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2013年のNHK紅白歌合戦に想うこと

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

「まるで、NHKホールが生きているみたい!」の綾瀬はるかさんのコメントと、プロジェクションマッピングの映像でスタートした2013年第64回NHK紅白歌合戦。男女均等法の時代錯誤ともいえる、女性と男性が紅と白で競うという歌合戦フォーマットだが、この数年、面白くなってきている。

変わりゆく紅白歌合戦

何十年もの間、紅白歌合戦には、まったく興味が抱けなかったが、この数年の演出が非常に気になって見始めた。まず、NHKの大道具室の腕の見せ所であった豪華な舞台装置は、巨大なLEDのスクリーンに姿を変え、スクールメイツをはじめとしたダンスチームは、AKBグループが代行することに姿を変えている。これだけでもかなりのダウンサイジングだ。

さらに紅白の放送中には、「#NHK紅白」というツイッター社のハッシュタグが表示され続けている。米国の上場企業の1サービスプロトコルがNHKの番組のテロップに登場することにも、すっかり慣れてしまった。しかも国民番組である紅白歌合戦でだ。さらには、アップルのロゴマークもズラリと並んで演奏されるシーンも大写しで映し出せる時代となった。今までアップルロゴの上にテープ目隠ししていた作業は、今後はムダになってしまうのか?確実にNHKは変わってきた。それはまるで、CMが入れば民放と変わらないほどだ。

紅白終了後ダウンロード開始

アニメ「進撃の巨人」のテーマソング「紅蓮の弓矢」を歌うLinked Horizonの紹介では、和田アキ子が自分似のキャラにコメントし、twitterでは、ラピュタの「バルス」の14万ツイートを超える、「イエーガー!」の18万ツイートがあったそうだ。驚きは、レコチョクなどの音楽配信サイトでは、紅白終了後に楽曲の「紅白スペシャルSize」が250円でダウンロード開始となった。これも新たな試みだ。紅白歌合戦のアレンジモードをダウンロード販売となると、新たな紅白出演アーティストの出演料以外の収入源となることだろう。

ちなみに紅白の制作費は3億円で、出演料は1000万程度らしい。一組あたり23万円程度にしかならない。AKBの人数で割ると1人あたり2千円になってしまう(笑)。名誉職としての紅白出場だけでなく、実利も稼げる番組タイアップダウンロードのの手法は、視聴者ユーザーの選択肢は増やしてくれるが、紅白の意義を考えさせる。

「あまちゃん」の最終回はここにあった

そんな紅白の価値を再確認させてくれたのが、「あまちゃん」コーナーだ。前半後半で約30分はあっただろう。

このコーナーは、もう絶対に今年の紅白の目玉になると予感していたほどだ。

前半のスナック「梨明日」の登場人物たち。まるで、「あまちゃん」の続編だ。いや、これは「あまちゃん紅白Ver.」なのだ。「157回 おら、紅白でるど」のはじまりだ。

「潮騒のメモリー」が始まる。北三陸にあるはずのスナック「梨明日」から鉄拳のアニメでかけつける足立ユイちゃん。潮騒のメモリーズが、紅白で歌う。そして、小泉今日子いや、天野春子が歌い、そして、薬師丸ひろ子ではなく、鈴鹿ひろ美が…惜しむらくは、若き頃の天野春子(有村架純)が存在しなかったことくらいだ。

しかし、この紅白歌合戦で「あまちゃん」は積年の夢がすべて昇華された。奈落のそこで太巻にいじめられることもなく、日本の表舞台でGMTが「地元に帰ろう」をあまちゃん出演者全員全員で熱唱!太巻とミズタク、有村架純は何していたんだ?

紅白は幕引きの舞台なのか?

2013年の紅白は、幕引きラッシュでもあった。

EXILE のHIROさんのダンサー引退、AKB48の大島優子さんのサプライズAKB脱退、北島三郎さんの紅白卒業。大島さんの脱退はサプライズだったらしく、他のメンバーも動揺の様子。NHK側には伝えられていたのだろうか?

それでなくても、時間ギリギリの紅白歌合戦、一番予測できない事態を嫌っていたはずだ。むしろそれよりも、アンコントローラブルな人がいた。泉谷しげるさんだ。

拍手をとめられなかった泉谷しげる

泉谷しげるさんの「春夏秋冬」は、まるで、「ボブ・ディラン」の歌声のように聞こえた。NHKの会場に来ている人のためにではなく、これなかった人へのメッセージ。「拍手をやめろ!」の声にも、ニコニコ笑いながら、拍手をやめない審査員たち。紅白のカメラマンも拍手する観客をアップしている。このあたりに、紅白のスタッフの臨機応変力のなさに驚く。紅白はガチガチのフォーマットでアドリブに極度に弱いようだ。

拍手をやめて、声を出せない場所でも、心で歌っている人の代役になるような人は、NHKホールにもいたはずだ。そこが抜けないNHKのカメラマン、いや副調整室のディレクターが指示をだせないことが残念でしかたない。

せっかくの泉谷しげるのメッセージが伝わらない。最後にギターを投げつけたのは、その怒りのあらわれなのかもしれなかった。

ふなっしーには、歯止めなし

そんな中、圧倒的なアドリブ力を発揮していたのは、「ふなっしー」だろう。あの空気を読まない異様なキャラクターは期待どおりに紅白の進行を見事に阻止してくれた。いつもは、イラっとくるあの落ち着きのない素振りも、紅白のガチガチの中では、一番自然にユニークに見えた。そして、オアシズの大久保佳代子さんの余裕のアドリブも。そう、紅白は国民的番組としての無言のプレッシャーがありすぎる。

紅白、そしてNHKに残された課題

そして、一番紅白の中で自由に泳いでいたのは、嵐の5人組だった。メンバー全員が見事に安定している。SMAPよりも司会は安定してきた。どんな状況でもゆとりがあり、しかも自然だ。男性軍にはNHKのアナウンサーをスタンバイさせる必要がないほどだ。

この数年、ジャニーズのタレント抜きには紅白歌合戦は、もうありえないほどだ。今やテレビで、ジャニーズとAKB、そしてよしもと芸人を見ない日はない。紅白歌合戦では、よしもと芸人は見なかった気がするが、これでは民放の番組と何も変わらない。あまりにも、依存するところが多すぎるのではないだろうか?つなぎにCMが入っても違和感がない番組構成だ。

民放でできることを、NHKがすべきではないと、個人的に考えている。民放ではスポンサーの関係上できないようなことを、NHKさんには特に期待したいものだ。今年もなぜ、この人がこの曲で登場したのだろう?という疑問がいくつかあった。その理由もあまりピンとこない。その裏番組で、テレビ東京系列の「第46回年忘れにっぽんの歌」の方が、NHK紅白歌合戦に見えてしかたがない。演歌となつメロ中心だからだ。紅白のあとには、毎年恒例の「ジャニーズカウントダウンライブ」もやっている。しかし、こちらも今回は紅白組が出演できないという中途半端な感がして残念だった。

演歌、ジャニーズ、AKB、よしもと、それぞれが、それぞれに相応しい大晦日の番組をそれぞれで作ったほうが、いっそ良いのではないだろうか?と思う。視聴者は面白い番組をソーシャルで嗅ぎつけて視聴するだろうし、録画で見る人も多い。どうせ、正月からは、退屈な録画番組だらけなのだから。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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