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【気象の統計学】台風は火曜日が好き?

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
台風20号の予想進路(9月23日9時現在)気象庁

今シーズンは、台風17号が鹿児島県指宿市(9月4日)に、台風18号が愛知県豊橋市(9月16日)に上陸しました。鹿児島県は全国で最も上陸数が多い県ですが、最近は2007年の台風4号以来、上陸が途絶えていました。一方、愛知県豊橋市は2年連続で台風が上陸しました。

気象の統計学

今日は気象データを使った簡単な統計学をご紹介しましょう。

台風は平均すると一年間に2~3個上陸します。1980年~2011年までに上陸した86個の台風を曜日別に分けてみると、次のようなグラフになりました。

曜日別の台風の上陸数
曜日別の台風の上陸数

結果をみると、上陸した台風が最も多いのは「火曜日」、逆に最も少ないのは「日曜日」となり、その差は2倍以上です。グラフをそのまま読むと、「台風の上陸は曜日に関係ある」と結論づけてしまいそうですが、はたして正しいのでしょうか?

以下は少し専門的になりますので、難しいと思われた方は最後のまとめにどうぞ。

ピアソンのχ2(カイ二乗)検定の「適合度の検定」

曜日によって変化すると考える台風の上陸日の分布(観測度数の分布)と、曜日には関係ないと考える台風の上陸日の分布(期待度数の分布)のギャップを表すのがピアソンのχ2(カイ二乗)検定の「適合度の検定」です。

まず、「台風の上陸は曜日に関係ない」という帰無仮説を立てます。続いて、これらの曜日別度数差から計算された統計量(近似のχ2乗値)を求めて、限界値(χ2乗分布から読み取る)と比べます。

この場合のχ2乗値(適合度の検定)は、6.45772となりました。自由度は6(7-1)、有意水準5%の限界値(信頼度95%)は12.5916です。

χ2乗値は有意水準5%の限界値よりも小さいので、「台風の上陸は曜日に関係ない」という仮説は否定(棄却)されません。

まとめ(結論)

統計的には「台風の上陸は曜日に関係がない」ことになります。つまり、台風が上陸する曜日に偏りがあるように見えても、実は偶然なのです。でも、偶然であることが分かって、どんな意味があるのだろう?と思った方が多いでしょう。身の回りの、ありとあらゆるシーンに数字が使われていて、知らず知らずのうちに、数字やグラフから受けるイメージで判断してしまいます。数字を誇張したり、偶然でないように見せかけている場合もあるでしょう。統計学はビジネスだけでなく、数字のマジックにだまされないことにもつながります。ぜひ、おためしあれ。

【参考文献】

統計学の入門書としておすすめする本

入門統計学 検定から多変量解析、実験計画法まで:栗原伸一,オーム社,2011

まずはこの一冊から 意味がわかる統計学:石井俊全,ベレ出版,2012

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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