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風の観測に高層ビルの壁

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
乱立する高層ビルが風向風速計を高所へ追いやる(ペイレスイメージズ/アフロ)

高い所ほど風が強いのは当たり前。しかし、人口密集地では高層ビルなどの影響で、風向風速計を地上50メートル以上の高所に設置する気象台がある。

これでは地上に吹く風、本来の強さが分からない。災害を防ぐうえでも、風向風速計の設置環境は重要だ。

風向風速計は地上10メートルに設置する

今からちょうど42年前、1974年11月1日に画期的な気象観測がスタートしました。それが地域気象観測システム(アメダス)です。

雨量計は約17キロ間隔に、温度計や風向風速計などは約21キロ間隔に設置され、これほど密な気象観測網は世界的に非常に珍しいものでした。

しかし、時が経つにつれて、観測所の環境が変化し、移転を余儀なくされるケースが目立つようになりました。

たとえば、樹木が成長し、日差しを遮るようになったり、近くに高い建物が建ち、風に影響するようになったり。天地に生じる自然現象そのものを観測することが本来の目的ですが、それが困難になっているのです。

激しい嵐のことを暴風雨と言うように、強い風は災害に直結します。風によるさまざまな影響を予測し、防ぐためには風の観測は重要です。

しかし、風ほど周囲の影響を受けるものはありません。建物による風の乱れを防ぐため、風向風速計は近くにある建物の高さの10倍以上離れた場所に設置すること、高さは地上10メートルが望ましいとされています。

広島の風向風速計は日本一の高さ

そうなると、高層ビルが多い人口密集地で風向風速計を設置するためには広い場所が必要です。都会の真ん中で広い敷地を確保するのは難しい。おのずと建物の影響を受けないように高い場所へ設置することになります。

風向風速計は全国の931か所にあり、そのなかで最も高い場所にあるのが広島の風向風速計で地上95.4メートルです。渋谷マークシティ・ウエストやTBS放送センターの高さくらいでしょうか。足がすくむ高さです。

2番目は岡山の69.9メートル、3番目は釧路の66.1メートル、4番目は札幌の59.5メートル、5番目は佐賀の56.1メートルです。

東京は移転により風が弱く

では、高層ビルが集中する東京はどうでしょうか。

東京の風向風速計は大手町合同庁舎第3号館の高さ74.5メートルに設置されていましたが、大手町周辺の再開発により、2007年11月1日、千代田区北の丸公園に移転しました。それにより風向風速計の高さは35.1メートルと以前の半分の高さになり、風速も弱く観測されるようになりました。

風の観測は天気予報はもちろんのこと、災害の軽減、交通機関の安全運行、大気汚染の予測などに幅広く利用されています。長期間に渡って、全国すべての観測所を理想的な環境に保つことは非常に難しい。周囲の環境が気象観測に与える影響を知って欲しいと思います。

【参考資料】

気象庁:地域気象観測システム(アメダス)

気象庁:気象観測ガイドブック

東京管区気象台:平成19年4月から10月までの期間におけるこれまでの観測場所(大手町合同庁舎第3号館)と新しい観測場所(科学技術館)での風の観測結果について

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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