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しがらみなき解説者・玉乃淳の日本代表解説。「国民と代表が“対話”した結果。褒めないでどうする!」

川端暁彦サッカーライター/編集者
Jスポーツでの解説でお馴染み・玉乃淳氏。ベルギー戦の日本代表をどう観たのか?

日本、敵地でベルギーを破る

11月20日(現地19日)、オランダと好勝負を演じた日本代表は中2日の強行日程で世界ランク5位、本大会のダークホースとの呼び声も高いベルギーと対戦した。

オランダ戦からGK、両SB、そしてセンターFWを大迫勇也から柿谷曜一朗へ変更した日本代表。タフな守備から試合に入ったかに見えたが、15分に守備が大いに乱れていきなり失点してしまう。ただそこから崩れることはなく、逆に37分には、内田篤人に代わって先発の右SB酒井宏樹のクロスから柿谷がヘッドで決めて同点に追い付く。

そしてハーフタイムでは右MFに岡崎慎司、ボランチに“スーパーサブ”遠藤保仁を投入。ガラリと攻撃のテンポを変えると、後半8分にはその遠藤の巧みなパスからMF本田圭佑が“右足”でゴール。さらに18分には柿谷のワンタッチパスを受けた岡崎が決めて、3-1。最後はセットプレーからゴールを許す薄氷の試合運びだったものの、3-2で試合終了。嫌なムードを一掃するような成果を残し、2013年の活動を締めくくった。

「停滞していたからこそ、グッと伸びが来る」

――3-2での快勝でした。

「この試合を賞賛せずに、いつ賞賛するんだという試合でしたね。5万人の観衆を向こうに回した欧州でのアウェイ戦。しかも中2日で体力面ではむしろ不利という戦況で、点の取り合いの末に勝ったんですから、これを褒めないでどうするんですか(笑)。もちろん、あの失点シーンはどうなんだというのはありますよ。でも、チームは生き物。雰囲気が勝敗を大きく左右しますから、その意味でもW杯に向けて価値ある勝利だったのは間違いありません。10月の不甲斐ない試合を受けて、非難の大合唱でしたよね。でもそうした声にシュンとするわけではなく、選手が反骨心を持ってくれたからこその結果ですよね。本田圭佑はそうした声に真っ向から反論する姿勢を見せてくれましたが、これでダメだったら本当にボロクソに言われるわけじゃないですか。でもその覚悟が彼にはあるわけです。今日の試合は、国民と代表が“対話”をした結果なんだと思っています」

――代表に停滞期間はありましたが、空気が変わりそうです。

「停滞していたからこそ、グッと伸びが来るんじゃないかと思います。何度も言いますが、チームは生き物。苦境を乗り越えるからこそブレイクスルーがある。ずっと右肩上がりにはなれないものです。柿谷、山口、大迫の出るJリーグも自然と盛り上がると思いますし、すごくいい流れに入れると思いますよ。柿谷も個性が出ていたし、オランダ戦では大迫も良かった。何より山口が良かった。柿谷については、ヤンチャにノビノビプレーをすることをもう国民は許していると思うんですよ。後は彼次第。もっと思い切りやってもらっていいと思います。欧州で戦っている選手たちはもちろん素晴らしいのですが、Jリーグにもそのレベルで戦える選手がいるんだということを再確認する機会になりましたよね。彼らの自信にもなったでしょうし、選択肢が広がりました。層に厚みが出ているのを実感できたのは大きい」

――オランダ戦を語った前回でも玉乃さんが指摘された“遠藤スーパーサブ”が今回も機能しました。

「試合の中で緩急に変化を与えることは日本代表の大きな課題だったわけですが、この2試合で見えた部分がありますよね。システムでやり方を変えるのではなくて、“人”の特徴で変化させるということ。もちろんシステム、それぞれの監督のやり方は大事なんですが、変化を与えるのは個性ですよ。遠藤という異なる個性を後半から使って流れを変える。重要な選択肢を日本は手に入れました。これは山口の成長によって決断できたとも言えると思います。彼は欧州でも間違いなくやれると思いますし、組み合わせのバリエーションが豊かになっている実感がありますよね」

――遠藤のパスから決めた本田の2点目は大きかった。

「本当に最高でした。しかも、右足。本田については、僕はもうすべてを許す覚悟ができています(笑)。彼の言動を中田英寿さんと同一視する向きもありますが、僕は違うと思っています。常に仲間と一緒に戦っているという印象を受けますから。いや、それにしても、アウェイで欧州の国に勝つというのは本当にすごいことですよ。日本代表という生き物は、この勝利でもう一段上に行けるんじゃないでしょうか。この試合の日本代表について強いて苦言を呈すなら、ちょっと金髪が多すぎることくらいじゃないでしょうか(笑)」

玉乃 淳(たまの・じゅん)

1984年6月19日生まれ。東京都出身。国際大会での活躍が認められてアトレティコ・マドリー(スペイン)のユースチームに15歳で移籍。帰国後は東京ヴェルディなどでプレーしたが、早々に現役を退いて25歳にしてTV解説者としてデビューした。日本サッカー界の「しがらみ」と無縁であるがゆえの突っ込んだ解説、そしてサッカーへの愛と情熱に定評がある。Twitter@JUNTAMANO1

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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