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ネタニヤフ首相のトランプ大統領訪問よりも早く、12歳で単身北米に渡ったイスラエルのアイスホッケー少年

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
イスラエルのネタニヤフ首相がアメリカを訪れ、トランプ大統領との首脳会談に臨んだ(写真:ロイター/アフロ)

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が、ワシントンD.C.を訪れ、昨日(現地時間)間もなく就任1か月を迎えるアメリカの ドナルド ・トランプ大統領との首脳会談に臨みました。

バラク・オバマ前大統領時代に冷え込んだ両国の関係は改善されるのか?

首脳会談の開催が決まった時点から、各国のメディアが注目していましたが、ネタニヤフ首相の訪米より早く、イスラエルから単身北米に渡ったアイスホッケー少年がいることを、ご存知でしょうか?

その少年は、カナダのジュニアリーグ(OHL=オンタリオホッケーリーグ)に所属するサドバリー ウルブズの FWデビッド・レビン(1999年9月16日生まれ) です。

▼父親からプレゼントされたインラインホッケーシューズ

エルサレムに次ぐ人口を誇るイスラエル第二の都市・テルアビブで生まれたレビンが、ホッケーと出会ったキッカケは、「4歳か5歳の頃に、父親がインラインホッケーシューズをプレゼントしてくれた」ことでした。

「難しくて、なかなか上手に滑ることができなかったのを、覚えているよ」

こう振り返ったレビンにとって、心強かったのは、何よりも父親の存在!

なぜなら、レビンの父親はラトビア(旧ソ連)の生まれで、アイスホッケーの経験者。

イスラエルへ移り住んでから、コーチをしていたこともあって、「毎日一緒に練習に付き合ってくれたおかげで、少しずつ上達していったんだ。ボクにとっては、父親というより、ホッケーのコーチだったね」とレビンは言います。

▼カナダへ行ってアイスホッケーをしたい!

インラインホッケーに明け暮れた少年時代を過ごしていたレビンの胸中に、少しずつ「夢」が、ふくらんでいきました。

その夢とは、、、

「カナダへ行ってアイスホッケーをしたい!」

というもの。

ホッケーが人生の全てになっていたレビンにとって、アイスホッケー大国のカナダは憧れの地。それだけに、欲望を抑えることができなかったのです。

しかし、両親は「まだ早い。お前は若すぎる」と答え返しました。

とはいえ、父親には息子の熱望する気持ちが、よく分かっていました。だからこそ、拙速に動き出そうと焦るレビンにブレーキをかけたあと、間髪を入れず、こう諭したそうです。

「もう一年、待ってからにしなさい」

▼12歳の時、単身カナダへ

一年の時を経て12歳になったレビンは、単身カナダへ渡って、トップアスリートを目指す者が集うヒルアカデミーのトライアウトを受験。

「何度も何度も(スケートリンクを囲む)ボードにぶつかったよ。だって、その頃のボクは、どうやれば(スケートを滑っている時に)止まることができるのかさえ、まったく分からなかったんだ。でも、あきらめなかったよ。絶対に受かるんだって信じ続けていたんだ」

このような強い想いが実って、レビンはトライアウトに合格。

さらに、はじめに所属した初等レベルのチームで練習する姿を見たコーチから、「初等レベルの選手じゃない」と上のクラスに移るよう命じられ、ハイレベルの選手たちとともに、腕を磨いていきました。

▼ドラフト1位でメジャージュニアリーグの選手に

カナダには「メジャージュニアリーグ」と呼ばれる3つのジュニアリーグがあります。

カナダ西部をメインに、アメリカの太平洋岸から22チームが集う「WHL(ウエスタンホッケーリーグ)」

ケベック州を中心に、カナダ東部の18チームが加盟する 「QMJHL(ケベックメジャージュニアホッケーリーグ)」

そして、カナダ最大の都市 トロント周辺のオンタリオ州と、五大湖沿いのアメリカ・ミシガン州の20チームが参戦している「OHL(オンタリオホッケーリーグ )」

スカウトたちの目も集まる、いわば “NHLへの登竜門” とも言えるリーグとあって、ヨーロッパからもトップレベルのジュニア選手がやってきます。

そのため、上記の3つのジュニアリーグでは、ドラフトによって有力選手を指名していきますが、将来性を見込まれたレビンは、2015年のOHLドラフトで、全体1位指名を受けました!

近年のOHLドラフトで、全体1位指名された選手には、NHL史上最年少の19歳266日で、エドモントン オイラーズのキャプテンに就任した コナー・マクデイビッド

昨夏に20歳ながらナンバーワンDFと評価され、フロリダ パンサーズと、8年総額750万USドルの超大型契約延長に合意した アーロン・エクブラドという次世代の “NHLの顔” と目される名前が並び、レビンに対する評価の高さがうかがえます。

大きな期待に応えようと、レビンはチーム最多のアシストをマークするなどして活躍。昨年末には、12月の月間MVPを受賞する働きで、サドベリーを勝利へ導きました。

▼タイムリミットは18歳の誕生日

「休みの日は色々なところに連れていってくれたり、子供たちとホッケーを楽しんだり、家にいる時は、ほとんど自分の部屋に戻ることがないよ。いつも家族と一緒にいるんだ」

トロント近郊に住む叔母の家でホームステイをしているレビンは、プライベートでも充実した時間を過ごしている様子です。

しかし彼には「決断の時」が迫っています。

イスラエルで生まれ、国籍を有しているレビンには、兵役任務が課せられ、もしも任務を全うせず、そのままカナダに残ってアイスホッケーを続けると、

45歳になるまで帰国を許されず、祖国にいる両親の下へ行くことが許されません。

「決断の時」は9月16日。丁度7か月後に迫ったレビンの18歳の誕生日がタイムリミットです。

▼決断の理由は、空爆を知らせるサイレンの音

ドラフト全体1位指名を受けたサドベリーでのデビューを控えた16歳の夏。

レビンはイスラエルに帰国し、両親の下へ帰りました。 

「夜の9時頃だったよ。弟はベッドに入っていて、父親はテレビを見ていた時、大きなサイレンの音が聞こえてきたんだ。ボクには初めての体験だった・・・。

イスラエルでは、どの家にもシェルターがあるようになっていた。大きくて、頑丈なシェルターだよ。どんなことが起きても大丈夫なようにね」

その夜、レビンは決断を下しました。

「ボクは兵役には行かない」

▼来年のNHLドラフトで指名を待つ

おそらく、、、いえ、間違いなく、人生最大の決断を下したレビンは、このような言葉を口にしました。

「ボクには夢がある! それを叶えたいんだ !!

そして、夢が叶ったら、家族を呼び寄せてあげたいんだ」

178cm78kgのレビンは、サイズに恵まれた選手とは言えず、NHLの指名を待つトッププロスペクトたちと比べると、むしろ小柄な選手に数えられるでしょう。

しかしレビンは、誰にも負けない “大きな大きな夢” を抱き続けているのです。

来年(2018年6月開催予定)のNHLドラフトで、「デビッド・レビン」の名前が呼ばれて、イスラエルのアイスホッケー少年は、夢への第一歩を踏み出すことができるでしょうか。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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