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国の事業の見方解説 みんなで税金の使い方をチェックしよう

加藤秀樹構想日本 代表

過去5回の仕分けで、削られた国の予算と発掘された「埋蔵金」の合計は7兆円近くにのぼる。

予算査定でこれだけの効果を出したことはないし、ましてや国会の予算委員会や決算(行政監視)委員会がそのような機能を果たしていないことを考えると、やはり相当のインパクトだったと言える。

しかし、前回の記事で、このような無駄削減効果=目の前の成果よりも、政府がやっていることを、世の中にさらけ出す「しくみ」をつくること=長期的な成果の方がさらに重要だと述べた。

今回は、その「しくみ」の柱であり、誰でもがアクセスできる「レビューシート」の読み方について少し解説します。

レビューシートは、国の事業(約5000)すべてについて公表され、行政刷新会議のホームページから誰でも見られる。これを見ると“トンデモ復興予算”と同様、誰でもトンデモ○○予算を発見できるしくみだ。つまり、国民みんなが「仕分け人」として行政の事業をチェックする環境が整っているのだ。

◆レビューシートからわかること(【 】はレビューシートの項目名)

・目的は何か。【事業の目的】

・どのような内容、手段の事業か。【事業概要】

・予算はいくらか。実際にどれくらい支出されたか。【予算額・執行額】

・そのお金がどこに支払われたか。【資金の流れ】【費目・使途】【支出先上位10者リスト】

・どんな成果をあげているのか。【成果実績】

・この他、官庁の内部評価や単位当りコストなどの詳細も記されている。

◆行政事業のチェックの”コツ”

(1)事業の目的は何か。また目的に対して事業内容や、成果指標は適切か。

<【事業の目的】【事業概要】【成果実績】をチェック!>

行政の事業には目的がはっきりしないものがとても多い。また、目的と、実際にやっていること、さらに成果が一致しないものも多い。これらのチェックは事業仕分けの基本だ。

では、具体的な例で見ていこう。

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これは農林水産省が実施している「鯨類捕獲調査安定化推進対策」事業だ。

その目的は「平成23年度調査捕鯨を安定的に実施するための措置を講じ、これを通じて鯨関連産業が地域の主要産業となっている東日本大震災の被災地の復興を図る」ことで、そのために、「鯨捕獲調査の副産物収入(※鯨肉販売による収入)落ち込みの支援」や「反捕鯨団体の妨害活動に対する安全対策を強化」などを行うという。

ここまでですでに、この事業が被災地の復興の役に立つのかと首をかしげる人も多いだろう。さらに、事業の目指すべき成果として設定されているのが、「南極海鯨類捕獲調査捕獲頭数」である。復興支援が目的なのに成果指標はクジラの捕獲頭数になっているのだ!

この事業はトンデモ復興予算の一つとして指摘されたが、これに限らず目的と、事業内容と目指すべき成果がバラバラなものは多い。公共事業に限らず事業を実施する、つまり、お金を使うことそのものが目的になっていることがしばしばある。

構想日本で調べたところ成果指標をそもそも設定していない事業が約1300(全事業の約1/4)もあることがわかった。これらを詳しくみていくと上記の例のように、そもそもの事業の目的を見失っているものがかなりあると思う。

(2)資金の流れは適切か。

<【資金の流れ】【費目・使途】【支出先上位10者リスト】をチェック!>

国の事業は複雑な資金の流れになっていることが多い。国が直接事業を行わず団体や企業に委託や補助をしていたり、公益団体などを経由して資金を配分していたりなどだ。そんな資金の流れの中で、何の役割があるのかわからない団体を経由したり、団体自身が過剰な経費を使っていることがある。

こちらも具体的な例で見ていこう。

経済産業省「イノベーション拠点立地推進事業」

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これも復興関連の、「民間企業や産学連携等が行う、研究開発環境の整備や産学官連携の枠組みの構築等の技術イノベーションに係る基盤の整備等に対する支援を行う」事業で、350億円の予算がついている。

経産省が直接民間企業等に対して補助金を交付するのではなく、まず(a)環境パートナーシップ会議という団体に対して補助(基金の積み増し)を行う、そしてそこが(b)みずほ情報総研と野村総合研究所に事務を委託し、そこから民間企業等に補助金が交付されるという構造だ。

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もともとこの環境パートナーシップ会議は環境NGO、NPO支援という色彩が強かったが、一般社団法人であるこの団体に対して経産省の「国内立地補助事業(2950億円)」などからも補助が行われており、その総額は約1兆円にもなる。レビューシート公表時点では、この事業の資金の流れの詳細の確認はできない。また、一般社団法人は公益法人ほど情報公開が行われず、この団体のホームページを見ても、業務内容などは開示されていない。

この団体の場合、天下り法人のようないわゆる「中抜き」(中間の団体での人件費や家賃など間接経費に多くの資金が使われていること)はないと思うが、1兆円もの税金を扱う団体のわりには実態がよくわからない。仕分けの議論をよく聞いてみたいものだ。

この事業は「新仕分け」の1日目(11/16(金)13:00~予定)の議論の対象となっている。

ネット中継やその他詳細情報はこちら(行政刷新会議「新仕分け」特設ページ)。

構想日本 代表

大蔵省で、証券局、主税局、国際金融局、財政金融研究所などに勤務した後、1997年4月、日本に真に必要な政策を「民」の立場から立案・提言、そして実現するため、非営利独立のシンクタンク構想日本を設立。事業仕分けによる行革、政党ガバナンスの確立、教育行政や、医療制度改革などを提言。その実現に向けて各分野の変革者やNPOと連携し、縦横無尽の射程から日本の変革をめざす。

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