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Appleから『Store』という文字が消える時

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

KNNポール神田です!

アップルが各国で展開する直営店舗「アップルストア」が、その名前を変えようとしている。サンフランシスコの旗艦店は以前から「アップル・ユニオンスクエア」と呼ばれていたが、間もなく他の店舗の名称も「アップル5番街」や「アップル○○町」といった「社名+場所」の形式に改められ、「ストア」は店舗名から消える予定だ。

出典:「アップルストア」が間もなく消滅 改称に隠された戦略とは

Appleの製品はどこで買われているだろうか?

すでに、Apple製品は、店舗でなくても、ウェブサイトで購入できる。いや、店舗に行くとしても、ウェブで予約をしたり、ウェブで注文してから、ピックアップのポイントとしてリアルな店舗のApple Storeに行くという人も多くなったと思う。

ウェブサイトから消えた『STORE』の文字

すでに、Appleのウェブサイトを見ると、どこにも、かつてのように、ウェブ上に『STORE』の文字はない。そう、Appleのサイトは、すべてが、すでに『STORE化』されており、どの情報からも『購入>』ボタンで購入することが可能となったサイトなのだ。情報サイトがあって、購入カタログがあって、そこで注文するのではなく、サイトすべてが、『購入カタログ』としてのサイト構成になっているのだ。採用情報、リリースなどの非売上部門は、一番最後の最下部の右下に追いやられている。

唯一『STORE』の文字が、残っているのが、『リテール(小売り)』のApple Storeのページのみだ。

http://www.apple.com/jp/retail/

しかし、各Apple Storeのページには、すでに『Apple銀座』などのように『Appple+地名』の表記に変わっている。

Apple銀座 すでに『Store』の文字はない…
Apple銀座 すでに『Store』の文字はない…

http://www.apple.com/jp/retail/ginza/

これはForbes JAPANの記事のとおり、Apple銀座やApple渋谷、Apple表参道…となることによって、Appleというブランドのショールームでもあることを意味しているようだ。それは、ショールームであり、サポートやイベント、修理の窓口だったり、セミナーの場所を兼ねている。そして『Appple+地名』は、一般コンスーマーが唯一、Appleと触れ合う場所としての、それぞれの地の巡礼しやすい『Apple』の聖地のようだ。

AppleStoreはパソコン売り場からブティックへと変わった

かつてのAppleStoreの店舗内の景色も大きく変わった。現在のiPhoneの場所には、ノートブックとデスクトップが鎮座していた。銀色のヘアラインが光り輝き、iMacのモニターがズラリと並び、それぞれをテーブル越しに平行に眺めながら触るという風景だった。店内はモニタが立脚している分だけあまり見渡せなかった。それでも最新のレイアウトのパソコン売り場だったのだ。

しかし、今や、デスクトップのマシンは、店内の隅の方に申し訳程度にしか存在していない。ノートブックも奥の売り場となっている。iPhoneやiPadがメイン展示だ。そして、目線を覗き込むテーブルにはApple WATCHが収まっている。モニタが並ばないだけ、店の中はパソコン売り場でなく、ブティックのようにすっきりと見えるようになった。

日本のリテールで、顧客の声がけで、見知らぬ客に、「こんにちは!」と言ったのは、GAPかAppleStoreではなかっただろうか?少なくとも、AppleStoreで「いらっしゃいませ」とは言われたことがない。「いらっしゃいませ」は、赤いハッピや赤いベストを着た家電量販店のようにも感じる。また、全員が名札をつけながらも、マルチリンガルっぽく、インターナショナルな雰囲気を醸しだしているのもAppleStoreの特徴だ。外国人スタッフが流暢な日本語をしゃべるのもAppleStoreのカルチャーのようだ。

そして、とっても、クールなのが『ジーニアス(天才)』という役職があることだ。役職に『天才』とつけるところがすごい。先日、知人のスタッフがジーニアスになったことを喜んで報告してきてくれた。こちらまで、世界でもAppleだけのその役職を喜べた。しかし…そんなジーニアスまでいるストアなのに、一番最初に触りたい新製品を、初日に最初に触ることができないのだ。そう、Appleの情報はどれだけリークされていても、その日の朝に新製品が突如として到着する。スタッフもその日の朝に来て新製品の到着を知るという管理体制だ。もちろん、サイトですぐにスペックは確認すれど、触ったこともない新製品だ。そして、最初に触ること購入することが許されるのは、ユーザーだ。

毎日、Appleのエヴァンジェリスト(伝道活動者)として勤しむ彼らが、新製品を購入できるのはユーザーにある程度流通してからだから残酷だ。Apple好きなのに、Apple Storeで働いているとしばらくは新製品を販売するだけになるのだ。ようやく自分達が手にできるのはお客さんにある程度まわってから。どれだけストイックな職場なんだろう。

それでも彼らに到着したばかりの新製品のインプレッションや改善ポイントを伝えると本部に伝えてみますねといってくれる。Apple Storeのスタッフは、単なるApple○○店の店員さんではなく、米国本社の直営店としての採用スタッフなのだ。なので、Apple日本法人のウェブショップとは、ライバル関係にあたるというのも面白い。

Appleから『Store』の文字が無くなることにより、彼らの意識は「売上」よりも、もっと大事なAppleのカルチャーを売ることに専念できることになると期待している。ネットの通販では、なかなかこの初日の開封の儀のような感動は味わえない…。

iPad Pro初日の希少なキーボードカバーのインプレッション

スタッフさんも、はじめて触る機能に、驚きのある接客となる。時差の関係で日本は、米国よりも早く購入することができる。このような体験は、リアル店舗があるからこその体験だ。

リアル店舗の『Store』が無くなることによりリアル店舗は、より米国のApple本社に近づく気がする。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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