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ネクストなでしこ狙う「女子大生の日本代表」、中国を破って四強へ!!

川端暁彦サッカーライター/編集者
PK勝利に喜びを爆発させる選手たち(写真:六川則夫)

大学版オリンピックと女子サッカー

韓国光州市などを舞台に開催されているユニバーシアード競技大会。「大学版オリンピック」と位置付けられる学生スポーツの世界大会は、7月8日に大会7日目を迎えた。そのうち、女子サッカー競技は準々決勝に突入。日本はここで難敵・中国と激突した。

ユニバーシアード競技大会には独特なレギュレーションが幾つかあり、参加資格も現役大学生だけでなく卒業後1年以内の選手や大学院生も参加できるようになっている。年齢制限も28歳までと幅広い。このため各スポーツや各国ごとに位置付けもバラバラになりがちである。

日本の女子サッカーは、かつてユニバーシアードの大会規定上におけるベストメンバーに近い選手たちを招集していた。なでしこリーグでプレーしながら大学に通っている選手や、卒業後1年以内の選手たちに、部活としてサッカーに取り組んでいる選手たちまで幅広く集めたチーム作りである。

ただ、こうなると選手たちの目的意識をそろえるのは難しいのも当然だろう。4年前になでしこジャパンのコーチとして世界制覇に貢献し、今大会はこの大学選抜チームを預かる望月聡監督は「(前回大会までは)チーム内に温度差があった」と率直に認める。2年前の前回大会にも出場している主将のMF加賀孝子(仙台大学)も「(大学所属選手のみにすることで)チーム作りを早くからできたし、チームワークが良くなった」と言う。今回はあえて大学所属の選手のみでチームを構成する、新たなチャレンジの大会でもある。

体格に勝る相手に粘りで対抗

望月監督が「結集力」と評したチームワークの良さは試合中も濃厚に感じることができた。ゲームの流れは一言で表してしまえば、「相手のほうが上手くて強い」(望月監督)状況の中での耐久戦である。先の女子ワールドカップにも中国A代表の一員として出場していたMF王霜を核とする中国は、肉体的な強さに加えて個々に技術のある選手もいる難敵だった。「もっとボールを奪えるかと思っていたが、まるで奪えなかった」(同監督)前半は、ほぼ一方的な中国ペースとなった。

ただ、主将の加賀が「前半は特に苦しい時間帯が続いたけれど、落ち着いてボールを回せば自分たちの時間帯になると思っていた」と言うように、後半からは徐々に日本が盛り返す。中国の運動量が目に見えて落ちると、「選手同士の“助け合い”という部分なら絶対に負けない」(GK井上ねね=日本体育大学)と言う日本の良さが随所で感じられるように。水際で敵の攻勢をしのぎつつ、DF林香奈絵(尚美学園大学)がMF山守杏奈(筑波大学)のコンビプレーが絶好機を迎えるなど、狙いとする攻撃も見え始める展開に。しかし、両者ともに決定力はなく、決着はPK戦へ委ねられることとなった(中1日の連戦が続くため、延長戦は行われない)。

PK戦を前に、望月監督はキッカーの志願を募る。「さあ、誰が蹴るんだ?」との声に、しかし当初は反応なし。「さすがにこの大事なPK戦で名乗り出るのは難しいですよね。でも、あえてこちらから指名することなく、言ってくるのを待ちました」(望月監督)。指揮官の言葉に主将の加賀が応えると、徐々に5番目の枠までが埋まり、「6番手以降は高速で決まりました」(望月監督)。そうして決まる過程で全員に笑顔も戻り、いざPK戦。

キッカーは4番手の本多由佳(大阪体育大学)まで、4人中3人が成功。そして中国側のキッカーには井上が立ちふさがった。「1番手は相手が勝手に外してくれて楽になった」と笑う守護神は、2番手キッカーにこそ出し抜かれたものの、その反省を生かして待ちに徹して3番手をストップすると、4番手は横っ飛びで見事に防ぐ。結果、3-1のスコアで日本がPK戦を制し、準決勝へ進むこととなった。

目指すはネクストなでしこ

ワールドカップで準優勝を飾った“なでしこジャパン”は、世代交代の必要性が叫ばれて久しい。かつて彼女たちを指導していた望月監督も、そのことは強く意識している。「一人でも多くこのチームから代表へ送り込みたい。来年のリオ五輪もそうだし、その先もそう。この気持ちはコーチ陣全員に共通するもの。チームとして結果を残すことで個々の選手も注目してもらえるだろうし、何としてもみんなで優勝したい」と力強く語った。

試合中の奮闘も目立った殊勲の井上については、「身体的には本当に恵まれたものがあるし(身長176cm)、この大会で勝つことで自信もつけてきた」と望月監督も高評価。これから女子サッカー界において面白い存在となっていくだけのポテンシャルは十分にありそうだ。

ユニバーシアード光州大会女子サッカー準々決勝

日本代表 0-0(PK3-1) 中国代表

ユニバーシアード女子日本代表

先発メンバー

GK

井上ねね/日本体育大学

DF

高木ひかり/早稲田大学

浦田佳穂/順天堂大学

林香奈絵/尚美学園大学

小泉玲奈/東京国際大学

須永愛海/仙台大学

MF

加賀孝子/仙台大学

三橋眞奈/大阪体育大学

横山亜依/筑波大学

FW

植村祥子/日本体育大学

濱本まりん/吉備国際大学

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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