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成長する世界の漁業 ~日本一人負けの構図

勝川俊雄東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

日本国内だけを見ていると、漁業には未来はないように見えますが、海外をみると別の光景が見えてきます。世界的に見ると、漁業は成長産業であり、日本のように漁業が衰退している国の方が例外であることは、データからも明らかです。

世界の漁業の現状についてまとめたものとしては、FAO(国際連合食糧農業機関)が二年に一回発行しているSOFIA(世界漁業白書)があります。

http://www.fao.org/fishery/sofia/en

FAOの統計によると、世界の漁業生産は下図のように右肩上がりで増えています。1990年以降、天然魚(オレンジは)ほぼ横ばいで推移しているのですが、養殖魚(緑)の堅調な増加によって、全体として増えているのです。

世界の水産物生産量 SOFIA 2016 TABLE1より引用
世界の水産物生産量 SOFIA 2016 TABLE1より引用

食用の水産物の生産量は2009年から2014年の間に、1億2380万トンから、1億4630万トンへと約二割増えました。水産物生産の増加割合は、人口の増加を上回っているので、一人あたりの水産物供給量は、この期間に年間18.1kgから年間20.1kgへと増加しています。では、水産物が余っているかというとそうではありません。先進国から、途上国まで、水産物の需要が増えており、世界の貿易市場での水産物の需給関係は極めてタイトで、価格は上昇しています。

下の図が水産物の貿易価格(米ドル/トン)を示したものです。2015年までが実測データで、それ以降は予測になります。食用水産物の単価(緑の点線)は、2001年に底値になった後上昇して、その後の13年の間に、約50%上昇しています。生産量も価格も増加しているのだから、漁業全体の経済規模は拡大しているのは明らかです。

水産物貿易単価(米ドル/トン) SOFIA 2016 より引用
水産物貿易単価(米ドル/トン) SOFIA 2016 より引用

2016年のSOFIAでは、2025年までの漁業生産の将来予測をしています。それによると、世界全体では養殖を中心に17.4%の漁業生産の増加となるそうです。先進国は伸びしろが小さく、1.0%の増加にとどまっています。ほとんどの国で生産量(重量)に大きな変化は無いのですが、例外は日本とノルウェーです。養殖の成長によってノルウェーが二桁の増加を達成する一方で、日本のみが-13.7%と大幅な減少となっています。開発余剰のある途上国は、先進国よりも漁業生産の伸びしろが大きいために、20.8%の増加が見込まれています。ブラジル、中国、インドなどが大幅に漁獲量を増やしています。日本で現在進行している漁業の衰退は、世界的に見て極めてユニークな現象なのです。

主要先進漁業国の漁業生産の変化予測 SOFIA 2016 TABLE22より筆者作成
主要先進漁業国の漁業生産の変化予測 SOFIA 2016 TABLE22より筆者作成

日本一人負けの予測をしているのはFAOだけではありません。2013年に世界銀行が、「2030年までの漁業と養殖業の見通し」というレポートを公開しました。こちらの予測でも同じように、世界の主な地域と国の中で日本だけが生産を大幅に減少するという結果が得られています。PDFはこちらからダウンロードできます。

2030年までの漁業生産の変化予測 Fish to 2030 : prospects for fisheries and aquacultureより引用
2030年までの漁業生産の変化予測 Fish to 2030 : prospects for fisheries and aquacultureより引用

では、漁業を成長させている諸外国と日本はどう違うのか。次回以降、詳しく見ていきたいと思います。

東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

昭和47年、東京都出身。東京大学農学部水産学科卒業後、東京大学海洋研究所の修士課程に進学し、水産資源管理の研究を始める。東京大学海洋研究所に助手・助教、三重大学准教授を経て、現職。専門は水産資源学。主な著作は、漁業という日本の問題(NTT出版)、日本の魚は大丈夫か(NHK出版)など。

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