Yahoo!ニュース

まんだらけ万引き写真公開と警察の抑止力

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

KNNポール神田です。

まんだらけがウェブで公開した犯人への警告
まんだらけがウェブで公開した犯人への警告

おもちゃを万引きしたとされる人物に、返品しなければ顔の映った防犯カメラの画像をホームページ(HP)で公開すると警告している古物商「まんだらけ」(東京都中野区)は12日、「返却期限」とした13日午前0時に予定通り画像を公開する意向を改めて示した。万引き対策として理解を示す声がある一方、「やり過ぎだ」などとする批判も強く、波紋が広がる。

出典:<まんだらけ>万引き写真 13日午前0時モザイク取る意向

それに対して、警察からストップの要請がはいったようだ。その理由がこれだ…。

警視庁中野署が「捜査に支障が出る」として公開を取りやめるよう申し入れたことが12日、同署への取材で分かった。同社は返却がなければ、予定通り13日午前0時から顔写真を公開する意向を改めて示した。

出典:犯人公開警告「やめて」と申し入れ 万引被害の「まんだらけ」に警視庁

警察からの「捜査に支障が出る」という声は、どうやって「万引き」の捜査を行っているのか?その捜査そのものに疑問が残る。犯人の顔を公開され、それがメディアで拡散され、「警察は何をやっているんだ!」という声をあげさせたくないための詭弁にしか聞こえなかった。ブリキの鉄人28号の人形の万引きで25万円の被害届けを警察に出しにいっても、犯人の顔を特定して、刑事さんたちがずっと張り込みして捜査しているとは到底思えない。

世の中は、「危険ドラッグ」の万延や、容赦無い殺人が相次いで発生している。700万円以上を宅配便で送らせる「振り込ませない詐欺」に至るまで警察の業務は多岐にわたっている。言葉は悪いが、「万引き」25万円程度でかかわってられないのが警察の実情ではないだろうか?

防犯カメラの公開という最終的な手法

しかし、今回のまんだらけ側のとった手段は、あくまでも、警察まかせではない手法を選んだ。みずからの手で犯人を出頭させる方法の一つであることは確かだ。犯人に返却の猶予を与えた上で、それでもなおかつということであればという事業者としての防犯カメラというセキュリティ対策を行った上での犯罪に対しての、抑止力を生ませる最終的な手法が公開であったのだ。また、万引き犯人は郵送でまんだらけへ宛名を偽名で送り返すこともできたはずだ。

ただ、防犯カメラの公開はマスメディアにも公開されるだろうし、個人の公開処刑に近い要素も想定される。また、犯人の人権やプライバシー、家族、親類にいたるまでの影響も考えられるだろう。悪いのは万引きをした犯人であることは確実だが、それに対して、被害者側がどこまで処置を講じることができるのかという事も意見がわかれる。犯人が未成年の可能性だってある。そうなると、少年法(記事等の掲載の禁止)としての問題も発生する。

「狼よさらば」が人気シリーズだった

かつて、チャールズ・ブロンソン主演の映画「狼よさらば(Death Wish)」は、凶悪犯人がいともたやすく裁判で無罪化してしまうのを、銃で返り討ちに合わせるという映画であり、人気シリーズとなり4作品も作られた。法廷で無罪となる犯人に対しての、無力な警察と違い、被害者の感情を見事に復讐してくれるからだ。また、アニメの「デスノート」も夜神月が殺人犯たちを神のような裁きの視点で独自の価値基準で殺害していくというストーリーだった。このように、警察のチカラが及ばない、裁判で無罪を勝ち取ってしまわれる社会はもはや日常だ。

今回のまんだらけの万引き犯人の公開手法は、長年にわたってなくならない万引き犯に対しての業界側からの社会への一種のアピールと取ることもできるだろう。いつの世も、警察にまかせてられないという事態は常に起きているからだ。被害金額だけでなく、防犯カメラやビデオシステムの設置、ガードマンの配置などのコストも利益を蝕んでいる。

「まんびき」という言葉の軽さ

「万引き」という言葉は、江戸時代の商品を「間引いて盗む」から来ているという。江戸時代は「死罪」もしくはイレズミをいれられ、百叩きなどの罰があったそうだ。しかし、現在万引きの罪名は「窃盗罪」となり、刑法第235条の「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」とあります。

万引きという言葉の軽さも原因かもしれない。「万引き=窃盗罪」という言葉の軽さも問題かもしれない。また、高額商品の窃盗の場合、50万円以下の罰金だと、窃盗のリスクが低くなってしまう場合もある。

時間の問題で、まんだらけの犯人画像が公開されるかどうかは決まる頃だろう。

窃盗された側はどこまで犯人に対して対策が打てるのか?大いに議論するべきだと思う。

近代法治国家では、刑罰を科す権利(刑罰権)は国家にあり、たとえ被害者であっても個人にはない。このため、インターネット上の中傷問題に詳しい清水陽平弁護士は「私的制裁を加える私刑は禁止されており、やり過ぎだ」と批判する。名誉毀損(きそん)罪に当たる可能性もあるとし、「犯罪抑止のためなら公益性が認められるだろうが、懲らしめなど私的な恨みを晴らすことが目的なら違法の恐れがある」と話す。

画像公開が、捜査の武器になっているのは事実だ。警視庁によると、2012年2月以降、画像を公開した56事件中20事件で容疑者が摘発された。先月あった強制わいせつ事件では、公開画像を見た容疑者の男が翌日出頭し「すぐに自分だと分かると思った」と供述した。ただ、今回のケースについて、警視庁は画像を公開せず、店側に「容疑者の逃亡など捜査に支障が出る恐れがある」と公開中止を要請していた。

出典:<まんだらけ>万引き写真 13日午前0時モザイク取る意向

※【追記】まんだらけは窃盗現場を公開しないことを決めたようです。

同社が予定していた「万引き犯」の顔写真の公開を取りやめたことが13日午前、分かった。同社はこれまで、盗まれた商品が返却されなければ、13日午前0時に顔写真を公開すると予告していたが、期限ギリギリの段階で方針転換を図った。

出典:まんだらけが「万引き犯」顔写真のネット公開を「断念」土壇場で方針転換

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

神田敏晶の最近の記事