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なぜ各地で記録的な大雨? 切り札は「GPS可降水量」

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
豪雨はごく狭い範囲で起こっている(気象庁データ)

記録的短時間大雨情報はのべ16回

今朝(30日)も、新潟県長岡市と島根県大田市で1時間に100ミリの猛烈な雨が降りました。これにより、この週末以降、「記録的短時間大雨情報」は全国7道県に、のべ16回発表されました。

7月27日 秋田県横手市、栃木県矢板市・さくら市、茨城県五霞町

7月28日 島根県津和野町、山口県美祢市・山口市・萩市・阿武町

7月29日 北海道遠別町

7月30日 新潟県長岡市、島根県大田市

これをみると、まさに「神出鬼没」という言葉がぴったりな、日本列島のごく狭い範囲で豪雨となっていることがわかります。「記録的短時間大雨情報」は気象庁が発表する気象情報のなかでも特別な情報で、すでに起こってしまった豪雨に対して発表されます。そのため、この情報が発表されたときにはなんらかの災害が起こっている可能性が高く、もしも、この情報に接したら、いつもとは違う雨が降っていると思ってください。

局地的な豪雨の訳

それにしても、先週は雨不足による、取水制限のニュースがあったばかり。この夏の天気の変わり身の早さは、まるでどこかの国の政治家のようです。原因はいろいろと思い浮かびますが、一番は太平洋高気圧の強弱の影響が大きいです。太平洋高気圧が強まり、日本列島をすっぽりと覆うと猛暑がやってきて、高気圧が弱まると、湿った空気が日本列島に流れ込み、局地的な豪雨が起こりました。

そもそも、気象現象にはスケール(大きさ)があって、スケールの小さいものは寿命も短い。山口・島根に豪雨をもたらした雨雲はわずか数10キロ程度の大きさで、寿命は1時間程度です。激しい雨を降らせる雨雲ほど、スケールが小さいので、だから天気予報では「局地的」といいます。

「GPS可降水量」は豪雨予測の切り札

このような雨雲はスケールが小さく、寿命が短いため、予想が困難です。行動が自由自在で、居所などの予測がつかない「神出鬼没」な雨雲なのです。だからといって、手をこまねいているわけではありません。

雨雲の元となる湿った空気がどこにあるのか、それを的確に知る方法があります。それは「GPS可降水量」といって、カーナビの技術を応用したものです。GPS電波は水蒸気が多い所を通ると遅くなるという性質があります。これまでカーナビの誤差につながるため、やっかいものとされてきました。でも、発想を変えると、GPS電波の遅延により、水蒸気の分布がわかるのです。

この「GPS可降水量」は現在、気象庁の数値予報に使われていて、雨の予想に効果が表れています。でも、今回のような豪雨が起こると、首をかしげる向きがあると思います。もちろん、豪雨の予想に水蒸気の分布だけでは不十分ですが、予測の技術は確実に進歩しています。

【参考資料】

国土交通省 国土地理院 「電子基準点観測データ(水蒸気データ)の気象予報への利用」

リアルタイムGPS可降水量マップ

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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