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「特別警報」を待たないで! 台風18号、早めの避難を

片平敦気象解説者/気象予報士/防災士/ウェザーマップ所属
気象衛星可視画像(9月15日12時半)。気象庁HPより。

台風18号が南の海上を北上中です。9月15日(日)12時半現在の最新の台風予報では、台風は あす16日(月)日中に、東日本の太平洋側(東海~関東)に上陸する可能性が高くなってきました。今後の台風情報に留意し、身の安全を最優先に早めの対策をお願いします。

なお、台風の予想進路などは、随時最新の予報が発表されますので、古い情報を利用することなく、最新の情報を入手するように心がけてください。

「特別警報」級の大雨の可能性も

今回は台風本体が接近する前の段階から、台風周辺の非常に湿った空気が流れ込むため、先行して大雨になることが予想されています。台風が接近すると台風本体の非常に発達した雨雲もかかるため雨量はさらに多くなり、最新の予報では、明日昼までの24時間降水量は多いところで、近畿や東海で600ミリと予想されているのです。

地域によっては、本来1か月半~2か月ほどかけて降るべき雨が、この1~2日で降ってしまうことになり、災害の危険性が極めて懸念される状況になっています。

気象庁は昨日14日(土)に開いた記者会見で、8月30日から運用が始まった「特別警報」級の大雨になる可能性についても言及したと報じられています。

50年に一度の雨量を示した図の例。赤色系ほど大きい値。気象庁HPより。
50年に一度の雨量を示した図の例。赤色系ほど大きい値。気象庁HPより。

大雨の特別警報は、その地域において数十年に一度レベルの豪雨が降った際に発表される、通常の「警報」のさらに上位に当たる情報です。具体的には、予め各地域ごとに「50年に一度」の大雨はどれくらいか統計的に計算しておき、そのレベルの雨量(48時間 または 3時間)や、そのレベルの地盤の緩み具合(地中の水分量)に達した場合に、発表されることになります。(詳細は、過去に投稿したこちらの記事を参考になさってください)。

予め統計的に計算された近畿や東海の「50年に一度」の雨量(48時間積算)は、左の図の通りです。地域によっては1000ミリ以上のところもあります。通常から雨の多い地域では、当然「50年に一度」の量も多くなるのです。しかし、今回特に大雨が予想されている地域にも、その基準が600~800ミリ程度の地域も少なからずあるため、大雨の特別警報が発表される可能性も否定はできない、というわけです。

また、3時間雨量の基準では150~200ミリ程度が基準になっている地域もあり、非常に発達した雨雲が停滞して、例えば1時間に70ミリ前後の雨が3時間降り続いてしまえば、あっという間に特別警報の基準に到達してしまうおそれもゼロではありません。

※ なお、伊勢湾台風級の台風やそれに匹敵する温帯低気圧の接近が予想される場合にも大雨特別警報が発表されますが、その場合はこの基準ではなく、台風などの中心気圧などが基準とされます。今回はその状況ではありません。

※ 各地の「50年に一度」の値は、気象庁HPに掲載されています。こちらをご参考になさってください。

特別警報発表を待ってからの避難は、絶対にやめて!

今回の台風接近について、「特別警報級の大雨の可能性も」と報じられていますが、大切なのは、特別警報が発表されようがされなかろうが、早めの避難を心がけることです。特別警報の発表を待ってから避難行動をとる、ということだけは絶対にやめてください。

大雨特別警報が発表されるのは、すでに数十年に一度の大雨に「なっている」または「なる直前」のタイミングです。(以前指摘した通り、通常の警報レベルの地域でも連動して特別警報に格上げされるという運用方法ではあるのですが)、特別警報発表のキッカケになる実際に基準を突破している地域については、すでに非常に危険な状態になっているということになります。

(実際にすでに基準を突破している地域がどのあたりかは、昨年から運用が始まっている「経験したことのないような大雨」といった表現による情報で、地域名が詳細に示される場合があります。詳しくはこちら。)

特別警報は起こりうる「災害」と直接リンクしていない

通常の「警報」と「特別警報」の基準の違いを少し考えると、さらに意味が分かってきます。

通常の警報は、基準を定める際、地元気象台と市町村とで、過去の災害の事例とその際の気象状況(雨量など)を照らし合わせるなど総合的に判断して、「床上浸水が発生するのは、3時間雨量○○ミリ」「土砂災害が発生するのは、地盤の緩み具合はこれぐらい」などとして具体的な基準を定めていきます。

雨を要因とする特別警報の指標。気象庁HPより
雨を要因とする特別警報の指標。気象庁HPより

一方、大雨特別警報の基準は、純粋に統計的に示された「50年に一度レベルの大雨」の場合、になります。どの程度の災害が起こるかとは直接リンクしておらず、「その地域で経験がないような大雨」になっていることを警告して発表される情報なのです。簡単に言えば、「特別警報が発表される際には、この程度の災害が起こるはずだ」という明確なリンクはないのです。その土地では過去に経験したことがないような大雨ですから、何が起こるかは、正確には分かりようがない、とも言い換えられます。

ただ、当然ながら浸水や土砂災害などの危険性は極めて高くなっているはずで、「特別警報が出ていないから、まだ大丈夫」とは決して言えず、むしろ特別警報発表の前にも重大な災害が起きてもおかしくない、と考えるのが正しい理解になります。

なお、万一、大雨特別警報が発表された際にまだ避難行動が完了していない場合には、とにかく「命を守るために最善を尽くす」ことになります。まだ避難経路が安全であれば避難することも可能ですが、そうでない場合には、家の中で少しでも安全な場所に移ってください。「崖や斜面から離れた側の部屋に移る」「浸水が家の中に迫るようであれば1階より2階に移る」などの行動です。

厳しい表現ですが特別警報発表時には、すでに「手遅れ」になっている場合も十分にあり得るのです。繰り返しになりますが、「特別警報の発表を待ってから避難しよう」という考え方は、絶対にやめてください。

身の周りの危険は自ら考えて、行動を

災害が起こるかどうかは、お住まいの地域によって状況が大きく異なります。気象警報は市町村ごとに発表されますが、その市町村内でも状況はかなり違うはずです。

たとえば、土砂災害に警戒を呼びかける大雨警報が出されたら、崖や斜面の近くにお住まいの方は避難を意識した行動をとる必要が出てきます。しかし、近くにそうした危険箇所がない所では、通常通りの生活で問題ない場合もあります。

発表される警報や土砂災害警戒情報といった気象予測情報などを上手に利用し、自ら一人ひとりが家の周りや避難経路の危険度をイメージすることが大変重要なことになります。危険だと判断したら自主的に率先して、早め早めの避難をすることが大切です。自治体の避難勧告・避難指示が間に合わない場合もあります。「自ら考えて判断する」という点を意識しましょう。

その際、避難に時間がかかるお年寄りや体のご不自由な方は家族や近所にいないか、今後まもなく暴風雨や浸水になることはないと考えられるか(避難時に危険はないか)を想像しておくことも肝要です。また、夜間の避難は困難になる場合が多いですから「避難するなら明るいうちに」という点も欠かせないポイントになります。大雨特別警報の発表を待つことはせず、「警報だからまだ大丈夫」とは思わず、周囲のようすをしっかりと見極めたうえで、早めの避難を心がけるようにしてください。

台風がさらに接近する今夜以降は、近畿~関東を中心に風が強まり、暴風になる地域もあると見込まれます。身の安全を最優先に、自ら考えて、早め早めの避難行動をお願いいたします。

気象解説者/気象予報士/防災士/ウェザーマップ所属

幼少時からの夢は「天気予報のおじさん」。19歳で気象予報士を取得し、2001年に大学生お天気キャスターデビュー。卒業後は日本気象協会に入社し営業・予測・解説など幅広く従事した。2008年ウェザーマップ移籍。平時は楽しく災害時は命を守る解説を心がけ、関西を拠点に地元密着の「天気の町医者」を目指す。いざという時に心に響く解説を模索し被災地にも足を運ぶ。関西テレビ「newsランナー」など出演。(一社)ADI災害研究所理事。趣味は飛行機、日本酒、アメダス巡り、囲碁、マラソンなど。航空通信士、航空無線通信士の資格も持つ。大阪府赤十字血液センター「献血推進大使」(2022年6月~)。1981年埼玉県出身。

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