「取材記事は発表前に確認させてください」という広報担当者が「時代遅れ」では全くない理由

イラスト - 記者会見の実例(写真提供:123RF)

私は比較的、商品販促においては「攻めの広報」を行ってきた。一方で「広報」は「攻め」ばかりでは成り立たないことを知っている。

そして「広報」という仕事を愛するがゆえに、「広報」の仕事を表面的にしか理解していない人の発言を目にすると無性に悲しく、残念な思いになる。

特に下記のような意見が「残念」である。

特に大きな企業だと、インタビューをする際に「広報確認」が必須だったりするんですよね。「インタビューするのはいいですが、まずはできあがった原稿を見せてください。あと画像素材もすべて。広報に確認します」的な。これがライターとしては非常にだるい。先方に何の悪気はなくても、げんなりします。(略)どんだけ警戒しているんですか…と。冷静に考えると、それはインタビューを受ける社員に対しても失礼なわけです。要するに「こいつはまずいことを喋ってしまうかもしれないから、一応広報でも確認しておくか」ということですから。

出典:「取材記事は発表前に確認させてください」?時代遅れな広報パーソンに物申す(イケダハヤト)

「もっと自社のことを知ってもらいたい」という前提があるのなら、「広報確認」という作業は時代遅れきわまりないです。人件費の無駄です。広報が人力で確認している暇があるなら、信頼できるライター、ブロガーを見つけてバンバン好き勝手個人名で書いてもらった方が成果出ますよ。

出典:「取材記事は発表前に確認させてください」?時代遅れな広報パーソンに物申す(イケダハヤト)

まず、このブログの筆者は「広報=消費者向けの販促記事掲載」としか捉えていない。非常に残念である。この筆者はブロガーを職としている。主にコンシュマー向けの「商品」「サービス」を自分のブログ等で販促目的で取り上げて欲しいと、企業側(広報担当など)からお願いされる立場にあるのだろうか。その「お願い」されることが企業の「広報」の全てだと、仮に思っているとしたら大間違いだ。

「広報」とは「商品販促や企業紹介のための記事を書いてもらうこと」「企業のイメージアップを図ること」だけではない。

例えば、企業の広報の場合、その対象となるのは「一般消費者」ばかりではない。従業員やその家族、株主、販売関係者、債権者、金融関係(メインバンク)、関連行政機関、その他、幅広いステークホルダーが広報活動の対象だ。ブログの筆者等を相手に商品販促記事を依頼するのは、「広報」のごく一部の活動に過ぎない。広報担当者が記事を事前確認するのは、こうした様々なステークホルダーとの間の関連や調整を踏まえる必要があるからである。そして、そこには様々な「企業リスク」が存在する。

事例を挙げる

上場企業の一社員が、公開前の財務情報を悪気なく発言してしまうリスク

新人社員がリクルート関連の取材中にうっかり開発中の新商品の内部情報を話してしまうリスク

ある部署では周知の事実だが、販売店やフランチャイズには、まだ公表前の情報を話してしまうリスク

少なくとも企業体が大きければ大きいほどステークホルダーは多くなる。実際に取材を受ける一部門の担当者は所属部門以外の情報には疎いこともある。まして慣れない取材の現場等では、多くのことに同時に気が回らずに、自分が知っていることを聞かれたままに、全て話してしまうことだって当然ある。

一概に「広報確認が時代遅れ」というのはあまりに安易な発想である。取材を受けた担当者が「勘違い」をしていて「誤報」だったらどうするのだろう。そのまま確認せず「誤報」を掲載しても、ブログならば公開後に自分で直せば済むという程度にいい加減な気持ちで取材をしたり、記事を書いたりしているのだろうか?そうであれば、このような「書き手」がいるからこそ、広報担当者は「広報確認」を入念に行う必要がある。逆に確認が「必要ない」と思う「書き手」に対しては、あえて確認をせずに「お任せ」にすることもある。これは広報担当と書き手との信頼関係である。

この信頼関係を築けていないことにブロガー自身が気がついていないことも「残念」である。

「広報確認」というのは取材者にとっては、ある種の「裏取り」でもある。私は自分自身が書き手として取材をさせてもらうこともある。取材対象が取材時に言ったことが、本当に所属する社としての意見なのか、それとも個人的な意見だったのかの「裏取り」を行う。公式に認めた事実なのか?数字は本当に正確なのか?少しでも「正確な」情報を必要とするならば「広報確認」を「面倒だ」「だるい」「げんなり」などとは決して思わない。むしろ、積極的に広報担当を窓口にして、追加質問や細かい確認を行う。

経験的に、広報担当者が「もう勘弁して欲しい」と思うくらい入念に「裏取り」(広報確認)を行う書き手の方が、優秀な書き手であることも多い。様々なタイプの書き手がいるが、広報部門の経験がある人であれば、このことは直感的に分かってもらえるのではないかと思う。

また同時に、広報担当者は取材を受けた「社員を守る」という責任を持つ。仮に「広報確認」なしに一社員がうっかり発してしまった言葉がメディアに載ってしまったとする。その結果、株価に影響を与えたり、新事業が事前に公表されてしまったりした場合、この社員が責任を問われかねない。特に「社」としてコミットできない財務的な内容を、社員がうっかりメディアにコミットしてしまったら、上場企業では経営上の大問題になりかねない。株価に大きな影響を与えることもある。そのようことにならないために「社員を守る」という観点でも、広報担当は「広報確認」を行っている。

こうした「広報」の役割について、全く理解がないのであれば「知らないこと」は「書かない」に限る。ところが最近は、マスコミであれブロガーであれ、「知らないこと」を「知らないなりに書く」ことが当然の風潮になっている。そして「社員」が裏取りされない情報を発言した結果、大勢の人々に晒される危険性もある。これは社にとっても社員にとっても、大変危険なリスクだが書き手が責任を負うことはまずない。

だから・・・広報担当は「企業防衛」の立場から「広報確認」を行う。同時に「取材者(社員)の立場を守る」のだ。

ちょうどよい事例となるニュースがあった。

大雪の影響で中央自動車道の談合坂サービスエリアに立ち往生したドライバーに積んでいたパンを配ったトラック運転手に称賛の声が寄せられた。

寄せられたコメントはどれも、山崎製パンのトラック運転手の「英断」への賛辞ばかり。インターネットには、非常時に人助けができる人材を抱えている山崎製パンの社風に言及するものもあり、同社の知名度や企業イメージもまた、急上昇しているとみられる。(略)これに対して、山崎製パンは「とくに会社として指示したものでも、非常時の対応として(商品の配布について)の規定があるわけではありません。運転手が機転を利かしたのでしょう」と話している。ただ、「当社としては商品が届かず、ご迷惑をおかけしているお取引先のこともあります。この件についてコメントすることはありません」(略)山崎製パンでは、前日製造した商品は翌日には届ける体制を敷いているが、「山梨県全域はまだ大雪の影響が残っており、商品が届いていない地域があります」という。現在、一刻も早く商品を届けるべく、対応を急いでいる。

出典:山崎製パン、運転手の「英断」に困惑? 株価も評判もウナギ登りだが「コメント控えたい」

非常に、素晴らしい広報対応だと感心した。

緊急時における山崎製パンのトラック運転手は「大英断」だ。しかし、その一方では、その商品が届かないことで困っている「顧客」もいる。「企業イメージ」「販売促進」のことだけを、広報担当が安易に考えれば、運転手の対応を積極的にメディア露出させたことだろう。しかし、「広報」はそんな単純なものではない。もっと奥深い。

「本来、届くべき所に届いていない」ことに対して、この企業は十分な配慮をしている。あらゆる関係者への配慮を行うことが「広報」の基本中の基本である。

派手なタイトルを付け、センセーショナルな記事を書き、PVを獲得する。その内容を一切「広報確認」させずに裏取りせずに公開する。「広報確認」は「だるい」という。掲載してしまえば「後はお構いなし」ということだろうか。そのような書き手の姿勢を、企業側を代表する広報担当者は簡単に受け入れてはいけない。

広報担当者の苦労の本質は、こうしたところに根深く存在する。

非常に「残念」なことである。