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「世界」に向けた第2戦、「日本の15歳」が17得点の後に積み上げるものとは?

川端暁彦サッカーライター/編集者
U-15日本代表の中軸を担うMF平川怜(FC東京むさし) 写真=佐藤博之

17得点のその後で

練習・試合の場となるのは急速に近代化が進むモンゴル首都ウランバートル
練習・試合の場となるのは急速に近代化が進むモンゴル首都ウランバートル

16歳以下のアジア王者を決し、2017年に開催されるU-17ワールドカップの出場権をも争うAFC U-16選手権。その予選(いわゆるアジア1次予選)が16日からモンゴルの首都ウランバートルにて開催されている。日本は16日の初戦で17-0という記録的大差で地元モンゴルを撃破。20日の香港戦では引き分けでも予選突破が決まるという、ある意味でイージーなシチュエーションとなった。ただ、今回の遠征で求めているのは、そもそも単純な結果ではない。

10番を背負うMF福岡慎平(京都サンガF.C.U-15)が「こんなに長く合宿をするのは初めて」と漏らしたように、9月6日から始まった菅平高原での国内合宿を経て、11日にウランバートル入り。そこから20日まで合計2週間のトレーニングを積み重ねてきた。「僕らの目標はあくまで世界」と主将の菅原由勢(名古屋グランパスU15)が力を込めたように、目前の試合に勝つことは当然として、その上を目指して活動している。期間的に過去最長というだけでなく、23人に人数を絞り込んでの合宿は「選考」という要素が自然と薄まる。よりチームと個人を鍛え抜くことに主眼が置かれ、密度の濃い練習が行われている。

もっとも、「17得点」の余波は少なからず感じられた。「まだまだ子どもなので、そうなってしまう」と森山監督も苦笑したように、19日の前日練習では少々「ゆるみ」も観られた。紅白戦において控え組のFW山田寛人(セレッソ大阪U-18)にあっさり先制点を許したシーンはその象徴とも言うべき場面で、指揮官からは厳しい叱責の声が飛んだ。さらに練習後も選手を集めて、まさに「一喝」。前日には香港とモンゴルの試合を視察しており(5-2で香港が勝利)、相手のレベルが見えてしまったことによる悪影響もあったのだろう。

ただ、森山監督があらためて「お前らの目指しているところはどこだ?」と強調したように、目の前の相手だけを観て弛緩しているようでは「まだまだ」である。菅原主将が「監督に言われる前に自分たちで締まったムードにしていかなければいけなかった」と猛省していたように、「日本の15歳」は精神的にまだまだ発展途上である。怒られ慣れていないと言われる日本の若い世代だが、それだけにしっかり怒るべきときに怒ってくれる指導者との出会いは大きな意味を持つだろう。この積み重ねが、チームと個人をより強固なものにしていくに違いない。

スペイン人監督率いる香港

試合前日の練習を観る限り、香港戦はモンゴル戦から新たに中村敬斗(三菱養和巣鴨)が先発に加わるオーダーとなりそうだ。見据えているのが「先」とは言っても、この試合に勝てないようでは話にならない。「あくまで公式戦」と指揮官も、選手のテストの場にするつもりは毛頭ない。予選が終われば再び競争となるが、公式戦は勝つためのベストで臨むという発想だ。

対戦相手の香港は、かつてバルセロナのカンテラ(下部組織)で指導していたシャビ・ブラボ氏を監督に迎えてスペイン式のトレーニングを重ねてきているチーム。森山監督は「キチッと後ろからビルドアップしようという意識がある。日本の選手が苦手とするのはむしろ無秩序なチームなので、かえってやりやすいかもしれない」と言う。ただ、「昨年の最終予選のイメージがある。前半終わって0-0で、『これはヤバいぞ。点が入りそうにないぞ』という空気になった試合だった。ああやってガッツリ引いてくる可能性もある」とも述べて、あらためて気を引き締め直していた。

練習では複数人が連動しながらゴールへと迫っていく形を繰り返しトレーニングしてきた。誰かが落ちたら、誰かが突っ込む。シンプルで明確な連動性はモンゴル戦でもしばしば観られた。国内合宿ではパワープレーや3バックなど、どうしても点が欲しい場合のオプションも模索しており、準備は万端。「世界」を夢見る「日本の15歳」、その第一歩となるモンゴルでの戦いは、いよいよ終幕を迎える。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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