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Appleが自動車産業に参入すると…

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

KNNポール神田です!

WSJがAppleが電気自動車(EV)開発のスクープを報じた。

米アップルは、日産自動車やテスラ・モーターズ、ゼネラル・モーターズ(GM)などに対抗し、数百人体制で電気自動車(EV)の開発に取り組んでいる。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が2015年2月13日、関係筋の話として報じた。報道によると、この開発プロジェクトは「タイタン」と呼ばれ、自動車のデザインはミニバンのような形をしているという。

出典:米アップルが電気自動車を開発、日産自・テスラに対抗=報道

同プロジェクトを率いるのは、フォード社の前エンジニアで「iPod」や「iPhone」の開発に貢献したスティーヴ・ザデスキーだ。現在のアップルには、フォード社のコンセプト・デザインをおこなったマーク・ニューソンもデザイン部門にいる。作ることには問題はないだろう。

Appleが自動車業界に参入の噂は過去にも何度も登場している

フェラーリに搭載されるAppleのCarPlay
フェラーリに搭載されるAppleのCarPlay

しかし、すでに、Appleは「CarPlay」というテレマティクス連動のシステムの提供を発表している(2014年3月3日)。クルマを運転しながら、SiriやMapや電話などを利用することができるという。

すでに、新車でCarPlayを搭載する提携パートナーも30社を超えていることを想定すると、いきなり電気自動車(EV)本体への参入は提携パートナーの心情を悪くするだけだ。CarPlayのインストールベースと利便性を高め、テレマティクス分野でのシェアを拡大したほうが得策だと思われる。しかし、Appleが自動車産業に手をださない理由もないわけではない。

30社以上におよぶAppleとの提携自動車メーカー
30社以上におよぶAppleとの提携自動車メーカー

Appleの得意とする分野は、成熟市場のイノベーション(改革)、リインベント(再発明)である。

コンピュータ(Macintosh)、音楽(iPad)、電話(iPhone)、タブレット(iPad)、時計(AppleWATCH)と、成熟している製品カテゴリーを新・創造してきた。

AppleTVというテレビ戦略レビュー

クルマと同様に、Appleがテレビに参入するという噂もあった。しかし、Apple は、テレビ受像機は造らずに次世代テレビを創ってしまっている。

Appleは2008年に「AppleTV」というデバイスを投入した。テレビではなくHDMIを経由したセットトップボックス(STB)である。Apple製品をリビングの大型テレビにディスプレイできるという概念としては完全なる次世代テレビなのである。ただ、あえてチューナーを内蔵していない。それはいつでもできることだからだ。

むしろ、AppleTVは、NETFLIXやHBO、Huluなどの月額課金、そしてYouTubeやVimeoなどの動画プラットフォームとなっている。それは500チャンネル時代のCATVに変わるものとなろうとしている。2013年度の売上は10億ドル(※1,000億円)を超え、「AppleTVを趣味と呼ぶには少々難しくなってきた」ティム・クックCEOは語る。

AppleTVの戦略を考えると、CarPlayでテレマティクス機能でのトップシェアを目指せばおのずから、道は開けるというものだ。駐車場を探したり、代金を支払ったり、セキュリテイの鍵となったり、もしくは、空港で駐車している間に他人に貸し出して稼いでくれたり、運転の質を報告すると保険代金が安くなるなど、新たなデータのトランザクションによる手数料ビジネスを稼ぎだすことも十部に可能だ。

自動車産業のシェア

iPhone6は2015年の第一四半期(2014年10,11,12月)だけで7,450万台を売り上げた。Appleの年間連結での売上(2013年)は、1709億1,000万ドル(※17兆910億円)

米国全体の自動車の保有台数は約2億5,000万台、そしてそのうちの約5%強が毎年更新(逆算すると耐用年数は20年弱)すると、クルマの需要1,500-1,600万台のうち1,300万台程度は買い替え需要である。

買い替え市場だけでも、1台あたり中古自動車150万円ならば、年間で、19兆5000億円市場となる。

米国の自動車産業だけで、Appleの売上とほぼ同等の市場がそこには顕在している。

AppleWATCHが狙える時計産業市場規模は、全世界の時計産業は、466.5億ドル(4兆6650億円)~600億ドル(6兆円)でしかない。Appleの年間売上の35%でしかない。この時計市場の10%のシェアを確保しても3.5%しか売上に貢献しない。

AppleとTESLAの共同戦略?

Appleが電気自動車で、自動車産業に参入するのは、それほど難しいものではない。むしろ参入した後の展開だ。複雑な販社の仕組みやイノベーション、電気ステーションなどのインフラ整備。電気自動車は作ることよりも、環境を育てることのほうが問題なのである。

しかし、今後の自動車産業を考えた場合、2020年(5年後)以降をピークとして、化石燃料であるガソリン車の需要は下降し、ハイブリッドから電気自動車へと変化しつつある。

長いスパンの市場で見ると、2050(35年後)年には、ガソリン車は50%を切るそうだ。

2020年がガソリン車のピークその後は減少する
2020年がガソリン車のピークその後は減少する

IEA/ETP2012経済産業省自動車戦略2014(仮)

この長期的な試みを考えた場合、TESLAの買収というアイデアがあっても良いだろう。時価総額で比較してみると…

Appleの時価総額Market Cap: 740.21B

7400億ドル ※74兆円

TESLAの時価総額Market Cap: 25.57B

250億ドル  ※2.5兆円

AppleはTESLAの30倍の企業規模なのだ。Appleの時価総額比率でいうと3.4%である。これは35年後の市場を考えた場合の投資価値は非常にあると考えられる。逆に今なら買えるが今後はTESLA株の上昇によっては買収できなくなる簿価をつけるかもしれない。200ドル前後のTESLA株なら30%出資でも75億ドル(※7500億円)だ。

Appleにとっては四半期の純利益84億ドル(※8,400億円)と大差がない。独自にEV市場を狙うよりも、TESLA&Appleブランドの次世代カーコンセプトは期待値も上がるのではないだろうか?

そして、テスラモータースを買収すると、逃げられた150名のApple元社員を取り戻せる可能性も強い。少なくとも、イーロン・マスクCEOを取締役に招くと、さらに、サンフランシスコとロサンゼルスをむすぶ超音速列車「ハイパーループ」や「スペースX」などのオプションももれなくついてくることだろう。

Appleが、イーロン・マスクを共同CEOクラスで招くというような強力な提携を超えたリクルーティングならばM&Aで、自動車業界を席捲する可能性は非常に大きくなる。

かつてジョブズは、Appleの役員にこんな言葉を浴びせたことがある。

[君はわかっていないよ。テスラは中身の構造が非常に美しいんだ。それにあれは単なる自動車としてとらえるべきではない。すべてのプラットフォームがテスラの手になるものなのだから]

ティム・クックCEOがその場で聞いていたかどうかは不明だ。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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