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「特別警報」新設へ  頻発する甚大な災害に対応できるか(前編)

片平敦気象解説者/気象予報士/防災士/ウェザーマップ所属
平成23年台風第12号。こうした記録的な大雨の際に「特別警報」が発表される。
平成23年台風第12号。こうした記録的な大雨の際に「特別警報」が発表される。

5月13日現在、参議院で「気象業務法及び国土交通省設置法の一部を改正する法律案」が審議中です。4月末に衆議院で可決し参議院に送られた法案で、今後、参議院でも可決・成立すれば3か月以内の施行となります。したがって、今夏には改正気象業務法が施行となる運びです。

今回の改正の一番の目玉は「特別警報の新設」。同法の気象関連部分の改正としては、平成5年の「気象予報士」創設の時以来の大きな改正とも言えそうです。

この「特別警報」とはいったいどのようなものなのでしょうか。

注意報→警報→特別警報

気象庁から発表される防災気象情報のうち、広く知られているものが「注意報」「警報」でしょう。災害の起こるおそれがある場合に地元の気象台・測候所から発表され、注意報は16種類、警報は7種類あります。

注意報は「災害が起こるおそれのあるときに」、警報は「重大な災害が起こるおそれのあるときに」発表されるとそれぞれ定義されていますが、今回新設される「特別警報」は法律上、「予想される現象が特に異常であるため重大な災害の起こるおそれが著しく大きい場合」に気象台から発表されると位置づけられます。

簡単に言えば、通常の警報レベルを大きく上回るような非常事態に発表されるのが特別警報です。具体的には、その地域で「数十年に一度」クラスの大雨や暴風などが予想される場合に、特別警報が発表されることになります。

「数十年に一度」と言えば、例えば、同じ地域に子どもの頃からずっと住んでいるような人でも記憶にあるかどうか、という頻度。それほどの非常事態に発表されるわけですから、特別警報が出される場合には大きな災害の危険が差し迫っている状況だと言えます。自分の住む地域に特別警報が発表された際には、「命を守るため最善を尽くす」のが、最優先で重要な行動になるのです。

気象台の抱く「危機感」を伝えられるか

今回の「特別警報」新設の背景には、近年発生したいくつもの大きな災害があります。平成23年の東日本大震災・大津波、同年の台風第12号(紀伊半島の大水害)、平成24年の九州北部豪雨(熊本県阿蘇地方などの大水害)………。

これまで、特に気象災害に関しては、通常の気象警報のレベルを大きく上回る危機的状況が予想された場合であっても、住民や自治体へ「非常事態」を伝える方法が必ずしも十分ではなく、避難行動・防災活動などに気象情報が十分に活かされていないのではないか、という課題が指摘されていました。

特別警報発表のイメージ。通常の警報基準を大きく上回る事態の際に特別警報が発表。
特別警報発表のイメージ。通常の警報基準を大きく上回る事態の際に特別警報が発表。

現状でも、「大雨に関する情報」など、気象警報などを補足する意味合いで随時情報が発表され、「これまでに経験したことのないような大雨」という表現や、「最大級の警戒が必要です」といった文言により、気象台の抱く危機感が伝えられてはいましたが、災害時に大量に流れる情報の中で、十分に活用できていなかったことは否定できないでしょう。

今回、警報のさらに上位に位置する特別警報を新設することにより、気象台の持つ危機感・切迫感を、住民や自治体など利用者に「より簡潔に」伝えられることが期待されます。

特別警報クラスの過去の事例としては、前述の「平成23年台風第12号」や「平成24年九州北部豪雨」などがこれに当たります。発表頻度としては(例えば大雨に関しては)、全国的には、年に1~2回程度になる見込みのようです(過去の事例解析からの推定)。

都道府県から市町村への伝達は「義務」に

また、特別警報と通常の警報の違いには、「伝達の義務」についても大きなポイントが挙げられます。

特別警報伝達の流れ。太矢印が「義務」。都道府県から市町村への伝達も義務化。
特別警報伝達の流れ。太矢印が「義務」。都道府県から市町村への伝達も義務化。

これまでの警報は、気象台から発信された後、地元の都道府県までは伝達する義務が法律で定められていましたが、それより下流側(都道府県→市町村→住民)は「努力義務」とされていました。

今回の法改正では、特別警報は、都道府県から市町村への伝達についても義務化され、市町村から住民に対しても「周知の措置を執ること」が義務付けられます。

市町村から住民一人ひとりへの確実な伝達は現実的に困難なことから義務付けられないにせよ、都道府県から伝えられる特別警報を市町村が見逃すという事態は許されず、住民への周知行動を執る義務も生じるわけですから、大きな前進とも言えます。それだけの非常事態を示す際に使われる、いわば「切り札」が特別警報になるわけです。

今夏からの運用をめざして

国会での審議と並行し、特別警報の運用開始に向けた準備が、気象台だけでなく地方自治体などの防災部局、テレビ・ラジオなど報道各社、民間気象会社などで急ピッチで進められています。

ただし、特別警報の運用開始後の懸念材料は少なくないのも事実です。次回は、そうした課題や問題点について考えてみたいと思います。

(なお、特別警報は気象の分野だけでなく、地震・津波・火山の災害においても発表されることになります。現行の各種情報のうち、地震動の場合は「最大震度6弱以上の緊急地震速報」、津波の場合は「大津波警報」、火山現象の場合は「居住地域に被害をもたらす噴火(警戒レベル4以上)」を特別警報に位置づけることになります。)

(画像は、気象庁HP(予報事業者向け研修資料の掲載ページ)より引用・トリミングして作成)

気象解説者/気象予報士/防災士/ウェザーマップ所属

幼少時からの夢は「天気予報のおじさん」。19歳で気象予報士を取得し、2001年に大学生お天気キャスターデビュー。卒業後は日本気象協会に入社し営業・予測・解説など幅広く従事した。2008年ウェザーマップ移籍。平時は楽しく災害時は命を守る解説を心がけ、関西を拠点に地元密着の「天気の町医者」を目指す。いざという時に心に響く解説を模索し被災地にも足を運ぶ。関西テレビ「newsランナー」など出演。(一社)ADI災害研究所理事。趣味は飛行機、日本酒、アメダス巡り、囲碁、マラソンなど。航空通信士、航空無線通信士の資格も持つ。大阪府赤十字血液センター「献血推進大使」(2022年6月~)。1981年埼玉県出身。

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