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アンドロイド研究の石黒教授「パラリンピックのほうが人間らしい」

亀松太郎記者/編集者
漱石アンドロイド(右)に見つめられながら、人間社会の未来について語る石黒浩教授

オリンピックよりもパラリンピックのほうが人間らしく、50年後にはパラリンピックがメインゲームになっているのではないかーー。アンドロイド研究の第一人者として知られる大阪大学の石黒浩教授がそんな「未来予想図」を示した。

東京の二松学舎大学で1月27日に開催されたトークイベントでの発言だ。自身が監修した夏目漱石のアンドロイドと並んで座りながら、石黒教授は「人型ロボットと未来社会」について語った。

◇「人間は人工物がないと生きていけない」

石黒教授は、人間がロボットなどの先端技術を開発する理由について、「自分の能力を技術に置き換えようとするところがある」と説明。技術が進むにつれて、人間の定義も変わっていくと話した。

「たとえば、2、300年前に手足がなかったら人間として認められず、差別を受けたわけです。でも、今は手足がなくったって関係ないですよね。義手や義足を使っていても、人間としては同じであるという風に認知されるわけです」

続いて、石黒教授の話は「パラリンピックと人間の関係」に及び、次のように述べたのだ。

「僕は正直いって、パラリンピックのほうが人間らしいと思います。なぜかというと、オリンピックの本ゲームのほうは、人間の肉体で競争すると言いつつ、スイミングウェアがちょっと変わったら成績が変わるようなものです。それから、何がドーピングで、何がドーピングじゃないとか。要するに、人間は人工物がないと生きていけないにもかかわらず、自然人だという架空の定義のもとでやっているんです」

このように従来型のオリンピックは、実は人間らしくないのだという持論を披露した。

◇「50年後はパラリンピックがメインに」

石黒教授の話はさらに続く。

「人間というのは、もともとの定義において『技術を使う動物』『技術を使うサル』だと言われているんです。技術と切り離したら、我々は猿になってしまう。だから、オリンピックは不自然だと思うし、何年か先かわからないですけど、少なくとも50年も経ったら、(オリンピックとパラリンピックの地位が)逆転していると思います」

石黒教授によれば、オリンピックの本大会は、人間の本来も定義から離れた「ごまかしのゲーム」ということになる。

「(50年後には)オリンピックの本大会よりも、人間の定義に従ったパラリンピックがメインのゲームになるんじゃないか、と。(2020年の)東京オリンピックはもうちょっとパラリンピックを応援してほしいなと思っています」

このように石黒教授は、未来のオリンピックとパラリンピックの姿を予想していた。

石黒教授の話を聞きながら、「もしかしたら、100年後にはオリンピックとパラリンピックが融合して、人間とアンドロイドがスポーツで競うようになっているのかもしれない」と思った。

記者/編集者

大卒後、朝日新聞記者になるが、3年で退社。法律事務所リサーチャーやJ-CASTニュース記者などを経て、ニコニコ動画のドワンゴへ。ニコニコニュース編集長としてニュースサイトや報道・言論番組を制作した。その後、弁護士ドットコムニュースの編集長として、時事的な話題を法律的な切り口で紹介するニュースコンテンツを制作。さらに、朝日新聞のウェブメディア「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からメディアを引き取って再び編集長となる。2019年4月〜23年3月、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者/編集者として活動しつつ、「あしたメディア研究会」を運営している。

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