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音楽教室からも著作権料というJASRACは「音楽」を活かすのか?

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(ペイレスイメージズ/アフロ)

KNNポール神田です!

ヤマハや河合楽器製作所などが手がける音楽教室での演奏について、日本音楽著作権協会(JASRAC)は、著作権料を徴収する方針を固めた。徴収額は年間10億~20億円と推計。

著作権料を年間受講料収入の2・5%とする案を検討している。

音楽教室は大手のヤマハ系列が約3300カ所で生徒数約39万人、河合楽器製作所は直営約4400カ所で生徒数約10万人。JASRACの推定では、この大手2グループに他の事業者も加え、合計約1万1千カ所の教室があるという。そのうちウェブサイトなどで広く生徒を募集している教室約9千カ所を徴収対象とし、個人運営の教室は当面除外する方針だ。

出典:音楽教室から著作権料徴収へ JASRAC方針、反発も

日本の音楽ソフト産業は3,015億円(2015年)

JASRACの見込む音楽教室からの徴収額は年間10億~20億円に及ぶそうだ。この金額がどの程度のものなのか…?

そもそも日本の音楽産業の市場規模についてふり返ってみると…。

2016年度版の日本レコード協会レポートによると、音楽ソフトが2,542億円、有料音楽配信が471億円、合計3,015億円である。

日本の音楽ソフト産業は3015億円市場
日本の音楽ソフト産業は3015億円市場

http://www.riaj.or.jp/f/pdf/issue/industry/RIAJ2016.pdf

しかし、かつては1998年をピークに、6,075億円あった音楽ソフト市場からするとこのシュリンクはようやくとどまった感があるのかもしれない。しかし…。

かつては6000億円あった音楽ソフト市場
かつては6000億円あった音楽ソフト市場

わずかに復調、3000億円を回復…音楽CD・有料音楽配信の売上動向(2016年)

http://www.garbagenews.net/archives/2042380.html

それは、ごく一部の限られたアーティストだけが底ざさえしている薄氷の上の市場構造であった。

2016年のオリコン発表では、CDシングルの30位くらいまでが一部のアーティストたちだけの完全寡占市場と化している。そう、ジャニーズとAKBばかりなのだ…。テレビでの歌番組が激減し、「日本レコード大賞」には見知らぬ楽曲が並ぶ…。紅白歌合戦は懐メロ合戦となった。そう、音楽ソフト市場はギリギリ存続している状態といってもよいほどなのだ。

http://www.oricon.co.jp/special/49664/2/

音楽コンサート市場は年間3,186億円(2015年)

一方、コンサートプロモーターズ協会による音楽興行の収益は好調で右肩あがりだ。むしろ、ソフトよりも完全にコンサートという状況である。

http://www.acpc.or.jp/marketing/transition/#page-container

2015年は、29,546公演、のべ4,753万人、年間売上3186億円、著作権料は35億円であった。

コンサートにおける著作権売上は35億円(2015年)
コンサートにおける著作権売上は35億円(2015年)

JASRACの年間使用料徴収額は、1,116億円

こんな音楽市場が衰退化している中、JASRACの年間使用料徴収額は、2015年度で1,116億円である。

JASRACの著作権料は1,116億円(2015年)
JASRACの著作権料は1,116億円(2015年)

http://www.jasrac.or.jp/profile/outline/detail.html

徴収額から手数料を差し引きされ作詞者や作曲者、音楽出版者などへ分配される。仮に20%の手数料率だと223億円の手数料となる。分配金は893億円となる。

JASRACの会計処理は、信託会計と一般会計とに別れ、信託会計上の1,116億円はすべて分配され、JASRAC側は一般会計の収支として142億円が計上されている。

http://www.jasrac.or.jp/profile/disclose/pdf/2016/pl_02.pdf

JASRACの全体での手数料率は11.2%となった。

2015年度の管理手数料率(実施料率)

演奏会等での利用(演奏等):26%

放送等での利用(放送等) :10%

CDでの利用(オーディオ録音):6%

インターネットでの利用(インタラクティブ配信):10%

http://www.jasrac.or.jp/bunpai/rule4.html

驚異のJASRAC! 音楽が売れなくても取扱いは増え続けてきた!

音楽ソフト産業が、1998年をピークに落ち込み低空飛行し、ライブコンサートが右肩あがりの状況。JASRACは2000年代はどうだったのか?このグラフを見て欲しい…。

音楽ソフト不況の中でも、伸び続けたJASRAC
音楽ソフト不況の中でも、伸び続けたJASRAC

http://www.jasrac.or.jp/release/pdf/12110503.pdf

見事にCDの売上減少分を、その他のポートフォリオでJACRACが、補っていることがよくわかる。CDは買わないが、音楽は稼いでいたのだ。…とは、いっても、音楽著作権料が分配されるアーティストは、非常に限られているごくわずかな、トップセールスの作詞者、作曲者、音楽出版者に限られているのだ。それでもこの5年間は、前述のグラフのように音楽ソフトと同様の横ばいである。そこで、新たな金脈に目をつけた。著作権法に守られた正規の徴収方法として…。

音楽教室の市場規模は1,024億円

音楽教室は5.2%シェアで1024億円
音楽教室は5.2%シェアで1024億円

矢野経済研究所のお稽古・習い事市場規模によると1兆9699億円(2015年)であり、音楽教室は5.2%、つまり1,024億円と推察できる。

この音楽教室市場の中からJASRACが設定している演奏権率を2・5%とすると25.6億円となる。JASRAC規定の演奏等の手数料は26%なので、6億6,560万円のJASRACの手数料収入が見込め、18億9440万円が、作詞者、作曲者、音楽出版者に分配される。もちろん、演奏されている楽曲に対しての分配となる。

JASRACの分配の法則

JASRACの分配額の計算例
JASRACの分配額の計算例

JASRACの分配率は、著作権等管理事業法によって定められている。これは楽曲がすべて把握できていると非常にわかりやすい分配事例だ。しかし、ライブハウスや社交場ですべての楽曲で何が演奏されているのかわからない場合は、包括契約を結び、サンプル調査と契約店舗からの報告などで分配率が決められる。

方法は2つ。

1.サンプリング調査による利用曲目収集

2.契約店舗からの報告による利用曲目収集

ライブハウスなどの生演奏の分配方法
ライブハウスなどの生演奏の分配方法

ライブハウスでの生演奏など

http://www.jasrac.or.jp/bunpai/restaurant/detail1.html

筆者も小規模ながら、BARを経営していた頃にJASRACに店舗でかけているiPodの楽曲使用料を年間数千円ほど、収め続けていた。しかし、実際には、どんな曲をかけていたのかを一度も調査されたことがない。包括契約による分配とはそういうものだ。

誰が音楽を活かすのか?

現在の音楽教室では、著作権切れのクラシックの音楽もたくさん演奏されているだろうし、年間受講料収入の一律での2.5%という金額徴収は果たして本当に妥当なのだろうか?結果として、これを文化庁が認めてしまうと、音楽教室は受講料に反映する可能性もでてくる。著作権法は、音楽に課せられた税金ではない。クリエイトした人たちの権利を守るための法律だ。むしろ、日本の音楽の「文化」を考えた場合、現在の限られた媒体によるヒットチャートによるデータをどれだけ「サンプリング調査」しても一部の音楽家の「富」を増やすだけである。むしろ、音楽を愛し、音楽を支え、教室にお金を払って、プレイを楽しむ人たちに、間接的な著作権料を課すよりも、「二次利用」をふくめた創作演奏権利などを付与したほうがよくないだろうか?その利用料を支払ってもらったほうが分配も明確だ。リスペクトする曲に、自分の新たな音楽性をクリエイティブすることによって、新たな音楽の次世代ビジネスモデルを構築することができるかもしれない。いろんな二次創作が登場することによって、楽曲利用のチャンスも増えるのだ。

童謡「森のくまさん」の替え歌がよい事例だ。「円満解決」できるレートやパーセンテージがそこには必ずあるはずだ。

UM社は日本音楽著作権協会(JASRAC)を通じて使用許諾を求めており、「双方の認識にずれがあった」と説明。「(UM社側が)誠意ある行動をしていたことがわかった」と理解を示し、歌詞を加えたと明記することを条件にCDやDVDの販売、ネット公開を容認することにしたという。金銭のやり取りの有無については「公表を控える」とした。

出典:「森のくまさん」替え歌、訳詞者と販売元が「円満解決」

音楽カバー曲だけでなく、二次創作可能曲という音楽ジャンルをJASRACが仲介できる機能が持てれば、さらに結果として著作権手数料も増える。新たな二次創作者にも著作権料が分配される。共有されればされるほど損をするのではなく得をする音楽業界にしなければ、この音楽ソフトの頭打ちを回避することはできない。音楽ソフトタイトルが売れなければ音楽を消耗させるばかりだ。EDMにボーカロイドにいたるまで、かつての日本の名曲を蘇らせ、新たな解釈がパクリと呼ばれるのではなく二次創作作品として正規に流通するプラットフォ−ムは実現できるはずだ。すでにYouTube等ではカバーした楽曲からも、著作権料が分配されるようになっている。誰が音楽を殺すのか?ではなく、誰が音楽を活かすのか?と説いてみたい…。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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