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楽天通話アプリ買収の危険な発想

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
WBSで三木谷社長は20%は売上げ効果があると語った
WBSで三木谷社長は20%は売上げ効果があると語った

http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/wbs/newsl/post_61038/

昨日(2014/02/26)のWBS(ワールドビジネスサテライト)では、楽天の三木谷社長の通話アプリ買収後の単独インタビューによる特集が放送された。

三木谷社長は世界190ヵ国で約3億人の利用者を抱える「バイバー」が楽天グループに加われば、売上高を少なくとも20パーセント押し上げる効果があるとみています。楽天市場に「バイバー」を取り入れるほか、電子書籍や動画などのデジタルコンテンツで稼ぐことができるといいます。

楽天はViberを約900億円で買収を2月14日に発表 ユーザーは3億人なので、1人あたりの獲得単価は300円。ほとんどが日本以外の外国人である。Viberは地中海の小国キプロス発のサービス。

http://www.yomiuri.co.jp/net/news/mobile/20140217-OYT8T00287.htm

「Z-CRAFT」を運営するロイヤルの近藤武志部長は「バイバーの活用で人対人がもう一度親密になる」と期待しています。

近藤武志部長の言葉には、「無料通話や短文テキストで固定のAという客に無料通話なら無尽蔵に会話することが可能」と語る。Z-CRAFTは9年連続楽天大賞を受賞している優良出店者である。

ご存知のように、楽天のサービスには、デフォルト(標準)で、出店ショップからのメルマガを登録することになっている。これは、ユーザー側がどれだけ嫌がっていても、出店ショップからの熱い要望があるからなくすことができない。

そう、楽天の「本当のお客様」は、ネットで買い物をするユーザーではなく、出店している出店者様がお客様であることを決して、忘れてはいけない。

WBSを見ていて、「無料通話なら無尽蔵に会話することが可能」という出店事業者からのViberへの期待を考えるとこんなことが想定できるかもしれない。

ある日、ボクは楽天のショップにランディングし、ウェブ上での価格調べにいそしんでいた。すると、突然、楽天のViberは、メッセージを送ってきた!

「いらっしゃいませ!今日はお気に入りのものはありましたか?○○ショップ 店長より」

うざい!と思いながらも、買い物をしていると、

「気になる商品があったら質問してくださいね ○○ショップ 店長より」とやってきた。

それで、購入をした途端!

Viberが鳴り出し、

「本日はお買い上げありがとうございました! ○○ショップ店長です!」とやたら元気のいい声が飛び込んできた。

「はぁ…」と音声で答えながら、電話を切った。

無言で買い物できるのがECは、良かったはずなのに…とボクは思わずつぶやいていた。あくまでも、想定イメージである。

しかし、これだけユーザーが嫌がる無差別テロ級のメルマガでも2%が反応し、0.1%のコンバージョンが得られたら、ショップ出店の事業者はそれを無尽蔵に繰り返す。楽天も顧客の満足度よりも売上度を重視し、その仕様を変更しない。

「通話アプリ」の買収をきっかけに、三木谷社長は、「10〜20%は売上効果がある。デジタルコンテンツは%ではなく何倍もだ」と鼻息が荒い。さらに、2014年末までにViberが5〜6億人に利用者が増えれば値段は極めて妥当とも言う。

Viberを買収したことにより、「"羽を得た"と表現している。世界中の市場に進出できる道筋ができた。毛細血管のように広がって世界中のマーケットに商売ができる。非常に大きなツール」とまで豪語している。

本当に勘違い社長だわ。

ユーザー側の心情をまったく理解していない。出店事業者の心だけ掴んでいる。薄氷上のビジネスモデルだ。

ボクは、Viberは、2012年5月に出資を発表したピンタレストの二の舞いにしかならないと思う。ピンタレストは、まもなく2年になろうとしている。日本語サイトもオープンしている。

http://japan.cnet.com/news/commentary/35017459/

5,000万ドル(約50億円)の出資

日本語化されたピンタレストには【送料無料】が並ぶ
日本語化されたピンタレストには【送料無料】が並ぶ

しかし、現在のpinterestの日本語を見ると、予想どおり、楽天出展事業者の【送料無料】の文字にあふれている。単なるカタログ化しているところが増えてきた。本当に、pinterestの魅力が台無しになってしまっている。趣味の世界にECの商人魂は相容れにくいのだ。それを完全コントロールしていればいいが、出店者の好き放題にさせることの弊害を、まだまだ楽天はわかっていないようだ。

楽天はPinterestの国内展開に協力するほか、楽天の海外ネットワークを活用してPinterestの世界展開を支援するという。同社は「成長著しいPinterestと提携することで、楽天のソーシャル分野を強化できると考えた」

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1205/17/news058.html

出資から、2年経過しようとするがこれらは実現されているだろうか?

クローズドで視界が狭いウェブ上での、縦長の長い口上の、まるで、深夜番組の通販のようにドロ臭く、何度も何度も繰り返し、連呼するテレビショッピングのような通販サイトが、無料通話アプリを手に入れて、「無尽蔵」にコールバックしてくるのだ。

恐ろしくて、しかたがない。

少なくとも、ボクはそんな下品なマーケットに買い物には、行きたくない。

オムニチャネルとか騒がれるが、データから客をマイニングするとかの上からの目線でなく、客から声をかけられて店員ははじめて動きだすべきだ。そのためには、顧客の一挙一投足を下からのお伺い目線で観察させていただく謙虚な商人道が必要だ。すべては「お客様の、お客様のため」にあるということに早く気づいてほしい。

エンドユーザーの声を聞くべきだ!

KPIの数値だけでなく、客の心のひだを読み取ろう!

がんばれ楽天!まだあきらめずに応援するよ。

ソフトバンクといい、楽天といい、カリスマ創業社長にノーといえる人が社内に、いないことこそが大問題だ。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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