Yahoo!ニュース

2016年音楽業界で一番稼いだのは855億円のマイケルの遺族 テイラースイフト194億円の4.4倍

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
sonyATVはテイラー、マイケル、ザ・ビートルズの権利を所有している

KNNポール神田です!

2016年、経済誌フォーブズの下世話なランキング発表(笑)

年収1億7000万ドル(約194億円)のテイラー・スウィフトが「世界で最も稼ぐミュージシャンランキング」の1位に立った。

出典:「世界で最も稼ぐミュージシャン」トップ30を発表 1位は?

しかし、一番驚いたのがテイラーのおよそ4.4倍も音楽著作権で稼いでいたのがマイケル・ジャクソンの遺族会だった!

54億円で買って855億円!マイケルの遺族会。なんと160倍の投資回収率!

ランキングの対象に既に世を去った人物を含めると、意外な人物の名前が浮上する。今年最も稼いだミュージシャンは2009年に死去したマイケル・ジャクソンなのだ。彼は今年1年で8億2500万ドルを稼ぎ出しており、この金額はフォーブスが把握するセレブの年収額としては最高記録だ。

出典:「今年最も稼いだミュージシャン」はマイケル・ジャクソン

マイケルの遺族会がトップに躍り出たのは、ザ・ビートルズの著作権売買益

2016年9月30日、ソニー株式会社(以下、ソニー)及びマイケル・ジャクソン遺産管理財団であるEstate of Michael Jackson(以下、MJ財団)は、政府当局及び監督官庁の承認などの取得を含む諸手続きの完了にともない、ソニーの完全子会社であるSony Corporation of America(以下、SCA)が、MJ財団が保有していたSony/ATV Music Publishing LLC(以下、Sony/ATV)の50%の持分の取得を完了したことを発表しました。

MJ財団に対する支払額は750百万米ドルです。この支払額には、SCAから一括支払いの約733百万米ドルのほか、Sony/ATVからMJ財団に支払われることが既に約束されていた分配金が含まれています。なお、かかる対価には、Sony/ATVの合弁事業に関する契約上及び会計上の諸調整、及びソニー及びMJ財団のその他の事業機会のための諸調整も反映されています。

出典:ソニーがSony/ATV Music Publishingの未保有持分50%の取得を完了したことをソニー及びEstate of Michael Jacksonが発表

しかも50%の売却なので、まだ50%は保持していることになる。

つまり、54億円で権利を買って半分売って、855億円!マイケルの遺族会。なんと320倍の投資回収率だったのだ…。

そもそもビートルズの楽曲の権利はどうなってたの?

経緯は少し、冗長だが、こんな経緯だった…。

マイケル・ジャクソンのATV社取得

ATV社はノーザンソング社を手中にしたが、ルー・グールド卿が映画事業で失敗したりする。そして事業を受け継いた豪鉱山王のロバート・ホームズ・ア・コートが、ATV社の売却についてマイケル・ジャクソンと交渉を開始する。交渉にあたったのがマイケルの弁護士ジョン・ブランカ。ホームズ・ア・コートのオーストラリアのパースでの慈善コンサートに当時ナンバーワンのマイケル・ジャクソンが出演するなどのオプションが設定された。また、楽曲「ペニーレイン」だけは娘のキャサリン・ホームズ・ア・コートの著作権管理のものとした。

一方、ポール側はオノ・ヨーコとの共同買収の話が折り合わずに買収を断念する。ソニーATVは、ビートルズの楽曲のうち5曲以外の権利を持つこととなる。初期の作品4曲 "Love Me Do"/"P.S. I Love You" (owned by McCartney); "Please Please Me"/"Ask Me Why" (administered by Universal Music)とPenny Lane以外

1985年マイケル・ジャクソンが豪からATV社を4,750万ドル(47億円)で買収する。

1995年、マイケルのATV社とソニーの音楽出版事業が合併し、ソニーATVミュージックパブリッシングを作る。

2012年、業界第3位のEMI社の音楽部門をユニバーサルミュージックが買収、版権部門をソニーATVが買収する。

これによって、ソニーATVは、EMI社の傘下のレーベルの版権も(エルビス・プレスリー、ボブ ディラン、エミネムらの曲の権利)も取得し、世界最大の音楽出版会社となった。EMIの持つビートルズの音源は、ユニバーサルミュージックの管理となった。

出典:マイケル・ジャクソンのATV社取得

…という経緯だ。

もしも、ポールとヨーコの仲が良かったならば…

悔やまれるのは、ポール・マッカートニーさんとオノ・ヨーコさんだった。もし、2人がちゃんとチカラをあわせていたら運命は変わっていた。マイケルが取得することもなかっただろう…。しかし、何よりも音楽の出版印税の権利がこうもたやすく、法人になると売買されてしまうとは…。

天国のマイケル・ジャクソンも、自分の実績よりも、「株」という紙切れが、自分の音楽よりも、死んでからのほうが稼いでいたのは、ご本人にとっても天国で納得がおそらく、いっていないのではないだろうか?

自分がクリエイトしてきたものよりも、株が稼いでいるからだ。

それにしても遺族会は、たまたま遺族であるだけで、最高の利回りを手にしてしまった…。願わくば、あぶく銭にならないようにしてもらいたい。汗水たらして苦労して手にいれてないお金さんたちは逃げたがるからだ…。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

神田敏晶の最近の記事