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Googleスピンアウト企業の「オート・モータリゼーション」

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
Waymoハイブリッドミニバン Chrysler Pacifica Hybrid

KNNポール神田です!

Google関連企業のWaymo(ウェイモ)社の動きが激しくなってきている…。

ホンダは(2016年12月)22日、人がまったく運転する必要のない「完全自動運転」について、米ネット検索大手グーグルと共同研究を始める、と発表した。ホンダが提供する車にグーグルの人工知能(AI)などを搭載。米国内で実走実験を繰り返し、自動運転のノウハウを共有する。

出典:ホンダ、グーグルと自動運転で共同研究 米で実走実験へ

米グーグルの自動運転車開発プロジェクトが事業会社として独立したウェイモは(2016年12月)19日、欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と共同開発したミニバン型自動運転車の画像を初公開した。ウェイモが開発した改良型のセンサーやコンピューターなど最新の自動運転システムを搭載。来年から公道走行実験を始める。

出典:グーグル、自動運転ミニバンの画像公開 FCAと共同開発

Waymo(ウェイモ)社とは…

https://waymo.com/

Waymo LLC社は、2009年からGoogle社の自動運転(Self-Driving Car)プロジェクトとしてスタート。2015年9月より、ジョン・クラフチック氏が就任。2014年の年俸は756万ドルだった。自動運転プロジェクトは、カーシェアリングサービスのUberやFord,GM,FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)らと提携してきたが、Googleの自動運転プロジェクトとしては断念し、Googleをスピンアウトさせ、親会社のAlphabet,Inc.の持ち株子会社として、「Waymo LLC」を2016年12月13日に設立、CEOにはジョン・クラフチック氏が就任。

ジョン・クラフチック(John Krafcik)CEO

Waymo社ジョン・クラフチックCEO
Waymo社ジョン・クラフチックCEO

https://twitter.com/johnkrafcik

ジョン・クラフチック氏は、1962年生まれの54歳。スタンフォード大学卒、MIT卒で、トヨタとGMの合弁会社「NUMMI社」でキャリアをスタート。Ford社で13年間、VPを経験し後、Hyundai Motor AmericaのCEO,ネット自動車売買の「Truecar社」を経てGoogle入社。Waymo(ウェイモ)社CEO就任。

Googleのスピンアウト企業戦略

Alpabet&Googleスピンアウトスキーム
Alpabet&Googleスピンアウトスキーム

2016年、Googleのスピンアウト企業、Niantic社は、株式会社ポケモンと共に、Pokemon Goの大ヒットを生んだ。

ナイアンテック社を率いるジョン・ハンケCEOは、Google Earthを生み出すこととなるKeyHole社を起業したことから始まる。そして、GoogleがKeyHole社を買収することにより、Google傘下となりGoogle EarthとGoogle MapなどのGeo部門の責任者となった。

出典:ジョン・ハンケCEOが創りだしたAR拡張現実「イングレス」の世界

イングレスの技術をスピンアウトさせ、Niantic社のものとして、Googleから独立させることによって、株式会社ポケモンとの協業が可能となった。Googleから切り離すことによって任天堂とのシナジーが活かせたのだ。そう、ネットの勝ち組であるGoogleゲームプラットフォーム事業でも影響が大きく、ゲームプラットフォーム企業である親会社の任天堂としてはガチの競合にあたる。しかし、Niantic社とGoogle社と切り離してもらうことにより、ビジネスとしての座組みが成立しやすい。そう、直接の競合関係にあたらなければ多少の不具合よりもビジネス機会を優先できる関係性を築きやすいからだ。

かつて、Googleは、Android OSだけではなく、携帯電話メーカーの「Motorola Mobility」を2011年8月に125億ドル(当時 約9600億円)で買収し、製造にまで乗り出そうと英断したが、2年半後の2014年1月にレノボに29億1000ドル(約2960億円)売却。2年半で6640億円もの損失で売却を余儀なくされた。その苦い学習経験をディープラーニングしている。現在のGoogle製のNexusやPixelは製造はすべて外注のファブレス企業だ。Googleは、本業の「検索を軸とするメディア媒体事業」以外は、早く育てて、外へ出し、金を生む木に育てるというAlphabetの持ち株経済圏の一事業と舵切りをしたようだ。

FCAのハイブリッドミニバン「Chrysler Pacifica Hybrid」
FCAのハイブリッドミニバン「Chrysler Pacifica Hybrid」

想像してみると、完全自動運転カーを開発していたGoogleは、「完全自動運転」に興味があったのではなく、完全自動運転の後の「余剰時間での人々の興味や感心に関する情報提供」にこそ関心があったはずだ。「運転」という呪縛から逃れた人は飲酒も雑談も、食事も映画鑑賞やカラオケ、楽器演奏なども「移動空間メディア」としてGoogleの情報提供をもとに、行動を決断するという未来があった。しかし、実際に完全自動運転を目指そうとするとパトカーのように天井部で高度に作動する360度の3D空間構造を読み取る「LIDAR(ライダー)技術」が避けられなかった。しかし、高価になるLIDARを安価に提供できるところまでは難しい。そこで、より積極的に自動車メーカーとコミットメントできる体制で、まずは、「完全自動運転」の景色が見えるところまで技術を提供していき自動車というカタチに落とし込むということでFCAやHONDAとの協業が近道となったのだろう。

自動車産業はサービス産業とネット産業の「オート・モータリゼーション」へ

AppleのEVカーと自動運転プロジェクトの「Project Titan」は、600名ものエンジニアをTeslaなどから引き抜き集め、中国のライドシェア配車サービス「Didi Chuxing(滴滴出行)」に10億ドルに出資したものの頓挫したと噂されている。基本的に頓挫したとはいえ、自動運転エンジニアはひくてあまただ。また、GM(ゼネラル・モーターズ)社はライドシェアのLyft社へ5億ドルの出資、VW(フォルクスワーゲン)社はイスラエルのGett社へ3億ドルの出資、TOYOTAはUBERへ、ドライバーの収入をカーリースに補填する事業サービスを行い戦略的出資をおこなった。SoftBank社もライドシェアサービス事業のDidi社やGrabTaxi社、OlaCabs社への出資を行っている。

自動車産業はかつて「モータリゼーション」という、高速道路からガソリンスタンド、モーテル、ドライブスルーにいたるまで新産業を生み出した。自動運転やライドシェアサービスそして、IoTは新たな「オート・モータリゼーション」産業を生み出す。そう、これらは自動運転になってから見えてくる景色なのである。

Waymo社の舵が、現実社会の自動車産業へ切られた事により、実業レベルでの開発競争に拍車がかけられるのは喜ぶべき一つの事象だ。

交通事故で亡くなる人の加害者はすべて人間だ。その数が減ることがあっても、増えることはなくなるはずだ。それと同時に「ドライブする」という言葉の意味は、完全自動運転のクルマから「ハンドル」を取り戻すという新たな言葉の意味を持つことになりそうだ。「ハンドル」をもがれた人類はどこへ連れて行かれるのか興味は尽きない。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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