスラフ・ハラクを先発に起用!

しかし、試合開始早々に先制点を許したのに続き、ハラクと同じスロバキア出身で、NHLで最も高い身長(206cm)を誇る超大型DF ズデノ・チャラ(白#33)がターンオーバーを許すなどして失点を重ね、大事な初戦を落としてしまいました。

リベンジへ向けて、もう後がなくなってしまったハラクに対し、カナダの先発GKキャリー・プライスは、第1戦を勝利したことにより、カナダ代表として出場した試合は、ジュニア時代から数えて無傷の「15連勝」に!

かつてモントリオールの守護神を争った二人のGKは、明暗が分かれる結果に終わりました。

▼ハラクに全てを託すヨーロッパ

ヨーロッパには、今月初旬に開催された「ピョンチャン オリンピック」の出場権を懸けた最終予選で日本代表を完封するなど、抜群の働きを披露したドイツ生まれのGKフィリップ ・グルバウワーらも控えています。

しかしラルフ・クルーガー ヘッドコーチは、敗れたとはいえハラクのプレーを評価していたことから、中一日置いて行われる第2戦(現地29日)でも、先発に起用されるのは間違いなさそう。

果たして、ヨーロッパのゴールを託されるハラクは、土俵際で踏みとどまることができるのか? 大いに注目されます。

▼注目はワールドカップよりもNHL選手のオリンピック出場

「大いに注目」と言えば、ワールドカップの決勝が始まるのを前に、NHLはプレスカンファレンスを開催しましたが、会見の席上で大いに注目されたのは、ワールドカップにも増して、、、

「NHL選手のオリンピック出場」

に関する話題でした 。

というのも、NHLはワールドカップを再開しただけでなく、今週開催されるゴルフの「ライダーカップ」をベースにした「北米選抜 vs ヨーロッパ選抜」の大会の開催へ向け、NHL選手会と交渉中と伝えられるなど、自ら主催する国際大会を増やして、“一人勝ち” を目ろんでいる模様です。

一方、冬季オリンピックで必ず最後に決勝が行われる男子アイスホッケーは、正真正銘のメインイベントとあって、NHL選手がオリンピックに参加するか否かは、国際アイスホッケー連盟(以下国際連盟)にとって最大の課題。

プロモーション面をはじめ、大きな影響を及ぼすだけに、NHLを筆頭とする北米のプロリーグが導入している独自のルールを、次々と国際連盟でも採用し、「世界標準ルール」にするなど引き留めに必死だったのですが、NHLの意向は揺るがず・・・。

そのため、今春に国際連盟のルネ・ファゼル会長は、「NHL選手がオリンピックに参加する際に負担してきた保険代や移動経費の負担は、今後行わない」と公言。事実上の「NHL引き留め断念宣言」をしたようだと、欧米のメディアが一斉に報じました。

▼NHLからの最後通告

これで「ジ・エンド」だと思われましたが、NHLのビル・デイリー副コミッショナーは、会見の席上で、まだ交渉を続けていると公言。

しかしながら、NHLの強硬な姿勢は変わらず、国際連盟のファゼル会長が「(NHL選手のピョンチャン オリンピック出場の可能性は)五分五分だ」と答えたのに対し、NHL側は「ジャック・ロゲ 前国際オリンピック委員会会長は、ソルトレイクからソチまで、NHLと国際連盟の交渉を自ら買って出ていた」と話し、積極的な引き留めを行っていない模様のトーマス・バッハ現会長を、暗に非難する一幕も。

さらに続いて、「(ピョンチャンオリンピックが開催される)来季のNHLのスケジュール作成にとりかかる11月から12月がタイムリミット」だと、最後通告と言えるコメントを発しました。

▼NHL選手が出場しなければ韓国が勝利する !?

これまでの交渉経緯や、NHLと国際連盟の主張を見る限り、タイムリミットに提示された年末までに結論が出るのは、困難な雲行きに・・・。

「ピョンチャンには出られなくても、4年後の北京オリンピックには、再びNHL選手が出場するかもしれない」と、デイリー副コミッショナーが話したように、NHLも成長を続ける中国のマーケットに食指が動くようですが、現状では、1998年の長野大会から続いてきた、、、

「祖国のジャージに袖を通したNHLのスター選手のプレーを、

オリンピックで観戦する!」

という世界のアイスホッケーファンの楽しみは、ピョンチャンで味わえない可能性が、にわかに現実味を帯び始めてきた模様。

もしも、NHLのスター選手が見られないとなると、グッズの売り上げやチケットの価格設定などをはじめ、収入面で大きな影響を及ぼすのは間違いありません。

しかしながら、檜舞台に立つ日へ向けて、積極的な強化策を推し進めてきた韓国代表の視点から見ると、手も足も出ない相手が少しでも減れば、「地元開催のオリンピックで悲願の勝利!」というシナリオの現実味がアップするのも事実です。

それだけに、「風が吹けば桶屋が儲かる」ではなくて、、、

「NHL選手が出場しなければ韓国代表が勝利する!」

という可能性が高まって、アジアのアイスホッケー界には朗報なのかもしれません。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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