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ワタミ前会長の『会社に貯金してると思いなさい』発言がまったくもって正論なわけ

城繁幸人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

ワタミの前会長の渡邉美樹さんがネットの人生相談でいつもながらキャッチーな回答をしていて話題となっています。良くも悪くも注目されている立場でこういう突き刺さるフレーズを嬉々として投げるあたり、相変わらずのノーガード戦法ぶりです。

さて、この発言の是非自体は各人で判断すればいい話なのでここでどうこうは言いませんが、筆者が見ていて気になったのは、どうもこれを読んだ多くの人が、本発言を“他人事”としてとらえている点です。筆者から見ると「ワタミは屁理屈言ってないできっちり従業員に給料払え!」と青筋立てて怒っている人の方がよっぽど会社に大金を預けてて、しかも会社は踏み倒す気マンマンなケースがいっぱいあるように見えますね。

他人の“貯金”の心配をする暇があったら、まずは自分の“貯金”の心配をしましょう。というわけで、今回は会社に預けた“貯金”について考えてみたいと思います。

2、30代は会社に貯金分を天引きされていると心得るべし

当たり前の話ですが、40年以上という超ロングな雇用契約を、それも原則途中解除&賃下げ無しという条件で結ぶ場合、最初は思いっきり低賃金からスタートせねばなりません。東大もFラン大も同じ初任給から買いたたかれるのはこれが理由ですね。そこから、売上状況とか景気を見ながら、支払い不能にならないよう、恐る恐る上げていくわけです。

本来はもうちょっと貰っていいくらいの働きはしているのだけど、「将来的なリスク」分として、会社に給料の一部を預けているようなものですね。これが“貯金”なるものの正体です。筆者の感覚で言うと、だいたい40歳くらいまでは「貯金を積み立てる期間」であり、それ以降が「貯金を降ろして、働きぶり以上に報われる期間」に当たります。

ついでに言うと、企業が35歳以上の求職者を敬遠するのも、年食ってる博士課程修了者を門前払いするのも、そして女性を採用したがらないのも、この“積立期間”が少ないというのが理由です(女性はその期間に休職する可能性が高いため)。

貯金である以上、本来なら本人の財産であるべきなのですが、この“貯金”なるものは会社の都合でバンバン他に流用されます。今の60代以上のように明らかに預けた金額以上の生涯賃金を受け取れた幸福な世代がいる一方、貯金を預けるだけ預けていざ受け取る時期になったら「これからは成果主義だ」の掛け声のもとで大ナタふるわれたバブル世代のような可哀想な人達もいます。

また、国の政策で一方的に“貯金”が踏み倒されることもあります。今年から実質的な定年の65歳への引き上げがスタートしていますが、多くの企業が、若手~中堅社員の昇給抑制でそのコストアップ分をまかなうことを決めています。要は、“貯金”の流用ですね。そんなこんなで、今の現役世代は多かれ少なかれ貯金を踏み倒されることになるだろうというのが筆者の見方です。

ここで一つ、反面教師として筆者の知り合いのB氏を紹介しておきましょう。彼は大手広告代理店勤務で、何かというと「俺は勝ち組だから」というのが口癖の人間ですが、はっきりいってただのアホですね。その会社は50代以上で早期退職の募集を実施済み→つまり今の50代は賃金貰い過ぎと認識→それより下の社員はもっと低い水準に賃金抑制、つまり“貯金”踏み倒すぞと宣言しているわけで、踏み倒し宣言されてるのに毎月いっぱい貯金させられていて同情します。きっと45歳くらいになれば貯金が踏み倒されている事実に気付くことでしょう。

以降、

“貯金”を踏み倒されないためには

ワタミはそもそも“貯金”なんてない会社

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人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。08年より若者マニフェスト策定委員会メンバー。

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