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企業経営にはルールがある。なぜ政党にはない?

加藤秀樹構想日本 代表

会社と政党を比較する人はあまりいない。しかし「組織運営」という面では類似点が多い。景気悪化、円高、売上げや利益の減少、目の前に問題が多い時ほど会社は高い経営能力が求められる。それは経営者一人のことではなく、組織運営の問題だ。

社長の言うことがよく変わる。幹部どうしが違うことを言う。役員会で決めたことを社員が行わない。こんな会社では信用できないし、業績もあがらないだろう。組織として物事が決められ、団結し、実行される「しくみ」や「きまり」が大事だ。これを企業統治とかコーポレートガバナンスと呼んでいる。政党だって同じことだ。

しかも、会社の場合は、経営がまずければ最後は倒産するなど自分にツケが回ってくるが、政党の場合はツケは国民すべてに回ってくる。

今、党首討論というと10党以上の代表が集まる。過去50年間ほどで最も多いだろう。しかも、その数が日々変わる。ここから二つのことが心配になる。

まず、政党は、そんなに簡単に作ったりつぶしたり合併したりできるのか。

次に、これだけ多党化して一つの政党の支持率が低いと、新しい政権は三つ以上の政党の連立内閣になる可能性が高い。その場合、急ごしらえ、またはくっついたり離れたりの結果できた政党が、さらにいくつか集まって政権を担うことになる。これで大丈夫なのか。

会社を設立し経営しようとすると、定款、役員、株主総会など、必ず設けなければならないものが、会社法などで定められている。これが企業統治のためのルールだ。ところが政党にはそのような法律上のルールはない。5人以上の国会議員が集まれば政党助成がもらえる。だからそのための離合集散が先行し、理念や政策はあとづけになるためコロコロ変わったりする。

会社に関するルールがなぜ法律で定められているか。それは、会社は社員のみならず株主、取引き先、消費者など大勢の人と関る社会的な存在だからだ。いくら利益を上げるための民間組織だといっても社会的、公共的な面が必ずあり、関係者に迷惑をかけないようルールがある。個人だって同じことだ。いくら自由だといっても、社会の中で暮らしていくには守るべきモラルやルールがある。

ところが政党にはこれらがない。ルールがなくてもモラルがあればいい、憲法で信条や結社の自由が認められているという意見があるだろう。しかし、政党や政治家のモラルを多くの国民は今や信じていない。また、政党という団体の設立や運営に関するルールを作ることが憲法上のルールをしばることにはならない。むしろ、個人や会社よりもはるかに公共的な存在である政党に法律上のルールがない国は主要国では珍しいのではないか。

政党に関するルールはなく、モラルも怪しい状況の下で、冒頭で述べたダメ会社のような例が多くの政党に随所で見られる。

しかも、そこで300億円以上の税金(政党助成金)と非課税の収入合わせて1000億円以上が使われているのだ。このお金は、本来は各政党が国家経営をしっかりやっていけるようにという趣旨だった。

ところが、お金を使っても成果が出ない。総選挙後はますます状況が悪い方向に向かう可能性も十分ある。政治の劣化が底を打ち、反転するよう、会社法に相当するルール(政党法など)を作り、政党の統治能力(ガバナンス)を有権者は強く求めるべき時だ。政権公約(マニフェスト)で政策をいろいろ訴える以前に、きちんとマネジメントをやっていく!すべての政党がまっ先にやるべきことはそのことだ。

構想日本 代表

大蔵省で、証券局、主税局、国際金融局、財政金融研究所などに勤務した後、1997年4月、日本に真に必要な政策を「民」の立場から立案・提言、そして実現するため、非営利独立のシンクタンク構想日本を設立。事業仕分けによる行革、政党ガバナンスの確立、教育行政や、医療制度改革などを提言。その実現に向けて各分野の変革者やNPOと連携し、縦横無尽の射程から日本の変革をめざす。

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