アップルのビーツエレとビーツミュージック買収で音楽ストリーミングビジネスはどう変わるのか?
2014/05/28 アップルが30億ドル(3,000億円)でビーツを「噂どおり」買収することになった。
30億ドルの内訳が「ビーツ・ミュージック」買収に5億ドル 「ビーツ・エレクトロニクス」買収に25億ドルで合計30億ドルとなった。
ビーツエレクトロニクスのヘッドフォンをアップルが買収する噂はあったが、信ぴょう性が低いと考えていた。
何故ならば、アップルのブランド力は、ビーツのヘッドフォンと比較しても圧倒的に強いからだ。
アップルがヘッドフォンで「世界を変える」のであれば(笑)、意味が変わる。ウェアラブルのセンサー技術の特許を持っているのはアップルであり、アップルがヘッドフォンをしっかりと作れば、ビーツのヘッドフォンを凌駕するようなことも十分に可能だっただろう。しかし、アップルは、なにしろ、あの白い最悪の音質のイヤフォンを平気で売り続けてきた経緯がある。ようやくiPhone5と共に「EarPods」の登場で、やっとまともになったくらいだ。だから音質にこだわるつもりは毛頭ないと断言したい。
なぜアップルがヘッドフォンを欲しがるのか?
そして、考えられるとすると、センサーをつけたり、グーグル・グラスのようなカメラやマイクを搭載するには、「ビーツ」くらいの目立つ勢いのブランド力が必要だったのではないだろうか?ということだ。
あの大きさであのロゴをつけて歩きたい若者であれば、目新しいデバイスであったとしてもクールに受け入れられるという見込みがあるからだ。アップルは、イヤフォンは販売していてもウェアラブル・ヘッドフォンのブランドではない。新たなヘッドフォンを創るよりも、「ビーツ」の方が成功の確立は確実にあがる。それと、アップルがヘッドフォンで市場の人気を獲得するには最低1〜2年の期間が必要だ。
アップルはヘッドフォンを売りたいのではなく、ヘッドフォンの形状で、移動しながらもでも、あらゆる情報へのアクセスを可能としたかったからだろう。だから、ヘッドフォンを買いたかったのではなく、ヘッドフォンを作って評価されるまでに時間を買ったと思う。あくまでも憶測だが…。
そして、もうひとつの謎が、ストリーミングビジネスだ。
ビーツミュージックのストリーミング数は2014年の1月に開始したばかりで、有料会員数25万人程度。スウェーデンのスポティファイはすでに4,000万人だ。さらに、米国のパンドラとなると7,530万人の会員数を誇っている。スポティファイでさえ40億ドルの企業価値だから、同じ買うならばスポティファイのストリーミングではなかっただろうか?しかし、スポティファイで出来ないことでビーツにできることがある。
それは、音楽業界と共に長く歩んできた姿勢ではないだろうか?米国の音楽業界は、4つしかないと考えられる。1.
ユニバーサル/EMI37.7% 2.ソニー30.38% 3.ワーナー20.79% 4.その他11.42% ビッグ3の寡占状態だ。どんな音楽のビジネスを目指すにしても、この頭の超固いビッグ3を説得することが重要だ。ビーツの共同創業社のジミー・アイオビンはジョン・レノンからブルース・スプリングスティーンなどのレコーディングエンジニアであった。そして、ドクター・ドレーはラッパーとしての数々の功績があり、どちらも音楽業界畑の出身だ。
スティーブ・ジョブズがiPodを2001年に、発売できたきっかけも、実は、1999年に、音楽ファイル共有のナップスターが猛威をふるったおかげでもある。世界の音楽業界は1999年をきっかけに下り坂を下り始める。
アップルは、iTunes Store によるダウンロードミュージックで世界一のプラットフォーマーとなったが、音楽業界からは、どうも一人勝ちのように見られてしまう。いや、見られて当然だ。さらに、iTunesはiPodやiPhoneともつながり、映像から、アプリの管理まではじめている。シュリンクする音楽業界にとっては、アップルとだけ組むのが危険とさえ感じているはずだ。
一四半期で456億ドル(4兆5,600億円)の売上で営業利益が102億ドル(1兆200億円、売上利益率22.3%)があるアップルにとって考えてみると、音楽業界の売上は全世界を合算しても、たかだか150億ドル(1兆5,000億円)の市場である(2013年度)。アップルの年間売上比率の8.2%が世界の音楽市場と同等なのである。アップルにとっては、消費税8%程度の市場なのだ。さらに、アップルの3ヶ月間の営業利益と全世界の音楽産業の売上が、68%しか違わないとなると、音楽業界そのものが、アップルと組むことさえ恐怖であるとビッグ3は考えないだろうか?
さらに音楽業界の売上の内訳で考えてみるとストリーミング市場は7.4%の売上シェア
2013年 世界の音楽業界の売上は150億ドル(1兆5,000億円)IFPI(国際レコード産業連盟)(※2012年は156億ドル)
そのうち、CDなどのパッケージメディアは、売上51.5%のシェアで77億3,000万ドル(7,730億円)
デジタル音楽全体で、売上39%シェアで58億7,000万ドル(5,870億円)だ。
さらに、売上39%シェアのデジタル音楽に占める割合は、
ダウンロード型(iTunes Store Amazon MP3)39億3,000万ドル(3,930億円) 売上26.2%シェア、デジタル音楽内シェア67%
サブスクリプション・ストリーミング型 11億1,000万ドル(1,110億円)売上7.4%シェア、デジタル音楽内シェア19%となっている。全世界で2,800万人のユーザーが支えている。一人あたり平均年間39ドルとなる。
音楽産業は、音を売るのではなく、バイナルやCD盤を売ることで、100年にも及ぶ長い間、旧態以前としたビジネス構造で、利益を育んできた。しかし、アップルは、音楽業界を足掛りにして、iPod、iPhoneとMacのコンピュータよりも利益構造のでる進化をしてきた。音楽業界は進化しなかったが、アップルは進化し続けてきた。そこで、音楽業界にとっての脅威とならない、そして協調しながらも、新たな進化を促す役目の担い手が必要だったのではないだろうか?
ビーツの創業者をアップルに招くことは、音楽業界のアレルギー反応を緩和するための施策だったのかもしれない。